赤羽(Akabane)
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「返報性の法則」が使えなくなる一例が報告されていた
ではまず「返報性の法則って何」というところからおさらいしていきましょう。
そもそも「返報性の法則」とは?
返報性の法則は簡単に言うと、恩義を受けたら返さずにいられなくなる心理のこと。
皆さんも、他人に何かをしてもらったら「しっかり恩を返さなくちゃ」と思いますよね。誰かにプレゼントを貰ったときもそうですし、何か借りを作った時にもこんな気持ちになるかと。
例えば最も有名なのが1971年の実験(#1)で、同じ部屋に居合わせた参加者にコーラをあげるだけで、なんとその後「くじ付き抽選券を好きな枚数でいいから買って欲しい」という申し出に対して、買ってくれる抽選券の枚数が増えた!というお話もあるんですね。
こうした現象が色々な状況で確認されて、瞬く間に「返報性の法則」は一般的なルールにまで出世しました。
「返報性の法則」は時間とともに効果が弱まるだと?
では本題に入ります。ここでは「返報性の法則」って時間の経過で使えなくなるんじゃない?という面白い研究についてのお話をします。
これは2018年にペンシルバニア大学が発表した研究(#2)で、8つの病院のネットワークを使って18515名の外来患者(平均64.19歳)を対象に、82231件の来院データを調べたもの。
で患者らから寄付を募るメッセージをメールで受け付けていて、初来院から4か月以内(中央値68日)でこれが一斉に送信されたようです。つまり、寄付メールのタイミングは同じで入院のタイミングだけ患者ごとに違うということですね。
こうして、病院への恩でどのくらい寄付するか?寄付のタイミングで寄付率はどう変わるのか?を見ていった、と。すると結果は次のようになりました。
- 寄付のリクエストが遅くなるほど寄付率が下がった
- 30日遅れると寄付してくれる確立が30%ほど下がった
なんと「返報性の法則」は時間の経過でどんどん効かなくなっていくみたいです。
でこの研究はこれで終わりではなくて、3名の大学病院のパートナーにあたるお医者さんから、症状がより重い1000名以上の外来患者のデータを割り出してもらっていました。
症状が重い=それだけ病院に恩や感謝の気持ちが強い、と考えて、こうした重症患者だと時間の経過で寄付率はどう変わるか?を見たんですね。
するとここから分かったのが、
- 重症患者だと「返報性の法則」が時間の経過で更に効きづらくなる
こんな結果でした。つまり、恩や感謝を強く感じている場合には特に「返報性の法則」は熱しやすく冷めやすい、と。
注意点・まとめ
ただし注意点もありまして、
- 対象は病院の外来患者だけ
- 患者らの収入状況までは把握できていない
この辺りは押さえておくとよろしいかと思います。
今回は病院の外来患者のみでしたが、一応過去にも「見知らぬ人にソーダをあげる実験(#3)」で返報性が時間の経過で弱まる現象が報告されていて、程度は違うものの割と一般化できそうな感じはしますが。
では以上を踏まえて今回の研究をまとめます。
- 恩を受けたら返さずにはいられない心理「返報性の法則」
- 病院を舞台に、時間の経過とともに効果が弱まることが判明
- 寄付リクエストが30日遅れると30%ちかく寄付率が下がるようだ
こんな感じでしょうか。状況でかなり度合いは変わりますが、返報性の法則は時間とともに弱まることは共通して言えそうです。
赤羽(Akabane)
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参考文献&引用
#1 Dennis T.Regan. Effects of a favor and liking on compliance. Journal of Experimental Social Psychology, Volume 7, Issue 6, November 1971, Pages 627-639.
#2 Amanda Chuan, Judd B. Kessler, and Katherine L. Milkman. Field study of charitable giving reveals that reciprocity decays over time. PNAS February 20, 2018 115 (8) 1766-1771.
#3 Burger JM, Horita M, Kinoshita L, Roberts K, Vera C. Effects on time on the norm of reciprocity. Basic Appl Soc Psych. 1997;19:91–100.