赤羽(Akabane)
目次
バイリンガルには特に認知的なアドバンテージはない?
この記事では、上記テーマについて面白いデータを見ていきます。
1万1000人以上の調査結果!バイリンガルに認知的なアドバンテージはあるのか?
2020年にウェスタンオンタリオ大学が発表した研究(#1)によると、第二言語を話せるバイリンガルには認知的なアドバンテージは見られなかった!ということが判明したようです。
この研究では、11,041名(18~87歳)を対象に、以下のようなグループ分けにおいて計15種類の認知機能に関する項目を比べるという検証を行っています。
- モノリンガル: 母国語だけ話すことができる人
- バイリンガル: 母国語以外にも、第二言語を話すことができる人
*バイリンガルに関しては、具体的にどんな言語を喋れるのか?までチェック
12種類の認知テスト
- ダブルトラブル…ストループ課題のように、色と文字から来る情報を同時に処理するタスク
- 空間的プランニング…数字のついたビーズを順番に並べる
- オッドワンアウト…色や数、図形の形などで形成されたグループの共通点を見つけていくテスト
- 文法的合理性…文字通り、文章の誤りがあれば指摘していくテスト
- 特徴マッチング…2つの図形が表示され、それらが一致しているかどうかを答えるテスト
- ポリゴンテスト…2つの多角形がスクリーンの左側に表示され、右側の多角形と同じものを選ぶというタスク
- デジットスパンテスト…言語的なワーキングメモリの性能を測るテスト
- ローテーション…2組の色付き正方形が表示され、片方は回転している状態で、両者が一致するかどうか答える
- トークンサーチ…リサーチをする時の効率性を測るテスト
- ペア関連…図形の中に幾つかの箱が表示されていて、一つずつ順番に中身のアイコンが見え、どの箱と箱が一致するか?の組み合わせを答える
- 空間的スパン…紫色をした16個の箱があって、それらが一度に一つずつ緑に変色するのを、同じ順番でなぞっていく
- モンキーラダー…数字が書かれたボックスが複数表示され、その後数字の表示が消えた状態で、番号順に並べるタスク
+3種類の認知項目
- 記憶
- 言語
- 合理性
シンプルな比較ですね。そして結果を見ていくと、以下のようなことが分かりました。
- 認知テスト全体で見ると、どの項目でも両者に有意な差は見られなかった
- 参加者を全員引っくるめると、デジットスパンテストのスコアがバイリンガルで有意に高かったが、効果量にして0.1程度で大した効果とは言えない
- バイリンガルかモノリンガルか?という点よりも、テスト全体で年齢の影響の方がずっと大きかった
この結果が示唆するのは、バイリンガルだからといってこれといって認知的なアドバンテージはない!ということ。それよりは、年齢による影響の方が大きいという、ごもっともな結果になりました。
また、バイリンガルであることで老化による認知機能の低下を食い止められるか?という点も調査してくれていましたが、この点でも両者で目立った差はなし。どちらにしても残念な結果となりました。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ざっと以下の点は押さえておくとよろしいかと。
- 結果はかなり不安定: リグレッションテストの組み合わせによっては、幾つかの項目で有意な効果が出たりしたため、偽陰性(本当は効果があるのにナシと出てしまうこと)の可能性もある
- データはイギリスの調査データ一箇所から集められた: 他の国や文化圏でも同様の結果になるか?は分からない
*リグレッションテスト…何か一つ、結果に影響を与えうる要素を調整して分析することで、元々の結果にどんな変化があるのか?を検証する統計手法
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- バイリンガルはモノリンガルと比べて、特に認知的なアドバンテージはなかった
- そこよりは、認知機能に関しては年齢の影響がずっと大きいことがわかった
- ただし、分析の組み合わせによっては効果が出たり出なかったりしたようで、安定した結果とは言えないかも
赤羽(Akabane)
関連記事はこちらもどうぞ
ビッグ5性格診断にみる「ボキャブラリーを流暢に操れる人」の特徴とは?参考文献&引用
#1 Nichols ES, Wild CJ, Stojanoski B, Battista ME, Owen AM. Bilingualism Affords No General Cognitive Advantages: A Population Study of Executive Function in 11,000 People. Psychol Sci. 2020;31(5):548-567. doi:10.1177/0956797620903113