赤羽(Akabane)
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「ミソフォニア(音恐怖症)」とは?脳のデータをスキャンすると確かに異常が見られたようだ
ミソフォニアは、特定の人工的な音を聞くと激しい怒りや不快感が沸き起こってくるのが特徴で、その音を避けるようになる結果、社会的に孤立してしまうことがある。[筆者訳](#1)
ミソフォニアという言葉は、2010年に入ってから浸透し始めたもので、医学論文のデータベースで検索をかけても、それ以前のものはほとんどヒットしませんでした。それだけ歴史が浅いということですね。
特定の人工音は、例えば咀嚼音や咳・くしゃみ、舌打ち、鼻息なんかが代表的みたいです。この病気でなくとも不快に感じるものもありますが、ミソフォニア患者が感じる苦痛はその比にならないのだとか。
というわけで、この記事ではミソフォニアの認識をもっと広めるべく、最新の研究データを共有します。
ミソフォニア患者が特定の音を聞くと脳科学的にも異常な反応が起こった
2019年にアムステルダム大学が発表した研究(#1)では、44名(うち21名はミソフォニア患者)を対象に、様々な音を聞かせるという実験を行っていました。
実験では、前情報として参加者らのミソフォニア度合いやメンタルヘルスに関わる調査データを集め、それからfMRIで脳波を測定しながら以下の3パターンの映像を視聴してもらったようです。
- ニュートラル…無音の映像。男性が瞑想をしている、読書をしている、ノートをとっている、タブレットPCをいじっている等
- ミソフォニック…ミソフォニアが感情を揺さぶられる映像。男性がニンジンやグレープフルーツを食べている、PCのタイミング音、深い深呼吸等
- アヴァーシブ…ミソフォニアに関係なく嫌悪感を抱くような映像。コマーシャルフィルムから、暴力的・憎たらしいシーンを抜き取ったものを見せる
そして実験中の心拍数や、その後の感情に関する調査データも集めたところ、こんなことが分かりました。
- ミソフォニア患者は、ミソフォニックな映像に対して怒りや不安、悲しみ、嫌悪感が有意に増加しており、幸福感が下がっていた
- 一方で、ニュートラルやアヴァーシブな映像に対する反応には、参加者間で特に有意な差は見られなかった
- ミソフォニア患者は、ミソフォニックやアヴァーシブな映像を観ている時に心拍数が有意に増加していたが、疾患を持たない人では3パターンの間に有意な差はなかった
まとめると、ミソフォニア患者はやはり特定の音に対して敏感にネガティブな感情を示していた!という感じでしょうか。こうした結果は、同時に測定していた心拍数のデータからも裏付けがとれていますね。
また、脳波のデータを見てみると、【ミソフォニア患者 × ミソフォニックな映像】のパターンで、右島皮質・右前帯状皮質・右上側頭回が活性化していたことが判明しました。島皮質や前帯状皮質は情動に関する部位でもありますし、上側頭回は聴覚や音声処理に関わっています。このことからも、ミソフォニアの激しいネガティブ感情には脳の異変を伴うことが分かりますね。
注意点・まとめ
ただし注意点としては、まだ過去のデータが少なかったり、今回の実験もサンプルサイズが小さいので、統計的なパワーは弱いという点が挙げられます。fMRIはお金がかかるみたいなので、致し方ない感はありましょう。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- ミソフォニア(音恐怖症)とは、特定の人工的な音を聞くと激しい怒りや不快感が沸き起こってくる疾患
- 今回の実験では、ミソフォニアが嫌いやすい音を彼らに聞かせると、疾患を持たない人よりも顕著にネガティブな感情が沸き起こりやすく、心拍数も増加していることが分かった
- また、脳波のデータから情動に関する部位や聴覚や音声処理に関わる部位が活性化していることも判明した
赤羽(Akabane)
参考文献&引用
#1 Schröder, A., van Wingen, G., Eijsker, N. et al. Misophonia is associated with altered brain activity in the auditory cortex and salience network. Sci Rep 9, 7542 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-44084-8