赤羽(Akabane)
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立場の弱い人でも交渉に強くなる方法、それは「代わりはいくらでもあるさ」の精神。
当サイトでは、交渉に必要なテクニックやマインドセットなどについても、過去に詳しく書いています。
この記事では、それに加えて「もし立場が弱い状況だったら、どうやって交渉を上手く進める…?」というデータを見ていきます。
他に希望がない状況でも交渉を有利に進めるには「メンタル・スティミュレーション」の精神が大事?
2018年にシンガポール・マネージメント大学が発表した研究(#1)によると、「目の前の交渉よりも魅力的な他の選択肢がある!」と頭の中でイメージするだけで、交渉をより有利に進められるようになることが分かったようです。
*以下、このテクニックを「メンタル・スティミュレーション」と呼ぶ
この研究では、【交渉では「ここを落としたら大ダメージになる..」という1つの交渉にすがるような想いがプレッシャーや絶望となり、決断やパフォーマンスを鈍らせてしまう】という前提を基に、大きく7つの実験を行っています。
実験のザックリしたテーマはこんな感じです。
- そもそも、メンタル・スティミュレーションを使うと交渉にとって本当に有利なのか?
- メンタル・スティミュレーションをする際は、目の前のものより魅力的な選択肢をイメージした方がいいのか?
- メンタル・スティミュレーションを使っても効果が出なかったり、かえって逆効果になるようなことはあるのか?
*実験の例…91名の交渉のプロを対象に、2人組のペアを組んで交渉を行ってもらう。片方が雇用者、もう片方が非雇用者で、賃金や休暇、ボーナスなどについて、それぞれに設定された目標に向けて交渉を行い、目の前の交渉を成立させる以外の代替案はないものとする。(つまり決裂したら成果はゼロ)
つまり、弱い立場、すなわち「1つの交渉先にすがる他ない」状況に立たされている時、せめて頭の中でだけでも「この交渉先がダメでも、他にも幾らでも選択肢はあるじゃないか..!」という思い込みをすれば効果があるのでは?という仮説を検証しているんですね。
すると上記の実験の結果は、以下のようになりました。
- 交渉前にメンタル・スティミュレーションを使った場合、自身の基準を満たす交渉を成立させる傾向が見られた
- 上記の効果を得るためには、代わりの選択肢に「目の前の交渉よりも魅力的なもの」を思い浮かべる必要があった
- ただし、①自分が最初に交渉の基準を提示できなかった時、②交渉相手もメンタル・スティミュレーションを使っている時、③調停が難しい交渉の時、にはメンタル・スティミュレーションが効かなかったり、かえって逆効果になったりした
まとめると、研究チームが睨んだ通り、「目の前の交渉よりも魅力的な代わりはいくらでもある!」と考えた人は、交渉時に自分の希望を一貫して伝える姿勢を見せていたり、交渉を有利な方向に成立させることができていた!と。
ではどうしてこうなったのでしょう?実験を通して分かったのは、他の魅力的な代わりを思い浮かべることで、目の前の交渉に対して希望が持てるようになったり、結果として最初の交渉ラインの提案も思い切って主張することができていたということ。こうした強気な姿勢が、より有利な交渉の成立に繋がったんじゃないか?と。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- 交渉の文脈はバラバラ: 最初に交渉基準を提案するタイミングが実験によって違っていて、この辺りの違いが結果にどう影響するのか?までは調べられていない
- 参加者のほとんどが交渉のプロだった: 一般の素人や、他の文化圏の人でどこまで同様の結果が得られるか?は分からない
- 条件によっては逆効果になることがある: 上記にあるように、一部の条件でこのテクニックが効かなかったり、逆効果になることもある
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 立場の弱い人でも交渉に強くなる方法、それは「魅力的な代わりは他にもいくらでもあるさ」の精神。(以下、メンタル・スティミュレーション)
- 今回の実験では、メンタル・スティミュレーションを使ってより魅力的な選択肢をイメージした交渉人は、交渉をより有利に成立させることが出来ることが分かった
- ただし、①自分が最初に交渉の基準を提示できなかった時、②交渉相手もメンタル・スティミュレーションを使っている時、③調停が難しい交渉の時、にはメンタル・スティミュレーションが効かなかったり、かえって逆効果になったりした
赤羽(Akabane)
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#1 Schaerer M, Schweinsberg M, Swaab RI. Imaginary alternatives: The effects of mental simulation on powerless negotiators. J Pers Soc Psychol. 2018;115(1):96-117. doi:10.1037/pspi0000129