赤羽(Akabane)
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カップルのどちらかだけお酒を飲むのはパートナーとの関係を悪化させてしまうかもしれない
お酒の飲み過ぎがパートナーとの関係を悪化させる、というのは何となく頷ける話かと思います。現に、カップルのどちらかが大酒飲みで、もう一方は全然飲まないというような場合、その後破局や離婚を迎えるケースが多いのだといいます。
というわけで、この記事では「カップルの片割れだけお酒を飲むとどうなるの?」という動物実験のデータを見ていきます。
野生では珍しい一夫一婦制のプレイリーハタネズミのペアを使った動物実験によると…
2017年にオレゴン健康科学大学が発表した研究(#1)によると、カップルの片割れだけ大量にアルコールを与えられた場合、その後パートナーと過ごす時間が短くなることが分かったようです。
プレイリーハタネズミは北米に生息しているげっ歯類で、野生では珍しい一夫一婦制を取る動物です。
この研究は、そんなプレイリーハタネズミ150匹を対象にした動物実験でして、まずはペアを作って絆を深めてもらうために、彼らを雄雌一組ずつに分けて1週間ケージの中で過ごしてもらったようです。
それから、ネズミたちは全員、透け透けなメッシュで隔てられたケージにペアごとに移されて、他の異性とは触れ合ったり交尾したりはできないけれど、その匂いや見た目は知ることができるという状況を作りました。こうした状態で更に1週間を過ごす中で、ネズミたちは以下の3つのパターンに割り振られました。
- 雄と雌の両方に水やアルコールを飲むチャンスが与えられる
- 雄にのみアルコールを飲むチャンスが与えられ、雌には水のみが与えられる
- 雄と雌の両方に水を飲むチャンスだけ与えられる
*プレイリーハタネズミにはアルコールを好む性質があって、この部分もヒトと似ているので実験に採用されやすい
そして、上記の手順の後、雄のネズミは元々のパートナーか、見知らぬ雌ネズミと触れ合う機会が与えられて、どちらとより長い時間を過ごすのか?という点をチェックします。つまり、ペアの両方がアルコールを飲める場合と、雄のほうしか飲めない場合で、ペアの関係性はどうなってしまうのか?という問題を比較検証している、と。
すると実験の結果、こんなことが分かりました。
- 雄しかアルコールを飲まなかったパターンで、雄のアルコール摂取量が増えていて、パートナーの雌と過ごす時間が他のパターンよりも短い傾向が見られた
どうやら、ペアの片割れだけアルコールを飲む場合、元々のパートナーと過ごす時間は減ってしまうみたいです。ここから言えるのは、関係を保つには、カップルの両方がお酒を飲めた方がいいということ。
また、この実験では他にも以下のようなことが分かっています。
- アルコール摂取の後、雄雌のペアと別の雄の侵入者を同じケージに入れる実験も行ったところ、特にパターンによって攻撃性が変わることはなかった
- 実験後、ネズミたちは安楽死させられ、脳を冷凍保存して免疫組織化学染色したところ、アルコールを飲んだ雄で、脳の視床下部室傍核(PVN)におけるオキシトシン(俗に愛情ホルモンと呼ばれる)が僅かに減少していることが分かったが、パターン間で有意な差は見られなかった
- 他にも、脳の中脳水道周囲灰白質(PAG)という部位が、雄しかアルコールを飲まなかったパターンでのみ活性化していることが分かった
PAGは、情動や自律神経系を司る部位で、PVNで合成されたオキシトシンをキャッチする受容体も多く存在しています。つまり、カップルのどちらかだけがお酒を飲むことで、脳の情動にまつわる部位の反応が変化して、その結果としてパートナーとの関係が悪化してしまう可能性があるかも…と。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、今回の結果は動物実験から得られたものなので、ヒトにどこまで応用できるのか?という点は疑問です。つまり、実験としてはまだ初歩的な段階であるということ。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- カップルの片割れだけお酒を飲むのはパートナーとの関係を悪化させてしまう可能性が示唆された
- ヒトと同じように、一夫一婦制をとってアルコールも摂取するプレイリーハタネズミを対象にした動物実験によると、雄のネズミだけアルコールを飲んだ場合、その後パートナーの雌と過ごす時間が減ってしまったようだ
- また、脳のオキシトシン合成や情動に関わる部位の反応も、アルコールを飲んだ場合や、雄だけアルコールを飲んだ場合で他のパターンと違っていて、この辺りのメカニズムが関係していると考えられる
赤羽(Akabane)
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#1 Walcott AT and Ryabinin AE (2017) Alcohol’s Effects on Pair-Bond Maintenance in Male Prairie Voles. Front. Psychiatry 8:226. doi: 10.3389/fpsyt.2017.00226