自分は絶対間違っていない!が必ずしも正しいとは限らない理由

赤羽(Akabane)

今回は「自分は絶対間違っていない!」とは言い切れない理由についてのお話です。

プラシーボ効果にみる、人間の思い込み力の凄まじさ

まずは人の思い込みの筆頭、プラシーボ効果(偽薬効果)から。偽薬効果とも呼ばれるきっかけとなったのは、薬を使った実験が由来しています。その中でもコロンビア大学で行われたこんな実験(#1)があります。

  • ミネソタ大学の男子学生を対象に
  • エピネフリン(アドレナリン)か偽の効果がない薬を投与する

ザックリとこんな感じです。もっと具体的には参加者を4つのグループに分けまして、

  1. 1.エピネフリン投与して、薬の副作用(アドレナリンの効果)を正しくしっかり伝える。
  2. 2.エピネフリン投与して、薬の副作用(アドレナリンの効果)については伝えず、身体に優しく、副作用はないと伝える。
  3. 3.エピネフリン投与して、間違った情報を伝える。痒くなる、体のあちこちに痺れを感じる、少し頭痛がある、など。
  4. 4.プラシーボで、エピネフリンの代わりに食塩水を投与する。そして薬の副作用については何も伝えない。

こんな感じに分かれた様子。そして次に二つの状況を用意したようで、部屋で別の被験者を装ったサクラと二人で待機する運びに。

「幸せ」の状況

引き立て役が気さくに話しかけてきたり、手元の紙でバスケットボールゲームを始めて、一緒にやろうと言い出したり、紙飛行機を折って飛ばしたり。終始明るい雰囲気。

「怒り」の状況

注射後すぐにアンケートが渡され、その内容は徐々に侮辱的になっていく。「一番最近女性と寝たのはいつですか?」みたいな質問がジャンジャン攻めてくる。そしてそれに応じてサクラが怒りの感情を出していく。

要は、両方の状況で被験者がどう反応するか?をみたんですね。そしてその後、気分やサクラとの時間に関する4ポイント評価のアンケートに答えてもらって実験は終了。結果はというと、

結果
  • 自分が飲んだ薬による身体変化を知らないグループで、よりサクラのふるまいに大きく影響を受ける傾向が

つまり2と3のグループですね。これをそれぞれの状況に照らしてみると、

結果
  • 「幸せ」の状況..サクラの明るい振舞いに影響を受けてその後もより多幸感に
  • 「怒り」の状況..やはり怒りをあらわにするサクラにつられて負の感情を抱き、幸福度は低下

このような感じです。逆に一番影響を受けにくかったのは、1の薬の作用をしっかり把握しているグループでした。そしてもう少し詳しくみてみると、

  • 4のプラシーボグループと2のグループではポイントの差があまりなかった
  • 1のグループと3のグループを比較すると、身体の痺れや痒み、頭痛のアンケート項目の結果にあまり違いが見られなかった

こんな結果も出ていたり。アドレナリンを投与したのに食塩水の場合とアンケート結果が近かったのは面白いですね。一方で薬の説明の正しさはプラシーボ効果を引き起こさなかったみたい。

まとめると、思い込みは確かに存在する!という程度でしょうか。この実験から分かることは、大きく以下のポイントになるでしょう。

ポイント
  • 心境や身体の変化を正しく把握してないと、より周りの別の関係ない要素に影響を受けやすくなる。
  • 「幸せ」「怒り」など設定された状況に応じて本当に幸福に感じたり、怒りを覚えたりした。
  • プラシーボ効果が世間一般に認知されているような、「でたらめな薬を飲ませて病気に効果があると伝えれば本当にそうなる」みたいな効果はここでは見られなかった。

吊り橋効果にみる、脳の騙されやすさ

「吊り橋効果」とは、高いところで男女一緒にスリルを共有することで目の前の異性にドキドキを感じているんだと脳が錯覚を起こす現象のこと。

高いところは基本的に怖いですから、手のひらには汗が滲んで胸がソワソワするはず。この反応が恋愛をしている時に似ていて、脳が勘違いしてしまうんだという原理だそう。実際に、2つの橋を舞台にした実験(#2)がこの現象を調べておりまして、その二つの橋とは..

  • 低い橋..3mくらいで、ガードレールで舗装されている。
  • 高い橋..70mくらいで、急流とごつい岩の上にあって、手すりは低く、風も強い。

こんな感じ。そして橋の上で、魅力的な女性の試験官が通りがかる男性の旅行者に話しかけます。「私、ここで自然の景観が人間の創造性に与える影響について調べているの、君、良かったら参加してみない?」と。そして参加した男性には短いストーリーを考えてもらい、終了後には女性試験官は名前と電話番号を書いた紙切れを渡すという古典的なアプローチをします。すると結果は、

結果
  • 低い橋では1/8の男性が後で連絡をしてきた
  • 高い橋では1/2の男性が後で連絡をしてきた
  • 男性インタビュアーの場合は連絡率はどちらも低く、同じくらいだった

より高くてドキドキするような状況では、より多くの男性が女性試験官の電話番号に連絡をしたのです。これを、橋の上でのソワソワを恋心だと脳が勘違いしたからだ!と解釈しているんですね。参加者の数や女性インタビュアーが全男性にとって魅力的だったか、といった疑問から科学的な信頼性はそんなに高くないですが..。

脳の記憶パターンにみる、勘違いの起こりやすさ

「イメージ記憶」これは人間がどのように物事を記憶するかを表しています。人間は一眼レフの美しい写真のように物事を記憶するのではなく、頭の中のイメージを組み合わせて記憶していると言われています。

そしてこの記憶の過程で脳の勘違いが起こってしまうこともしばしば。

例えば、「ちぃちゃんの影送り」

小学校の国語の教科書で読んだことがあると思います。この物語の中で、登場人物たちが手を繋いで地面に映った自分たちの影を数秒見つめて、

「ぱぁっ」

というセリフと同時に空を見上げる描写がありましたね。すると自分たちの影が空に映るんですが、影は何色に見えましたか?

空に映る影、白いですよね。

これも実はイメージ記憶のせいでして、色の記憶に関しては補色の関係で打ち消して記憶するのだとか。(#3) 実際にこの図を使ってやってみましょう。

イメージ記憶を体験してみよう

林成之 著『<勝負脳>の鍛え方 』講談社現代新書より引用

真ん中の点を30秒ほどじっと見つめてから、壁や何もないところに視線を逸らしてみてください。図形の黒い部分が白く映るはずです。

赤羽(Akabane)

色々見てきましたが、要は人間の脳は勘違いを起こしやすくて、それに気づけないこともあるから、自分も気をつけなきゃいけない!ということ。私も論文を読むときはもちろん、人間関係でも結構気を付けるようにしております。具体的には「If Then プランニング」あたりで客観的に自分を見る習慣をつけると良さげです。

参考文献&引用

#3 林成之著『勝負脳の鍛え方』講談社現代新書、2006年。

#1,2 Sheena Iyengar ,「The Art of Choosing」,Twelve,2011.

#2 Donald G. Dutton  and Arthur P. Aron, “Some Evidence For Heightened Sexual Attraction Under Conditions Of High Anxiety”,Journal of Personality and Social Psychology ,Vol.30, No.4, pp510-517,1974.

#1 Henry K. Beecher, M.D., Boston,”The Powerful Placebo” JAMA, Vol.159,No.17,pp1602-1606,1955.

#1 Stanley schachter Jerome singer,”Cognitive, social, and physiological determinants of emotional state”Psychological Review, Vol.69,No.5, pp379-399.