「心理的デブリーフィング」はトラウマを悪化させる~東日本大震災時の臨床心理士の過ち~

2019年4月17日その他ストレス対策, 考察編

 

心理的デブリーフィング

心理的デブリーフィング 暴露療法

参考図書『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』より一部引用。

トラウマ的な出来事を体験した後に、その出来事を想起させたり、追体験させたりすることによって、カタルシスを促進させることが、PTSDの予防につながると考えられている。

こういう理屈で、「心理的デブリーフィング」は重度の精神ダメージを負った人たちの治療に効果があるとされてきました。例えば、記憶に新しい東日本大震災。こんなことがあったと言われています。

東日本大震災の後、トラウマケアのため多くの臨床心理士が被災地に赴いた。その熱意と努力には大きな敬意を表したい。しかし、その際、津波の被害を受けた子どもたちに、被災地の絵を描かせたケースがあり、その結果子どもたちが悪夢にうなされたり、情緒的に不安定になったりするなどの悪影響をもたらしたというのである。

これは「アートセラピー」と称されていますが、紛れもない一種の「心理的デブリーフィング」です。どうしてこうなったのでしょうか。それは効果があるとされる暴露療法と混同されがちだという点も原因としてはあり得るでしょう。

心理的デブリーフィングは、トラウマに曝露させるという点で暴露療法と似ているが、暴露療法の場合は、リラクセーションなどを行って情緒的な安定状態との連合を図るなどの手続きを行う点が大きな相違点である。

つまり、効き目はある分多少荒療治ではあるので、同時にメンタルケアを怠ってはいけないということ。
 

 

信頼性の高い研究でバッサリ否定される

上で紹介した「心理的デブリーフィング」ですが、コクランレビューから出た信頼性の高いメタ分析(#1)ではその効果についてバッサリ否定されています。このメタ分析の結果としては、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療法として全く効果がないどころか、逆効果だったことが分かりました。中身をザっと見てみると、
 

  • 6つのランダム化比較試験(RCT)を選出
  • 総参加者は1745名、重度のトラウマ経験後病院搬送された人など
  • 心理的デブリーフィングを参加者に対して行う
  • その後の経過を様子見する

 
なかなか研究の信頼性は高め。心理的デブリーフィングを行ったのは一度きりで、その後の経過を観察するという流れになります。すると結果は、

 

  • 1年経過時点で、1つの研究では心理的デブリーフィングを受けた人々はPTSDが悪化するリスクが2.5倍高まった
  • 1ヵ月~3年経過しても、心理的デブリーフィングによって何も体調の変化はなかった

 

とかなり心理的デブリーフィングに不利な感じに。結論、PTSDなど重度の精神的苦痛を負った人に「心理的デブリーフィング」を使うのはよろしくなさそう。効果が見込めないどころか、逆効果になる恐れもありそうです。

 

参考文献&引用

# 原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』金剛出版、2015年。

#1 Rose SC, Bisson J, Churchill R, Wessely S,”Psychological debriefing for preventing post traumatic stress disorder (PTSD) (Review)“,Cochrane Database of Systematic Reviews,2002.