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マシュマロ実験に再現性の危機:「幼少期の自制心が将来の成功を予測する」が追試で否定されたみたいだ

マシュマロ実験に再現性の危機:「子どもの強い自制心が将来の成功を予測する」が否定されたみたいだ

赤羽(Akabane)

今回は「マシュマロ実験にも再現性の危機が訪れた!」というお話です。

マシュマロ実験の結果「子どもの強い自制心が将来の成功を予測する」が否定されたみたいだ

マシュマロ実験を振り返る

マシュマロ実験とは、1970年代前半にスタンフォード大学のウォルター・ミシェル教授が主導して行った実験で、ざっくり以下のような内容でした。

  • 子どもたちを対象に、目の前に置かれたマシュマロを研究者が戻るまでの15分間我慢できればもう一つマシュマロをあげるよという実験を行う(#1)
  • この実験の結果2個目のマシュマロにありつけた子どもは三分の一程度で、更に子どもたちの追跡調査を続けたところ、2個目のマシュマロまで我慢できた子どもたちはその後の学業成績が高かったり、大学進学適性試験(SAT)の点数が平均で210点高い事実が判明した
  • マシュマロ実験に参加した当時の子どもたちの脳をfMRIでスキャンした研究では、腹側線条体や前頭前部回路など注意力に関する部位の活性に違いが見られた(#2)

こうした実験結果を受けて、研究チームは「幼少期に目の前の誘惑に打ち勝つ自制心こそが将来の成功を予測している」と結論づけたんですね。

2018年、マシュマロ実験に再現性の危機

memo
再現性の危機…ひと昔前の研究で実証された結果が近年の追試によって再現できない!という事態が特に心理学研究界隈で起こっている
しかし2018年、カリフォルニア大学の教授らが発表した研究(#3)によると、マシュマロ実験の結果を再現することはできなかったようです。

この研究では、マシュマロ実験の再現性を検証するために、これまでの実験の問題点だった以下の3点をクリアしてします。

  • サンプルサイズが小さい:マシュマロ実験をしてからその後の成長まで追跡できているのは、数十名の子どもたちだけだった
  • 意図的に選ばれている:スタンフォード大学のコミュニティから限定的に選ばれている実験も少なくなかった
  • 将来の学業面の成功に影響する他の要素を調整できていない:自制心と将来の優秀さの相関以外の要素(家庭環境、経済状況など)も考慮に入れて分析する必要がある

サンプルサイズについては、厳密に言うとオリジナルのマシュマロ実験では600名ほどの子どもたちを対象にしていましたが、その後の学業成績まで追跡していたのはほんの数十名のみでした。

そこで今回の研究では、918名の子どもたちを対象に、生後54ヵ月時点でマシュマロ実験を行って、その後15歳になるまで追跡調査を行ったようです。具体的には、その後の数学や語彙力、読解力などのテスト結果や、子どもの行動、家庭環境・収入、母親の学歴などを重点的にチェックしたみたい。

すると結果は、こんな感じになりました。

結果
  • マシュマロ実験では、子どもたちは平均で3.99分待って、家庭環境や経済面で恵まれている子の方が平均の待ち時間は長かった(5.38分)
  • 母親が大卒の家庭では、マシュマロ実験で2個目にありつけたかどうか?の自制心の差によってその後の学業成績に有意な差は見られなかった
  • 母親が大卒でない家庭では、マシュマロ実験で2個目にありつけたかどうか?によってその後の学業成績に有意な差が見られた

まとめると、マシュマロ実験で自制心が強かった子どもは、やはりその後の学業成績が優秀であることが分かりました。

ただし、その裏には「子の家庭環境」「経済的な裕福さ」「認知機能の発達」辺りが深く関係していて、子どもの自制心というより家庭環境や社会経済的に恵まれていることの方が、その後の学業成績への影響がデカいんじゃないか?という可能性が示唆されたんですね。現に、3歳の時の家庭の収入や母親の学歴、認知機能の発達具合による影響を調整すると、子どもの自制心とその後の学業成績向上の相関がほぼ消えてしまうことが分かっています。

ではこうしたこのような結果になったのでしょう?考えられる説明としては、以下が挙げられます。

  • 貧しい家庭では食事や物などに恵まれない分、近視眼的に目先の欲望に負けやすい(先のために取っておくという考え方ができない)
  • 経済的に豊かで教育環境も整った家庭では、先の見通しを立てる機会や余裕に恵まれやすいうえに認知機能の早期発達も見込めて、目の前の誘惑に上手く対処できるようになる

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • マシュマロ実験のデザインが微妙に異なっていた:オリジナルが15分の待ち時間を設けていたのに対し、今回の研究では7分とおよそ半分だった
  • 自制心(セルフコントロール)の測定方法がバラバラ:過去のマシュマロ実験の中でもそうだが、何を以て自制心とするのか?の判断基準がバラバラなので、目の前の誘惑を我慢する能力なのか?それとも誘惑から上手に気を逸らす能力なのか?といった細かい部分は分からない
  • 大卒でない母親を持つ子のサンプルは少ない:大卒でない母親の子どもは少なかったので、この部分のデータは統計的に正確とは言い切れない

特に今後の追試では、自制心の測定基準を統一させる辺りは喫緊の課題ではないかと思いますね。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • マシュマロ実験は子どもの頃の自制心が将来の学業などにおける成功を予想することを報告した有名な実験
  • ところが今回の実験では、子どもの頃の自制心というよりも子の家庭環境や経済的な豊かさの方が重要な要素である可能性が示唆された
  • ただし今回の研究を含め、マシュマロ実験全体に課題はあるので、マシュマロ実験の再現性が完全に否定されたとは言えない

赤羽(Akabane)

細かく見ていきましたが、マシュマロ実験の再現性の危機はそれ程深刻ではないように思えます。大まかには、自制心の重要性はマシュマロ実験以外でも報告されていますし、今回の結果を受けて「自制心\(^o^)/オワタ」みたいに解釈されないようご注意ください(笑)

参考文献&引用

#1 Mischel, W., Ebbesen, E. B., & Raskoff Zeiss, A. (1972). Cognitive and attentional mechanisms in delay of gratification. Journal of Personality and Social Psychology, 21(2), 204–218.

#2 Casey BJ, Somerville LH, Gotlib IH, et al. Behavioral and neural correlates of delay of gratification 40 years later. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108(36):14998–15003.

#3 Watts TW, Duncan GJ, Quan H. Revisiting the Marshmallow Test: A Conceptual Replication Investigating Links Between Early Delay of Gratification and Later Outcomes. Psychol Sci. 2018;29(7):1159–1177.