「短鎖脂肪酸」をひと括りにするのは危険?遺伝子研究でわかった真逆の働きとは?

短鎖脂肪酸 遺伝 プロピオン

赤羽(Akabane)

今回は「短鎖脂肪酸」についてのお話です。

「短鎖脂肪酸」をひとまとめは良くない?

ではまず「短鎖脂肪酸って何ぞ?」というところからおさらいしていきましょう。

脂肪酸 種類 短鎖 中鎖 長鎖

簡単に言うと、脂質を構成する成分である「脂肪酸」の一種で、炭素数で分けた時に一番少なくなる(短くなる)ものです。

短鎖脂肪酸といえば「ダイエット効果がある!」みたいな話を聞いたことがあるかと思いますが、これは短鎖脂肪酸の受容体であるGPR41やGPR43などが、満腹ホルモンの分泌を抑えたり、脂肪の蓄積を邪魔するという報告(#1,#2)が元になっています。

でこの短鎖脂肪酸にはメジャーなもので3つの種類があります。

短鎖脂肪酸 種類 酪酸 酢酸 プロピオン酸

今回は「これらが実際どんな働きをしているのか?」について、最新情報をアップデートしていきましょう。

腸内細菌が作り出した短鎖脂肪酸はそれぞれ何をしているのか?遺伝子研究で分かった驚きの結果

では本題に入ります。今回はそんな短鎖脂肪酸ですが、一緒くたにして考えると危ないかも!という遺伝子研究の紹介です。

参考になるのが、2019年にフローニンゲン大学が発表したメンデルランダム化試験(#3)で、これは「LifeLines-DEEP(#4)」という遺伝子データセットから952名分の遺伝子情報を集めたもの。

具体的には、対象の遺伝子データから、

腸内細菌の遺伝データ

  • 2つの糞便(うんち)内の短鎖脂肪酸レベルに関する特性
  • 57の独特な腸内細菌類
  • 186の関連経路

体型や代謝の遺伝データ

  • 17の体型や血糖値にまつわる特性

これらの特徴から対象者を区分けして、腸内細菌の遺伝特性と体型&血糖値の遺伝特性に何か繋がりがないか?を調べたんですね。

調査方法の具体例

  • プロピオン酸を多く産生する腸内細菌が遺伝的にたくさん居る(腸内細菌の遺伝特性)
  • この特性を持つ人ほどインスリン分泌量が多くなる遺伝的特性を持っていた(体型&血糖値の遺伝特性)
  • 逆にインスリン分泌が遺伝的に多くなる人は、必ずしもプロピオン酸を産生する腸内細菌を多く持っているわけではなかった
  • つまり【プロピオン酸→インスリン多量分泌】の因果関係の可能性が高いと考えられる!

イメージはザっと上のような流れですね。ではこの結果どんなことが分かったのか?というと、

結果
  • 酪酸を産生する腸内細菌や回路が活性化すると食後の血糖値上昇に対するインスリン分泌反応の増加を助ける
  • 糞便から検出されたプロピオン酸が多いと二型糖尿病のリスクが高かった

ザックリこうした発見がありました。簡単に言うと、酪酸は二型糖尿病のリスクを下げる効果、プロピオン酸では逆に高める効果が見られた、と。「短鎖脂肪酸」もモノによって代謝に与える影響が違うことが示唆されました。

ちなみに「うんちから検出されたプロピオン酸が多い」というのは、①腸内細菌がプロピオン酸を大量に産生している、か②プロピオン酸を上手く吸収できていない、かの可能性を示しています。ですが、今回この部分は調査できていないということで、詳しいことは分かりません。

一応それぞれの結果については、

結果
  • フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖のプレバイオティクスでビフィズス菌は増えたが、酪酸を産生するバクテリア(ファスコラークトバクテリウムやルミノコッカスなど)が減ると同時に、ブドウ糖摂取後の糖代謝に悪影響があった(#5)
  • 食品添加物としての摂取だが、ヒトとマウスの両方で、プロピオン酸を摂取すると食後に血糖値を高めるホルモンが多量分泌されていた(#6)

このように似た報告が過去に上がっていますが、どちらも賛否両論バラバラな報告がたくさんあって、まだハッキリした決着はつかなそうです。

これは腸内細菌の種類や遺伝的な個人差、短鎖脂肪酸を取り込む経路など、無数の要素が影響を与えてるんだと思われます。

まとめ

では今回の結果をまとめると、

ポイント
  • 短鎖脂肪酸と代謝&血糖の関係を遺伝子研究で調べた
  • 酪酸は食後のインスリン分泌反応を高めてくれるかも
  • プロピオン酸の多量産生や吸収の異常は二型糖尿病のリスクを高めるかも
  • 少なくとも「短鎖脂肪酸」を一緒くたに考えるのは良くない

この辺りを押さえておくとよろしいかと思います。巷では「短鎖脂肪酸で脂肪吸収を抑えてダイエット効果!」みたいにちょっとアバウトな宣伝が多いので、せいぜい「酪酸が〇〇に効果てき面!」みたいにもう少し細かく書いてもいいんではないかと思う次第です。

赤羽(Akabane)

腸や腸内細菌の働きについては、まだまだ神秘に包まれてることが多いので、これからも逐一情報をアップデートしていきます。

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参考文献&引用

#1 Yumei Xiong, Norimasa Miyamoto, Kenji Shibata, Mark A. Valasek, Toshiyuki Motoike, Rafal M. Kedzierski, and Masashi Yanagisawa. Short-chain fatty acids stimulate leptin production in adipocytes through the G protein-coupled receptor GPR41. PNAS January 27, 2004 101 (4) 1045-1050.

#2 Ikuo Kimura, Kentaro Ozawa, Daisuke Inoue, Takeshi Imamura, Kumi Kimura, Takeshi Maeda, Kazuya Terasawa, Daiji Kashihara, Kanako Hirano, Taeko Tani, Tomoyuki Takahashi, Satoshi Miyauchi, Go Shioi, Hiroshi Inoue & Gozoh Tsujimoto. The gut microbiota suppresses insulin-mediated fat accumulation via the short-chain
fatty acid receptor GPR43
. Nature Communications volume 4, Article number: 1829 (2013).

#3 Serena Sanna, Natalie R. van Zuydam, Anubha Mahajan, Alexander Kurilshikov, Arnau Vich Vila, Urmo Võsa, Zlatan Mujagic, Ad A. M. Masclee, Daisy M. A. E. Jonkers, Marije Oosting, Leo A. B. Joosten, Mihai G. Netea, Lude Franke, Alexandra Zhernakova, Jingyuan Fu, Cisca Wijmenga & Mark I. McCarthy. Causal relationships among the gut microbiome, short-chain fatty acids and metabolic diseases. Nature Geneticsvolume 51, pages600–605 (2019).

#4 Lifelines DEEP. what is Lifelines DEEP? accessed on 27th June 2019.

#5 Liu, F. et al. Fructooligosaccharide (FOS) and galactooligosaccharide (GOS) increase Bifidobacterium but reduce butyrate producing bacteria with adverse glycemic metabolism in healthy young population. Sci. Rep. 7, 11789 (2017).

#6 Ikuo Kimura, Kentaro Ozawa, Daisuke Inoue, Takeshi Imamura, Kumi Kimura, Takeshi Maeda, Kazuya Terasawa, Daiji Kashihara, Kanako Hirano, Taeko Tani, Tomoyuki Takahashi, Satoshi Miyauchi, Go Shioi, Hiroshi Inoue & Gozoh Tsujimoto. The gut microbiota suppresses insulin-mediated fat accumulation via the short-chain fatty acid receptor GPR43. Nature Communications volume 4, Article number: 1829 (2013).