【危険因子】牛肉や卵に含まれる物質を腸内細菌が代謝した「TMAO」とは?魚を食べると一番増えるって本当?

牛肉や卵に含まれる物質を腸内細菌が代謝した「TMAO」とは?魚を食べると一番増えるって本当?

赤羽(Akabane)

今回は「最近話題のTMAOって何?」というお話です。

牛肉や卵に含まれる物質を腸内細菌が代謝した「TMAO」とは?魚を食べると一番増えるって本当?

早速ですが、まずTMAOについて詳しく見ていきましょう。

「TMAO(トリメチルアミン-N-オキサイド)」とは

これについては2017年にトロムソ大学が発表したレビュー研究(#1)から一文を引用します。

TMAが、腸内細菌の働きによって、コリンやカルニチンなどから酵素反応的に作られ、その後肝臓でTMAOに代謝される。[筆者訳]

コリンやカルニチンは動物性の食品に含まれていて、赤肉や卵にも豊富です。でTMAOは体内でアテローム硬化などを引き起こして、結果的に循環器系疾患のリスクを高めることになっているんじゃないか?と睨まれているんですね。

また他には、魚もTMAOレベルを高める筆頭として挙げられています。というのも、魚の体内には遊離TMAOが存在していて、食べるとやはり体内のTMAOレベルを高める!と。特に軟骨魚類、深海真骨類に多いようですね。

ただそうなると、魚をよく食べれば循環器系疾患リスクが下がるというこれまでの研究結果(#2)に相反することになります。

本当に魚はTMAOレベルを高めるのでしょうか?そうだとすれば、どのくらいのものなんでしょう?実際のデータを見てみましょう。

魚 vs. 肉 vs. 卵 vs. 果物!最もTMAOレベルを高めるのは…?

この問題については、2017年にコーネル大学が発表したRCT(#3)が参考になります。

この実験は40名の健康体の若い男性を対象に、「肉」「卵」「魚」「果物(比較グループ)」を食べるグループに各々分かれて食事をしてもらうというもの。

さっき触れたように、肉にはカルニチン、卵にはコリン、魚には遊離TMAOという風に、体内でTMAOになる物質がそれぞれ含まれています。

でこの結果分かったことは、

結果
  • 魚で最も循環、尿中のTMAO、トリメチルアミン、ジメチルアミンの濃度が高まった
  • 魚を食べてから15分以内でTMAO濃度の増加が見られた
  • TMAOを多く産生する人は腸内のファーミキューテス門菌がバクテロイデス門菌より多く、腸内細菌多様性も乏しかった

こういった発見でした。つまり、魚はTMAOレベルを最も高めること、その程度には腸内細菌が深く関わっていることがわかったんですね。

魚はTMAOを増やすのにどうして循環器系疾患リスクなどが逆に下がるのか?

とここまでで、確かに魚でTMAOレベルは増える。ということが確認できました。すると次に気になるのは、過去のデータとの矛盾ですが、これについては2018年にヨーロッパの食品化学の教授らが発表したRCT(#4)が参考になりそうです。

この実験は20名の健康な男女(18~65歳)を対象に4週間の期間ずつ行われたもので、彼らを期間で分けて次の両グループの食事に割り当てました。

  • シーフード:タラやその仲間、ホタテガイなどの魚介類を含む昼飯、晩飯を食べる
  • ノンシーフード:鶏肉や赤身牛肉、七面鳥、豚肉、卵や乳製品を昼飯、晩飯に食べる(※オメガ3脂肪酸の量を調整するために晩飯にはタラ肝油が使われた)

で間には5週間空白の期間を設けて、シーフードとノンシーフードで空腹時や食後の体内の代謝物がどう変わるのか?をチェックしたんですね。

すると結果、こんなことがわかりました。

空腹時

  • シーフードで血清のバリン、イソロイシン濃度が有意に減少した
  • ノンシーフードでセラミドやリゾホスファチジルコリンの種類が有意に増加した

食後

  • シーフードで血清のTMAOレベルが有意に増加していた
  • ノンシーフードで血清の乳酸値が有意に増加していた

やはり魚はTMAO濃度を高めるけれど、他のところで肉とは違った経路であらゆる代謝物に影響を及ぼすみたい。

そして、ここから考えられる「魚で逆に循環器系疾患リスクが下がるメカニズム」はこんな感じになります。

魚でTMAO増加するのに循環器疾患リスクが下がるメカニズム

  • 体内のBCAA濃度を減らす:体内BCAA濃度は二型糖尿病リスクとの相関が確認(#5)されていて、インスリン抵抗性にも関係している。詳しい原因は分かっていないが、今回シーフードでバリンやイソロイシン(BCAAの一種)が減少している。
  • TMAOを増やすが同時に他のリスク因子も減らす:魚で空腹時と食後の中性脂肪が減少するという報告(#6)があったり、総コレステロールや非HDLコレ値を減らすとの報告(#7)もある。魚を食べた後の血清TMAOは、単に遊離TMAOが徐々に吸収されていった証拠に過ぎず、どちらかというとメリットの方が大きいんではないか?という見解。
  • エネルギー代謝を善くする:今回、ノンシーフードでのみ食後に乳酸値の増加が見られた。これは末梢組織のインスリン感受性が低下した可能性があって、つまりお肉中心の食事で上手くエネルギー代謝が出来ずに体に脂肪を溜め込んでしまうようになるかもしれない、と。一方でシーフードで食後のクエン酸レベルの増加が確認されていて、これはエネルギー代謝の「TCAサイクル」を活性化させるのに繋がる。

まとめると、確かに魚でTMAOレベルは高まるけれど、それよりも他のところで動脈硬化はじめ循環器疾患につながるリスク因子を減らしてくれているんじゃなかろうか?と。

注意点・まとめ

では最後に今回の内容をまとめます。

ポイント

  • TMAOは「トリメチルアミン-N-オキサイド」といって赤肉や卵に豊富なカルニチン、コリンを腸内細菌が代謝してできる物質
  • 赤肉や卵でも増えるが魚が最も体内のTMAOレベルを高める
  • TMAOは動脈硬化や循環器疾患リスクを高めるんでは?と睨まれている
  • 魚はその他の部分でこうしたリスクを下げる働きが確認されていて、やはりメリットのほうが大きいかもしれない

こんな感じでしょうか。ここまででひとまずTMAOの粗方のことは把握できたかと思います。

赤羽(Akabane)

次回は「実際のところTMAOってどのくらい危ないの?」という問題を質の高い研究から見ていきます。興味のある方は是非。

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参考文献&引用

#1 Bjarne Landfald, Jørgen Valeur, Arnold Berstad, and Jan Raa. Microbial trimethylamine-N-oxide as a disease marker: something fishy? Microb Ecol Health Dis. 2017; 28(1): 1327309.

#2 Jayedi A, Shab-Bidar S, Eimeri S, Djafarian K. Fish consumption and risk of all-cause and cardiovascular mortality: a dose-response meta-analysis of prospective observational studies. Public Health Nutr. 2018 May;21(7):1297-1306.

#3 Cho CE, Taesuwan S, Malysheva OV, et al. Trimethylamine-N-oxide (TMAO) response to animal source foods varies among healthy young men and is influenced by their gut microbiota composition: A randomized controlled trial. Mol Nutr Food Res. 2017 Jan;61(1).

#4 Schmedes M, Balderas C, Aadland EK, Jacques H, Lavigne C, Graff IE, Eng Ø, Holthe A, Mellgren G, Young JF, Sundekilde UK, Liaset B, Bertram HC. The Effect of Lean-Seafood and Non-Seafood Diets on Fasting and Postprandial Serum Metabolites and Lipid Species: Results from a Randomized Crossover Intervention Study in Healthy Adults. Nutrients. 2018 May 11;10(5). pii: E598.

#5 Miguel Ruiz-Canela, Marta Guasch-Ferré, Estefanía Toledo. et al. Plasma branched chain/aromatic amino acids, enriched Mediterranean diet and risk of type 2 diabetes: case-cohort study within the PREDIMED Trial. Diabetologia, July 2018, Volume 61, Issue 7, pp 1560–1571.

#6 Aadland EK, Lavigne C, Graff IE, et al. Lean-seafood intake reduces cardiovascular lipid risk factors in healthy subjects: results from a randomized controlled trial with a crossover design. Am J Clin Nutr. 2015 Sep; 102(3):582-92.

#7 Zibaeenezhad MJ, Ghavipisheh M, Attar A, Aslani A. Comparison of the effect of omega-3 supplements and fresh fish on lipid profile: a randomized, open-labeled trial. Nutr Diabetes. 2017 Dec 19;7(12):1.