赤羽(Akabane)
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「畏敬の念」は感じ方次第では逆にストレスを高めてしまうらしい
まず「畏敬の念って何?」というところをおさらいしておきましょう。
畏敬の念とは?
簡単に言うと、「すごい…」と言葉を失うくらい敬意と感動を覚える感覚です。例えば、畏敬の念に関する研究では次のように定義されています。
畏敬の念は驚きや歓喜、悟り、高まり、尊敬、感謝といった気持ちを伴う。[筆者訳](#1)
そして、この「畏敬の念」が強い人ほど幸福度が高い!(#2) という傾向がこれまで確認されています。
「畏敬の念」はプレイヤーの使い方次第で諸刃の剣にもなるみたい
では以上を踏まえて本題へ。「畏敬の念」が感じ方次第とはどういうことなんでしょうか?
この問題について参考になるのが、2019年にニューヨーク州立大学が発表した研究(#3)で、何やら「畏敬の念」は感じ方次第では逆にストレスを高めるみたいです。
この研究では、まず「畏敬の念」について以下の2種類の感じ方があると定義しています。
- 自己眺望型:自分から一歩距離を取って第三者の客観的な視点で物事を見るタイプ
- 自己没入型:一人称(私)の自分視点に集中して物事を見るタイプ
これらは我々のモノの捉え方の違いを表していて、例えば強いストレスを感じる場面に対しても、次にように違う反応を見せるでしょう。
- 自己眺望型:おっ、今緊張しているんだね、心臓の鼓動が速くなってる。それだけ真剣に向き合ってるってことだね。(第三者視点で客観的に)
- 自己没入型:あぁ、何だか緊張してきたぞ…みんな見てるし息が苦しいぞ…ちゃんと上手く喋れるかな。(自分視点で主観的に)
でこれを踏まえて、182名の男女(うち女性81名)を対象に、次のような流れで実験を行いました。
- 自己眺望タスク…最近自分に起こった、親しい人に否定された腹立たしい出来事を思い出す。そしてその出来事に対してどれだけ自己眺望的/自己没入的な視点で見ているか?をチェック
- 心血管モニターを取り付ける…ストレスに対する反応を生理的な面でチェックするために心血管をモニターする装置を着ける。ストレスに対して、どの程度「挑戦し甲斐がある/乗り越えられない」と感じているかを見たようだ
- 畏敬の念を発動させる…自然に関するビデオをただ観てもらう。ここで、畏敬の念が湧くビデオと、普通のビデオの2種類用意して、参加者をランダムに割り当てる
- スピーチタスク…今抱えている問題や人生の障害について2分間のスピーチを行ってもらう。更に評価される旨も伝えて、参加者にプレッシャーを与えたようだ
要は、参加者ごとのモノの捉え方をチェックしたうえで、畏敬の念を発動させてからストレスを感じるスピーチテストをしてもらって、その間のストレスを生理反応で測定する、と。ストレス反応をアンケートじゃなくて生理反応で確認している点はナイスです。
そしてこうした実験の結果、こんなことがわかったようです。
- 自己眺望型傾向が強い人は、畏敬の念が湧くとストレスをより挑戦し甲斐があると捉えた
- 自己没入型傾向が強い人は、畏敬の念が湧くとストレスをより脅威に感じて乗り越えられないものと捉えた
つまり、畏敬の念を感じた後のストレスは、その人がどのくらいモノを第三者視点で客観視できるかで変わったと。これは面白いですね。
ちなみに、畏敬の念を感じない自然の映像ではこのような結果は確認されなかったようで、自然のビデオが種類によってちゃんと効果を発揮できていることも確認済みだったみたい。
注意点・まとめ
では最後に今回のまとめです。
- 「畏敬の念」は我々のモノの捉え方次第でストレスへの反応を変える
- ネガティブな物事も客観視できる人は、畏敬の念でストレスへの反応がポジティブになる
- 逆に物事を一人称で主観的に捉える人は、畏敬の念でストレスへの反応が脅威に変わった
こんな感じでしょうか。「畏敬の念」は我々の使いよう次第、ということでおひとつ。
ただ今回の研究は規模的にまだ初歩段階で、「ストレス」はスピーチテスト以外にどこまで広く一般化できるか?とか、最初のモノの捉え方のアンケートも基準として適当なものだったか?みたいに課題は残ります。この辺りは今後の研究を期待しましょう。
赤羽(Akabane)
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【神、自然、カリスマ】畏敬の念が強い人はどうして幸せなのか?参考文献&引用
#1 Huanhuan Zhao, Heyun Zhang, Yan Xu, Wen He, and Jiamei Lu. Why Are People High in Dispositional Awe Happier? The Roles of Meaning in Life and Materialism. Front Psychol. 2019; 10: 1208.
#2 Lyubomirsky, S. (2001). Why are some people happier than others? The role of cognitive and motivational processes in well-being. Am. Psychol. 56, 239–249.
#3 Phuong Q Le, Thomas L. Saltsman, Mark D. Seery, et al. When a small self means manageable obstacles: Spontaneous self-distancing predicts divergent effects of awe during a subsequent performance stressor. Journal of Experimental Social Psychology, Volume 80, January 2019, Pages 59-66.