赤羽(Akabane)
目次
道徳のあとの非道徳「モラルライセンシング」
モラルライセンシングという心理現象があるわけです。これは簡単に言うと、
- いいこと(道徳的行動)をした後だとちょっとくらい悪いこと(非道徳的行動)をしてもいいやと思ってしまう
このような現象のこと。例えば個人的なレベルだと、ジムに通ったあとはいつもより食べ過ぎちゃう、みたいな心理ですね。これが非道徳かと言うとちょっと違いますが、イメージとしてはザックリ「よくない」とされる行動だと思っておいてください。
→ポジティブなことををしたと思えてくる
→頑張ったし、ご褒美にちょっと奮発しちゃおう!
→スイーツなど高カロリーなものを食べる
大規模研究:モラルライセンシングは存在するか?どんな時に再現できるか?
2017年にウィーン経済大学が発表したメタ分析(#1)では、過去の106件にのぼる研究をまとめて、モラルライセンシングはどのくらい広く確認されているのか?どんな要素が結果に影響を与えるのか?を調べてくれています。
するとまず大まかな結果は、以下のようになりました。
- モラルライセンシングの効果は全体で中くらいだった!
この結果から、まずモラルライセンシングは割とあらゆるシチュエーションで起こると言えそうです。
ではどんな要素が効果に影響を与えるのか?もう少し詳しくみてみると、
- 比較グループの違い
- 文化や地域の違い
この2つの違いがインパクト大だったようで、結果のバラつきのおよそ23%を説明できるとのこと。要は実験のデザインや地理的な要素が大きく影響する、と。
例えば文化の違い一つとっても、
- モラルライセンシングは西ヨーロッパより北アメリカで強く見られた
- 東南アジア地域ではモラルライセンシングは逆に働いた
このような違いが見られたり。こうした違いが見られた理由について、研究チームはこう述べています。
何がモラルで、何がインモラルか?という感覚は地域や文化によって大きく異なる。例えば、北アメリカは西ヨーロッパと比べて「良い人であること」に対する価値観が強い傾向にある。こうした価値観の違いが、北アメリカでモラルライセンシングが強く見られた要因として考えられる。[筆者訳]
つまり、北アメリカは「いい人間であろう」とする価値観が強くて、その分善い行いをした時にモラルライセンシングの反動が大きいのかも?と考えられるんですね。
まとめ
ということで全体でわかったことをまとめると、
- モラルライセンシングはある程度一般化できる現象だった
- 地域別にみると、北アメリカ>西ヨーロッパ>東南アジアの順で効果が高かった(東南アジアでは逆の効果が見られた)
- 実験デザイン別にみると、比較グループが普通の行いをする場合より、道徳的に悪い行いをする方が効果が高かった
- 行動別にみると、社会的事情が含まれるもの(募金額とか)より自己都合のもの(カンニングとか)のほうが効果が高かった
- モラルライセンシングは善い行いをする以外にも過去の善行を思い出すだけでも引き出される
こんな感じでしょうか。ちょっと複雑ですが、この辺りは押さえておいた方がよろしいかと思います。
赤羽(Akabane)
参考文献&引用
#1 Philipp Simbrunner,Bodo B. Schlegelmilch,”Moral licensing: a culture-moderated meta-analysis“,Management Review Quarterly,August 2017, Volume 67, Issue 4, pp 201–225.