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森林浴が健康に良いことが確定した件。
森林浴といえば、木々のざわめぎ、小鳥のさえずり、土の独特の匂い。なぜか居心地がよくてリラックスできますよね。都会のコンクリートジャングルに暮らす現代人にとっては特にオアシスとも呼べる場所。
私自身も「どうして森に行くと落ち着くんだろう?」とずっと疑問でしたが、この答えが2017年に日本の教授らが主導したメタ分析(#1)によって明らかになったようです。
森林浴で自律神経がリラックス&高血圧も改善!というメタ分析
研究の要点はこんな感じでした。
- 4つの電子データベースから最終的に20の試験を選出
- 試験の大多数は日本、中国、韓国で行われた
- 参加者の総数は732人
- 年齢は18~80歳
- 性別については男性のみ、女性のみ、男女混合、様々な研究を総合
「森林浴」は日本発祥で世界中で有名となったのですが、やはりその分日本が舞台となった研究が多めです。ちなみに結果は次のようになりました。
- 心臓拡張、収縮期どちらの血圧も森林浴をしたグループのほうが下がった
- 心拍数と脈拍数どちらも森林浴グループのほうで落ち着きが見られた
- 森林浴中に散歩をするか歩かないか、では大きな違いは見られなかった
- こうした森林浴の効能は参加者が高齢になるほど強かった
この結果を受けると、森林浴で血圧が下がって脈拍や心拍数も落ち着くのは間違いなさそうです。実際に他の幾つかの引用研究でも「森林浴で自律神経が落ち着いてリラックス効果が期待できる」という結論が出ています。これが血圧の低下につながるのかもしれませんね。
他の要素として、森林浴中の散歩では結果があまり変わらなかったことから”肉体的な運動”は森林浴の健康促進効果とは関係がなさそうです。別の可能性については最後に紹介します。
年齢については、年齢が直接森林浴の効果の増大に関係している、というよりも「年齢に応じて血圧が高くなることが森林浴の効果の増大につながっている」と考えられています。つまり高血圧の人ほど森林浴の恩恵をたくさん得られるということですね。
高血圧を改善することはIHD(虚血性心疾患)やCHD(冠状動脈疾患)などの心臓疾患のリスクを下げて早死にのリスクも軽減することに繋がるというデータも引用されていますし、❝森林浴❞は長生きのためにできる手っ取り早い活動ではないでしょうか?
今後の森林浴研究の課題
しかし森林浴研究の今後の課題として、森林浴の長期的な効果の検証が挙げられています。上で紹介した20の試験のほとんどは一日以内の研究結果なので数週間といった長期的な効果はまだはっきりとしていません。
ちなみに20の試験の中で1つ、3日間の森林浴プログラムを行った実験(#2)があって面白い結果が出ています。この研究の概要は以下の通りです。
- 56人の60歳前後の高齢男女、ステージ1の高血圧か高血圧前症の人たち
- 血圧と唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)量の計測、日常生活について問うアンケート
- プログラム開始時、8週間経過後に血圧、唾液中のコルチゾールを計測、アンケートをやってもらう
- 血圧に関してはプログラム初日から8週間目まで被験者それぞれで決まった時間、方法で計測していく
- 「森林浴療法プログラム受ける」グループ、「受けない」グループに分類、(※ランダムではなく被験者らの好みが混じっている)
- 上のプログラムを3日にわたって実施、その後8週間目まで様子見は続く
- プログラムの概要は「高血圧への対処の知識学習」「健康のセルフケアへの自信を高める」「長期間の治療を意識したライフスタイルの確立」
被験者は高齢者で血圧が比較的高い人たちですね。気になるのが、グループ分けをランダムに振り分けていない点ですが、これについて研究チームは「森林療法プログラムで参加者の意向を無視して望まないグループに振り分けることは好ましくない」と説明しています。
当然これではバイアスがかかりやすくなりますが、これによって得られた結果もリアルな効果として今回は報告すると明記されていました。さて、2つのグループの違いは簡単に言うと「プログラムを受ける場所が森林かどうか」ですね。結果は次のようになりました。
- 「森林浴療法プログラム受ける」グループ、「受けない」グループ両方で血圧の低下は見られた
- 森林浴療法プログラム直後の心臓収縮時血圧は特に大きく低下していた
- 唾液中のコルチゾールも両者で下がっていた
- 「森林浴療法プログラム」グループのほうが大きく低下、「受けない」グループでは緩やかな低下だった
- アンケートの結果は「森林浴療法プログラム」グループで大きな改善がみられた
- 中でも高血圧に関する分野と精神面を問う分野で大きく改善
- 4週間後、8週間後の血圧は両グループとも最初の計測値にほぼ戻った
「森林浴療法プログラム」グループで軒並み大きな改善が見られました。また面白いのが森林浴の効果が長続きしなかったというところです。もしかしたら長期の効果を得たいのなら定期的に森に行く必要があるのかもしれません。
この研究にはランダム化比較がされていなかったり、サンプル数が少なかったり、3日間のプログラム終了後の参加者のライフスタイルも追っていなかったようなので単体で見れば信憑性にいまいち欠けますが、「森林浴の効果が長続きしない」可能性を示した点では面白い研究だと思います。
Let’s 森林浴!
現時点では、森林浴の長期的な効果を得るには定期的に木々に囲まれた大自然と触れ合う機会を作ることが必要みたいですね。ですがすっかりシティーボーイ/ガールが板についてしまったり、仕事の都合でなかなか自然をマイフレンドにできないよ、という人もいると思います。そこでそんな方に朗報が。
「都会のホテルで森林の成分を使ってみたら見事森林浴の結果が得られた!」という研究がありまして、試す価値はあると思います。ご参考までに。
参考文献&引用
#1 Yuki Ideno,Kunihiko Hayashi,Yukina Abe,Shosuke Suzuki,”Blood pressure-lowering effect of Shinrin-yoku(Forest bathing):a systematic review and meta-analysis“,
#2 Sung J,Woo JM, Kim W, Lim SK, Chung EJ,”The Effect of cognitive behavior Therapy-based “Forest Therapy”program on blood pressure,salivary cortisol level, and quality of life in elderly hypertensive patients.”Clin Exp Hypertens,Vol.34,pp1-7,2012.