糖質制限の主張「インスリン分泌が多いと太る!」はどこまで本当なのか?

糖質制限の主張「インスリン分泌が多いと太る!」はどこまで本当なのか?

赤羽(Akabane)

今回は糖質制限ダイエット支持派の主張「インスリンが太る主悪の根源!」についてのお話です。

糖質制限の主張「インスリン分泌が多いと太る!」はどこまで本当なのか?

流れとしては、まずインスリン主悪説のメカニズムを見て、次に最近出た有力な遺伝子研究を見ていきます。

糖質制限ダイエットの主張「インスリンが太る最大の原因だ!」の根拠

「インスリンが太る原因だ!」というのは主に糖質制限ダイエッターの主張で、糖質制限は文字通り「糖質を制限する食事法」ですが、この方法にはインスリン主悪説が根底にあります。

そのメカニズムをザックリまとめると、こんな感じです。

インスリン主悪説のメカニズム

  • インスリンは血糖値が上がると膵臓から分泌されるホルモン
  • インスリンには血中の糖質を「肝臓」「筋肉」「脂肪」に運んで血糖値を下げる働きがある
  • インスリンが多量分泌されると脂肪に運ばれる糖が増えてどんどん蓄積されていく
  • インスリンが太る原因だ!
  • インスリンを増やす原因は主に糖質だから糖質を制限すればOK!

つまりインスリンは血中の糖質を脂肪にも運んで溜めちゃうから、分泌が盛んになると太る!と。で糖質は他の栄養素と比べても食後のインスリンを引き上げがちなので、「なら糖質をカットしてしまえばいいじゃないか」と考えたわけですね。

「インスリンが太る原因!」を裏付ける遺伝子研究が出ていたが…

では次に実際の研究結果を見てみましょう。この問題については、最近有力な遺伝子研究が発表されていました。

これは2018年にボストン小児病院が発表したメンデルランダム化試験(#1)で、食後のインスリン分泌とBMIの関係を調べたもの。

調査対象は、ヨーロッパの大規模な調査データから、インスリンのデータを26037名、BMIのデータを322154名分集めて、更に「UK Biobank」という有名な調査データからも138541名のデータを調べています。

で具体的な実験デザインは、食後のインスリン分泌が増えやすい遺伝子を持つ人はBMIが高い傾向にあるのか?を調べていて、更に因果関係を確かめるべく逆の可能性まで調査してくれています。

因果関係特定のイメージ

因果関係を特定するために以下の両方向から遺伝子を使って調べる
  • 食後インスリンが増えやすい遺伝子を持つ→BMIが高い = インスリン増加でBMIが高くなる!(≒太る)
  • BMIが高い→食後インスリンが増えやすい遺伝子を持つ = BMI高い(≒太っている)とインスリンも高まる

するとこうした調査の結果、まずこんなことが分かりました。

結果
  • 食後インスリン分泌が増えやすい遺伝子を持つ人ほど肥満の傾向にあった
  • 逆にBMIが高いことは食後インスリン増加遺伝子とはあまり関係がなかった

ここから言えるのは、インスリン分泌増加でBMIが高くなる(≒太る)傾向が確認された、と。インスリンは確かに体重増加に関係していたんですね。

注意点・まとめ

ただしこの結果には注意点があって、インスリン分泌の増加は体重増加に影響を与えるけれど、その影響の度合いってかなり微妙じゃないか?と。

その証拠に、もう少し詳しく中身を見てみると、

(#1)より引用。

インスリン分泌増加に関わる各遺伝子がBMI増加に与える影響はこんな感じになっています。簡単に言うと、ここで出たインスリン遺伝子全般だけでは、太る原因の1~10%しか説明がつかない!ということを示しているんですね。

糖質制限の主張「インスリン分泌が多いと太る!」はどこまで本当なのか?

つまり残りの90~99%は別の何かが影響しているということで、摂取カロリーやら運動習慣、代謝機能、睡眠リズム、腸内環境などなど、他にもあらゆる要素が影響するだろうと推測できるわけです。インスリン主悪説の主張もかなり雲行きが怪しくなってきました。

また他には、研究自体にもこんな問題点があります。

注意
  • 過去の類似研究では逆の結果が出ている:2017年のメンデルランダム化試験(#2)では「空腹時インスリンはBMI増加に繋がらなかったが、高いBMIは空腹時のインスリンを高める因果関係が確認された」との報告がある
  • 体型の測定基準としてBMIを使っている:実際にウエスト周りやウエスト/ヒップ比などを測ったわけではない

つまりインスリン測定の細かいタイミングで結果が違っていたり、BMIだけでは体型のメジャーとしては最適ではないよね、という感じです。この2点は今回の研究の信憑性に疑問を投げかけるポイントかと。

ちなみに食後インスリン分泌と空腹時インスリンはどちらもインスリン抵抗性(インスリンの感度)の重要な数値で、どうして研究間で逆の結果になったのか?はよくわかっていません。

では長くなりましたが、今回の内容をまとめます。

ポイント
  • 糖質制限ダイエットの中心的主張「インスリンが太る主悪の根源!」説は怪しい
  • 遺伝子研究では確かにインスリン増加→BMI増加の因果関係が確認された
  • でもインスリンだけではBMI増加の原因の1~10%しか説明できず、残りの90~99%は別要素が影響している可能性が高い
  • ただ過去には逆の結果を示す報告もあって、そもそも今回の結果の信憑性も確実ではない

こんな感じでしょうか。ハッキリしない結論で申し訳ないですが、まだまだこの議論は続きそうです。

ただ一つ言えそうなのは、どちらにせよ「インスリンってそれ程ダイエットには大事じゃないね!」ということでしょうか。糖尿病患者の血糖コントロールには非常に大事な要素ですが、普通に太る?痩せる?論争では主悪(ラスボス)ではなくサブキャラな感じがします。

赤羽(Akabane)

今では当たり前に浸透している糖質制限ダイエット。根本の主張である「インスリン主悪説」はお医者さんでも普通に支持者がいます。もしそういった方がいらっしゃったら、「この参考文献はお読みになりましたか?」と聞いてみるのもアリかも。

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参考文献&引用

#1 Christina M. Astley, Jennifer N. Todd, Rany M. Salem, Sailaja Vedantam, Cara B. Ebbeling, Paul L. Huang, David S. Ludwig, Joel N. Hirschhorn, Jose C. Florez. Genetic Evidence That Carbohydrate-Stimulated Insulin Secretion Leads to Obesity. Clinical Chemistry, Vol. 64, Issue 1,January 2018.

#2 Richmond R , Wade K , Corbin L , Bowden J , Hemani G , Timpson N , Davey Smith G. Investigating the role of insulin in increased adiposity: Bi-directional Mendelian randomization study. bioRxiv. 2017:1–18.