「ミソフォニア(音恐怖症)」の診断基準アップデート版の変更点とは?

「ミソフォニア(音恐怖症)」とは?脳のデータをスキャンすると確かに異常が見られたようだ

赤羽(Akabane)

今回は「ミソフォニア(音恐怖症)の診断基準を知っておこう!」というお話です。

「ミソフォニア(音恐怖症)」の診断基準アップデート版

ミソフォニアとは、特定の音を聞くと激しい怒りや不快感が沸き起こってくる疾患のことで、その音を避けるようになってしまい、やがて社会的に孤立してしまうといった問題も見られるようです。

ミソフォニアという言葉は、2010年に入ってから浸透し始めたもので、医学論文のデータベースで検索をかけても、それ以前のものはほとんどヒットしませんでした。それだけ歴史が浅いということですね。

特定の音は、例えば咀嚼音や咳・くしゃみ、舌打ち、鼻息なんかが代表的みたいです。ミソフォニア研究の黎明期には、「人工音のみに過剰反応が起こる」と言われていましたが、今では自然の音に対しても起こり得ると考えられています。

というわけで、この記事ではミソフォニアの診断基準について、最新のアップデートを見ていきます。

2013年→2020年!ミソフォニア診断基準アップデート版

2020年にワルシャワ大学が発表した研究(#1)では、ミソフォニアの診断基準についてマイナーチェンジがある!という内容になっていました。

私の知る限り、最初にミソフォニアの診断基準(公式ではないが)を定めたのは、2013年にアムステルダム大学が発表した研究(#2)でして、今回はこのアップデート版と銘打っています。
*このアップデートは、705名(18〜68歳)のデータを集めてそこから分かった知見を踏まえている

まずは、従来版の診断基準をざっと見ていきます。

従来版の診断基準

  • 特定の音を聴いたり、その音が鳴るという予測がある時、途端に苛立ちや嫌悪感といった強力な肉体的反応が起こり、その反応はすぐに怒りに変わる。怒りによって、患者は感情の制御ができなくなると感じ、時には攻撃的な行動に出てしまうこともある
  • 患者自身が、そうした反応が特定の状況であまりに起きやすいと感じている
  • 特定の音によって引き起こされた不快感によって、可能であれば、患者がその状況を避けるように行動している。また、それによって、患者の生活に支障が出てしまっている
  • 回避行動や、特定の状況に対する感情的な反応が、PTSDや強迫性障害など、他の精神疾患によって説明がつかない

見たところ、ミソフォニアの特徴は大体捉えられているかと思います。そして、次にアップデート版で加えられた変更点を見ていきましょう。

アップデート版の変更点

  1. 攻撃的な行動に関する項目を除外した: 従来版から診断項目に含まれていた「特定の音をトリガーとする攻撃な言動」を外した。
  2. 「特定の音」の範囲を広げた: 対象になる音の範囲を、人工的な音だけでなく環境音にまで広げた。依然として人工的な音に対する症例が多数で、前回の研究でも環境音に対する報告はなかったが、近年僅かに環境音に対する症例も出てきている
  3. ミソフォニアの定義を限定的にした: 他のミソフォニア診断基準では、特定の音がしばらく鳴り止まない状況も含まれるが、ここでは、その音が鳴った途端に強烈なネガティブ感情に襲われる場合に症状の範囲を限定した

攻撃的な言動に関しては、再検証の結果、相関性が低いことが分かったようですね。それ以外の診断項目では、依然として高い関連性が確認されていました。

また、ミソフォニアの症状の引き金となる特定の音に関しても、この研究では対象を環境音にまで広げています。この辺りは、今後も症例のデータが増えていかないとハッキリしないですが‥。

注意点・まとめ

ただし注意点として、ざっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • 聴覚過敏との差別化がまだあまり出来ていない: 似たような症状に聴覚過敏があるが、こちらの診断との比較はしておらず、音の大きさなども考慮にいれていない
  • ミソフォニアの音以外の対象への反応の可能性がある: 近年では、ミソフォニア患者は特定の音だけでなく、視覚的な情報からも症状を引き起こす可能性があると考えられており、この点はまだカバーできていない
  • オンラインでのセルフレポートなので実験の質は落ちる: 自己申告制である分、主観が混じる上に、オンラインなので得られる情報がかなり限定される

まだまだ発展途上なので、他の類似する疾患や症状との明確な区分けや共通点の洗い出しが急がれますね。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • ミソフォニア(音恐怖症)は、特定の人工的な音を聞くと激しい怒りや不快感が沸き起こってくる疾患とされる
  • 2013年の診断基準を再検証したところ、「特定の音を引き金にした攻撃的な言動」に関する項目が外れたり、”特定の音”を人口音だけでなく環境音にまて広げるといったマイナーチェンジがあった
  • その他の項目に関しては、再現性のテストでもミソフォニアと高い関連性があった

赤羽(Akabane)

ミソフォニアは、ナルコレプシー(居眠り症候群)などと並んで、なかなか理解されない疾患です。今後、引き続き研究が進んで、他の疾患との共通点なんかも色々分かってくるといいなぁと思います。(強迫性障害とか)

関連記事はこちらもどうぞ

「ミソフォニア(音恐怖症)」とは?脳のデータをスキャンすると確かに異常が見られたようだ「ミソフォニア(音恐怖症)」とは?脳のデータをスキャンすると確かに異常が見られたようだたった5問!ナルコレプシー度診断テスト「スイス・ナルコレプシー・スケール(SNS)」たった5問!ナルコレプシー度診断テスト「スイス・ナルコレプシー・スケール(SNS)」

参考文献&引用

#1 Siepsiak M, Śliwerski A, Łukasz Dragan W. Development and Psychometric Properties of MisoQuest-A New Self-Report Questionnaire for Misophonia. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(5):1797. Published 2020 Mar 10. doi:10.3390/ijerph17051797

#2 Schröder A, Vulink N, Denys D. Misophonia: diagnostic criteria for a new psychiatric disorder. PLoS One. 2013;8(1):e54706. doi:10.1371/journal.pone.0054706