赤羽(Akabane)
目次
肉や魚で増える「TMAO」はどのくらい危険なのか?
まずはTMAOって何?というところからザッとおさらいしておきましょう。
「TMAO(トリメチルアミン-N-オキサイド)」とは
簡単に言うと、TMAOはコリンやカルニチンといった成分から腸内細菌の働きによってまずTMAという物質が作られて、それが肝臓で酸化されてできる物質です。
コリンやカルニチンは動物性の食品に含まれていて、赤肉や卵にも豊富です。でTMAOは体内でアテローム硬化などを引き起こして、結果的に循環器系疾患のリスクを高めることになっているんじゃないか?と睨まれているんですね。
他には、魚の体内にも遊離TMAOが多く存在していて、やはり我々の体内のTMAOレベルを高めるようです。ではなんで魚は循環器疾患リスクを下げるの?結果が食い違ってないか?という問題について、現状も研究が進んでいる段階ですね。
【危険因子】牛肉や卵に含まれる物質を腸内細菌が代謝した「TMAO」とは?魚を食べると一番増えるって本当?
2018年のメタ分析「体内のTMAOと循環器疾患発症リスクは相関関係が認められた」
ではここから本題へ。まず2018年に私立東呉大学が発表したメタ分析(#1)では、過去11件の前向きコホート研究から10245名分のデータを集めて、体内のTMAOと循環器疾患リスク、早死にリスクの相関関係をまとめました。
で0.5年~6.1年の期間追跡調査をしたところ、次のようなことが分かりました。
体内のTMAOが多い vs. 少ないだと..
- 循環器疾患発症リスクが23%高まった
- 総死亡リスクが55%高まった
どうやらTMAOレベルは循環器疾患リスクと関わりがあるようです。
しかも細かい調査では、研究が行われた地域や調査期間、出版年、参加者の特徴、TMAOの測定方法といった別の要素は今回の結果に影響を与えなかった様子。つまり、「体内のTMAOレベルが高いことが循環器疾患リスクを高めている」という可能性はままあり得るんですね。
ただ、「総死亡リスク55%アップ」のほうは出版バイアスの可能性が高くて、実際はもう少しリスクが下がるんではないか?との見解ですね。(*出版バイアス…出版映えする結果を報告した研究ばかり公表されて、結果が見映えのする方向にインフレしてしまうこと)
そしてもう一つ、対象の研究の中に「慢性腎臓病」や「心不全」「冠状動脈性心臓病」といった慢性病患者を対象にしたものもあって、この辺りが研究間で結果のバラつきを引き起こしている大きい要因っぽいです。
2017年のメタ分析「体内のTMAOレベルが増えるほど総死亡リスクも高くなった」
2017年にフェデリコ2世・ナポリ大学が発表したメタ分析(#2)では、過去17件の臨床研究から、26167名のデータを集めて、体内のTMAOレベルと循環器疾患や総死亡リスクの相関を調べています。
で平均4.79年の追跡期間で調査していったところ、次のようなことが分かりました。
体内のTMAOが多い vs. 少ない(総死亡リスク)
- 総死亡リスクが91%高まった
- 慢性腎臓病患者対象研究のみだと2.27倍高まった
- 体内のTMAOが10μmol/L増える毎に7%高まった
体内のTMAOが多い vs. 少ない(心疾患・脳血管疾患発症リスク)
- 心疾患・脳血管疾患発症リスクが67%高まった
ここから言えるのは、体内のTMAOは総死亡や循環器疾患発症リスクと関わりがあるということ。この辺りはさっきの研究と同じですが、ここではTMAOレベルに応じて総死亡リスクが高まっていく傾向もハッキリ出ました。
ただ、やはり全体的に研究間の結果のバラつきが大きいのが問題点。割とどの研究でも相関は見られるものの、そのリスクがほんのわずかなケースもあれば、2倍高まる!みたいにド派手に出るケースもあったり。
こうしたバラつきには、対象者の既往歴はもちろん、地域や年齢、性別、腸内細菌のコンディションに至るまで色々な要素が関わっていることが考えられますが、全部考慮するのは現状無理ゲーといいますか…(笑)
まとめ
では最後に今回の内容をまとめます。
- 体内のTMAOレベルは確かに早死にリスクや循環器系疾患のリスクと相関があった
- TMAOレベルに比例してこうしたリスクも高まる関係も確認された
- ただリスクの大きさは研究によってバラバラで、因果関係もハッキリ断定はできない
こんな感じでしょうか。少なくとも、TMAOの濃度が循環器疾患イベントのリスクと密接に関わっているのは間違いなさそうです。
ただ、「TMAO濃度が上がるから循環器疾患リスクも高まる」という因果関係の断定やその影響の大きさの特定はまだ難しいかと思います。動物実験なんかでは、TMAOで動脈硬化リスクが上がったりみたいな結果が結構報告されていますが。
赤羽(Akabane)
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参考文献&引用
#1 Qi J, You T, Li J, Pan T, Xiang L, Han Y, Zhu L. Circulating trimethylamine N-oxide and the risk of cardiovascular diseases: a systematic review and meta-analysis of 11 prospective cohort studies. J Cell Mol Med. 2018 Jan;22(1):185-194.
#2 Schiattarella GG, Sannino A, Toscano E, Giugliano G, Gargiulo G, Franzone A, Trimarco B, Esposito G, Perrino C. Gut microbe-generated metabolite trimethylamine-N-oxide as cardiovascular risk biomarker: a systematic review and dose-response meta-analysis. Eur Heart J. 2017 Oct 14;38(39):2948-2956.