「引きこもり」の科学的な理解を深めるための体系的なレビュー研究

「引きこもり」の科学的な理解を深めるための体系的なレビュー研究

赤羽(Akabane)

今回は「引きこもりを科学的に分析してみたら…?」というお話です。

「引きこもり」の科学的な理解を深めるための体系的なレビュー研究

「引きこもり」は日本で生まれた言葉で、英語表記でも「Hikikomori」と書きます。世間一般の解釈としては、「家に”引きこもって”出てこない」「働かず不登校」みたいなイメージかと思います。

一方で、引きこもりに関する科学的な研究も徐々に進んでいて、世間一般の解釈からは更に進んだところまで見えている様子。引きこもりは立派な社会問題ですし、世間の解釈が本質とずれていたり浅かったりすると、どうしても問題の解決に至るのは難しそうです。

そこでこの記事では、引きこもりについて科学的な理解を深めよう!ということで、2019年に九州大学とアメリカの研究機関が発表したレビュー研究(#1)を参考に、ザっと以下のテーマに沿って見ていきます。

  • 引きこもりの最初の定義とは?
  • 引きこもりの原因とは?
  • 引きこもりのアップデータされた定義とは?
  • 引きこもりの問題点とは?
  • 引きこもりの国内外での変遷は?

引きこもりの最初の定義とは?

まずはそもそもの定義ですが、引用するとこんな感じです。

学校や職場といった集団生活から離れ、数日~数か月にわたって、一日のほとんどを家で過ごす人のことを、日本では「引きこもり」と言う。[筆者訳](#1)

ここは世間一般の解釈と大体合っているようです。ただ、この概念を最初に提唱したとされる、筑波大学の精神科医・斎藤環氏の定義では、「6ヵ月以上」という詳しい期間が設定されているみたいですね。

また、引きこもりはあらゆる精神疾患や脳機能障害と関わりが見られていて、うつ病や不安障害、自閉症スペクトラム障害、PTSD、統合失調症、気分障害、パーソナリティ障害など様々。どうやら、それぞれの診断項目と引きこもりの項目に少なからず一致する部分があるみたい。

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例: 回避性パーソナリティ障害の「他人からの拒絶を恐れる」側面

ただ、引きこもりの定義としては、必ずしもこうした疾患の併発を含まないようで、この辺りの線引きは現状でもまだ曖昧だということです。

引きこもりの原因とは?

次に引きこもりの原因をざっと3つに分けて見ていきます。(*下記分類は私の判断です)

  • 精神的問題: 上記のメンタルヘルスに関わる疾患など
  • 社会&文化的問題: 日本に古くからある「隠遁生活」のような自主的な社会からの隔絶もあれば、「専業主婦」や「お手伝いさん」のように、家事などをこなすために終日家に籠るケースもある意味で引きこもりと言える
  • 生理的問題: 体内の酸化ストレス、慢性的な炎症、ミクログリアなどによるダメージ

つまり、一口に引きこもりと言っても、その対処法はAさんとBさんでは全く違うかもしれないということ。この辺りは、背景に抱えている問題がどれに分類されるのか?をまず大まかに特定する必要がありそうです。

引きこもりのアップデータされた定義とは?

そして以上のような原因を踏まえて、最近では以下のような定義の刷新があったようです。

引きこもりの必須項目

  • 家に籠って社会的に孤立している
  • その状態が少なくとも6ヵ月以上続いている
  • 社会的孤立に伴って何等かの機能障害やストレスを抱えている

引きこもりの追加項目(必須ではないが種類の特定に役立つ)

  • 社会活動にどのくらい参加しているか…頻度によって引きこもりレベルが変わってくる
  • 他人との直接の関わりをどのくらい持っているか…頻度によって引きこもりレベルが変わってくる
  • SNSやオンラインコミュニティを通した間接的なコミュニケーションをどのくらいしているか…直接のコミュニケーションとの割合などをみる
  • 孤独を感じているか…引きこもり年数が増えるほど高い傾向がある
  • 合併症があるか…上記で挙げたような精神疾患、脳機能障害などをみる
  • 引きこもりになった時の年齢…大半は若いうちに発症するが、30代以降に発症するケースも少なくない
  • 家族構成とその変遷…例えば、過保護な親や育児放棄の親に育てられた場合、引きこもりの発症と関わりがあることが分かっている
  • 文化的な背景…国や文化によって引きこもる事情が違ってくるため、その部分もみる
  • 何等かの治療や介入を受けているか…引きこもりに特化した具体的な治療は確立されていないようだが、合併症があった場合に、その治療によって引きこもりも改善するか?などをみる

先ほど書いた色々な原因について、新しい定義では追加の項目でしっかり拾えるようになっています。この辺りの条件によって、その人の引きこもりがザックリとどんな種類なのか?を突き止めていく感じです。

引きこもりの問題点とは?

次にひきこもりの問題点を、本人と社会全体の二つの観点に分けて見ていきます。

本人の問題

  • メンタルヘルスが悪化する
  • 社会との関わりが薄れて頼れる人がいなくなる
  • 高齢化するほど孤独死のリスクが高まる

社会全体の問題

  • 国の教育水準や労働力が低下する

引きこもりの国内外での変遷は?

最後に、引きこもりは日本で早々に浸透してから、ここ10年程で世界各国にも広まっているようです。この辺りに関する詳しい知見を以下にまとめておきます。

  • 「引きこもり」という言葉は、90年代後半あたりに筑波大学の精神科医・斎藤環氏が最初に提唱したものとされる
  • 2010年には、オックスフォード英語辞典にも「Hikikomori」として掲載されるようになり、次第に世界全体で似たようなケースが報告されるようになった
  • WHO(世界保健機関)が2002~2006年の間に日本で行った、15~49歳を対象にした疫学調査によると、全体の1.2%が半年以上も引きこもっていることが分かった
  • 2016年の日本の内閣府による生活状況調査によると、15~39歳の引きこもりは54万人にものぼっていることが分かった
  • 2019年の日本の内閣府による生活状況調査によると、40~65歳の引きこもりは61万人にものぼっていることが分かった

数にしてみると、想像よりも多くの人が引きこもっていることが分かります。かつては、子どもの「不登校」と結びつきやすいイメージでしたが、最近では年齢も関係ないみたいですね。

注意点・まとめ

以上、引きこもりの科学的な考察でした。現状では、まだ引きこもりに特化した介入法などの堅牢なエビデンスは出てきていませんが、定義についてはより理解が深まっている印象です。

ただし注意点もあって、生活状況調査などのアンケート調査では、そこまで詳しい質問をしているわけではないようで、たった2~3問で引きこもりかどうか判断してしまっている節もあるのだとか。この辺は、データの正確性が多少落ちるかもしれません。

赤羽(Akabane)

引きこもりについては、実用性が担保されている診断テストも開発されています。興味のある方は、以下もお試しください。

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全25問!ひきこもり度をチェックする診断テスト「HQ-25」全25問!ひきこもり度をチェックする診断テスト「HQ-25」

参考文献&引用

#1 Kato TA, Kanba S, Teo AR. Hikikomori : Multidimensional understanding, assessment, and future international perspectives. Psychiatry Clin Neurosci. 2019;73(8):427‐440. doi:10.1111/pcn.12895