幸せを科学する~人生に不満のあるあなたへ~

幸せのイメージ

幸せを科学する~人生に不満のあるあなたへ~

あなたは幸せですか?
と聞かれて、あなたは何と答えますか?

「とっても幸せ!」「ぼちぼちですわ・・」「最近は不幸に見舞われててね、、」

この答にはその場で感じてる幸福度が影響しますし、直近の思い出を振り返って答える場合もあるかと。はたまた実際の意思に反した答えが口をついて出てくることもあるでしょう。

このように「幸せかどうか」というのは非常に主観的で、幸福度なるものを客観的に叩き出すのはおよそ不可能に思われます。しかし、世界中の研究者たちはこぞって、この「幸せ」に関する研究に熱を注いでいます。ここではそんな「幸せ」について、瞬間的なものから長期的なものまで幅広く見ていこうと思います。

幸せはお金で買えるの?

答えは半分正解で半分不正解でしょうか。

2004年にGeneral Social Survey(GSS)が発表した論文(#1)によると、ある一定の年収を超えたあたりから主観的な幸福度がほぼ変わらないことが分かったようです。この研究では、1173人を被験者として、彼らを世帯年収別に四つのグループに分類しました。

  1. 年収2万ドル以下(日本円で226万ほど)
  2. 年収2万~5万未満
  3. 年収5万~9万未満
  4. 年収9万以上(日本円で1000万以上)

※日本円換算は2018年1月8日現在のレートを参照

そして被験者全員に「総合的にどのくらい幸せか?」を三段階評価で答えてもらったようです。主観的な幸福度と収入の関係を調べたのですね。結果は次のようになりました。

結果
  • 1~3のグループまでは年収の増加とともに主観的幸福度も上昇した
  • それ以上のグループからは殆んど幸福度に変化がなかった

つまり、年収が5万~9万ドルのグループと、9万超えのグループではほとんど主観的幸福度が同じだったということになります。日本円で言うと年収約500~1000万未満の人と約1000万超えのルーキーでは大して満足度が変わらないということです。「金さえあれば幸せだ」「お金が全て」とはよく言ったものですが、お金が沢山あってもそれが必ずしも幸せに直結するとは限らないことが分かりますね。

毎日の入浴で主観的幸福度を上げよう

2014年に日本の教授らが発表した論文(#2)によると、毎日の入浴によって主観的幸福度が高まることが分かりました。この研究では6000人の静岡県民を対象に行われ、その中で実際に回答があったのは3000人程度でした。本来の目的は、日本独特の文化である温泉や入浴の習慣、緑茶の消費が日本人の健康にどんな良い影響を与えているのかを検証する為なのですが、その指標の中に主観的幸福度を示す数値がありました。

結果、毎日お風呂に入ると答えた人は、シャワーのみで済ませる人よりも主観的幸福度が高いことが分かりました。更に、主観的な健康や十分な睡眠、休息の項目でも良い結果が出たようです。(※どの季節でも関係なく)

日本では40℃前後のお湯に浸かるのが主流ですが、こうした入浴に関しては、他にも全身の血行を改善し、それによって末端の二酸化炭素レベルを減らして酸素レベルを増やす効果もあることがわかっています。

日本独特の「あの習慣」が日本人の幸福度アップ、心身の健康に貢献していたかもしれない。

人間が特に幸せを感じる瞬間とは?

一口に「幸福」と言っても、長期的なものであったり、その瞬間のものであったり、掘り下げるとキリがありません。ここでは人間がどんな瞬間に幸せを感じるのかを突き止めた論文(#3)を紹介します。

この研究は「フロー」の概念を初めて提唱した人として有名なミハイ・チクセントミハイ教授らによって行われました。ESM(Experience Sampling Method)という方法で取り行われて、被験者らの実験環境下ではないリアルな日常での生活、行動パターンをランダムに記録できる手段です。具体的には、

  • ポケベル(Electronic Pagers)を持ち歩いてもらう
  • 鳴った時にしていること、その時の幸福度を記録していく

すると結果は次のようになったようです。

結果
  • 最も幸せに感じる瞬間は、何かに没頭してる瞬間である

一つのことに没頭していて、他の事や雑念に囚われていない状態は、とてもスッキリしていて気持ちが良いものです。終わった後もどこか充実感のようなものを感じます。逆に言うと、マルチタスクはどうなのでしょうか?以前記事として取り上げました。

一点集中マルチタスクはもうオワコン?勉強や仕事で成果を上げて幸せを勝ち取るシングルタスク

選択肢が多すぎると不幸になる?!

簡単に言うと、これは「選択のパラドックス」のしわざですね。

詳しくは心理学者のバリー・シュワルツ氏のTEDスピーチ(#4)を見れば分かり易いかと思います。

例えばスピーチの中で出た話で言うと、シュワルツ氏自身がジーンズを買い替えに行った時の話があります。大筋はこんな感じです。

シュワ「このサイズのジーンズを探してるんだが・・」

店員「タイプはストレート、スリム、リラックスがあります。ボタンフライかチャックかも選べますし、またストーンウォッシュ加工やアシッド、ダメージ加工のものも御座います。ブーツカットにしますか、それともテーパードですか?」

シュワ「くぁwせdrftgyふじこlp」

結局、膨大な選択肢の中から一つ、イイ感じのジーンズを一本購入したそうですが、気分は最悪だったと言います。原因をまとめると次のような感じになります。

  1. Aを選んだけど、BもCもDもEもアリだったかもなぁ。。Bを選んでたら・・Cを選んでたら・・(他の可能性が頭から離れない)
  2. いや、Aはこの中でも最高だ!(選んだものに過剰に期待するようになる)
  3. はぁ・・他のにしておけばよかったorz (期待を超えられず後悔)
  4. 何でアレにしなかったんだよォ・・(自己嫌悪)

つまり他の選択肢が多いほどそちらが気になってしまうんですね。この内容をザックリまとめると、

結果
  • 多すぎる選択肢は自由よりも無力感をもたらし、満足度を低下させる。
  • 高すぎる期待は人を不満にさせる。

このような感じでしょうか。詳しくはこちらで取り上げていますので、ザっとご覧ください。ミニマリストが何故楽なのか?がよく分かるかと思います。

カチッとスーツ就活の面接は沢山受ける程後悔する!人生満足度を下げる「選択のパラドックス」とは?

他人を信頼すると自分が幸せになれる!

どうしてでしょうか?脳医学の観点から説明すると、これはオキシトシンの仕業だと言われています。

参考図書『脳が目覚めるたった1つの習慣』の説明を借りると、オキシトシンは次のようなものです。

オキシトシンは母子の絆の形成などに関わるホルモンであると同時に、神経伝達物質でもあります。オキシトシンが放出されると、目の前の相手に信頼や愛情を感じるようになるのが特徴です。

一般に「幸せホルモン」「絆ホルモン」「抱擁ホルモン」などと呼ばれるオキシトシンですが、この神経伝達物質の素晴らしい効果が近年、新たにわかってきました。

実際に『Nature』に2005年に掲載された、フランクフルト大のマイケル・コスフェルド教授らの研究(#5)によると、このオキシトシンを注入することで他人を信頼する行動が増えたことがわかりました。

この研究では、「信頼ゲーム」と呼ばれる”投資”をテーマにしたゲームを被験者たちにプレイしてもらったようです。結果的に、オキシトシンを注入した被験者のうち45%の人が投資できる最大額まで投資していました。(注入なしの被験者では21%だけ)つまり、オキシトシンが注入された人はより沢山相手を信頼したのですね。

また、他の「信頼ゲーム」を行った研究では、ゲームの最中にプレイヤーが投資額や投資の有無を決断した直後に血液を採取し、オキシトシンの分泌量を記録したものがあります。この結果、信頼して投資をしてもらったときに、それを受ける側はたくさんのオキシトシンが分泌されたことが分かったようです。

これら2つの研究をまとめると、次のようになります。

  • まずはこちらから相手を信頼してみる
▼信頼する
→相手はオキシトシンによってこちらに信頼行動を取りやすくなる。
→こちらもオキシトシンが分泌されてハッピーな気分に。

幸せは自分の行動次第?

カリフォルニア大学の心理学教授ソニア・リュボミアスキ教授(#6)によると、人間の幸福というのは次のような比率で決まるようです。

  • 遺伝:50% 環境:10% 自分の行動:40%

ここで「なんだ、やっぱり遺伝で決まるんじゃん」と思われるかもですが、言い換えれば40%も自分次第でどうにでも変えられるのか!とも読み取れます。

ところで「自分の行動」というが具体性に欠けますが、リュボミアスキ教授は著書「The how of happiness」の中で、

  • 感謝を表す
  • 将来に対していい見通しを持つ
  • 親切であるよう心掛ける
  • 社会的な交流の場を広げる
  • 何かを克服する戦略を考える

といったことを挙げています。これらはどれも自発的な行動が必要なので、やはり幸せになるためには自分から動くことが大切だということになります。

実際に、リュボミアスキ教授が行った「親切に関する実験」があります。この実験では、被験者をグループ分けして、全員に一週間他人に親切な行動を取るように促しました。すると、まず被験者全体で主観的な健康度が増え、人生の満足感も増加しました。中でも、次の二つのグループで高い効果が得られたようです。

結果
  1. 毎回違う親切をするように言われたグループ
  2. 「ここだ!」と決めた一日にたくさんの親切をするように言われたグループ

ソニア・リュボミアスキ教授は「幸せ」研究の第一人者として名高いので、実際に著書を読んでみることをおすすめします。
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ヒントは偉人から。幸福にまつわる偉人の名言集

ほとんどの人は、自分がなろうとしたぶんだけ幸せになれる by エイブラハム・リンカーン

幸せは待っていても向こうからやってはこない。ですね。
聖飢魔Ⅱの名曲「EL DORADO」の冒頭の閣下の語りでも言ってますね。

幸せは歩いてこない。だから歩いていくのだ byデーモン小暮閣下

幸福は美徳の上に築かれる。そしてその基盤には真実がなければならない by サミュエル・テイラー・コールリッジ(詩人)

「自分は幸せだ、恵まれている、幸せだ…」と言い聞かせることでプラシーボ効果が働き、その場しのぎの幸せを得ることはできるかもしれませんが・・。本当の意味での幸せは着実な積み重ねによって得られるのかもしれません。

喜びは分かち合うもの。幸福は対をなして生まれる by バイロン(詩人)

嬉しい気持ちは伝染するということでしょうか。ミラーニューロンの働きからも説明がつきますね。オキシトシンの「信頼ゲーム」とも繋がる格言です。

一本のろうそくから何千本ものろうそくに火をつけることができる。かといって、それで最初のろうそくの寿命が短くなることはない。幸福は、分かち合うことで決して減らない by 仏陀

個人的に好きな名言。自分と親密に関わってくれる人たちにとって、このような存在でありたいです。

望ましい環境の中で受動的に生きていくよりも、価値ある活動に熱中して目標に向かって進んでいくことによって、幸福は大きくなる by デイヴィッド・マイヤーズ&エド・ディーナー(心理学者)

目標達成や成功体験の着実な積み重ねで揺るぎない自信が生まれて、それが幸せにつながる。深く同意です。

幸福は自分しだいである byアリストテレス(#)

参考文献&引用

# 猪俣武範 著『働く人のための最強の休息法』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017年。

# 瀧靖之 著『脳が目覚めるたった1つの習慣』かんき出版、2016。

# タル・ベン・シャハー著 成瀬まゆみ訳『ハーバードの人生を変える授業』だいわ文庫、2015年。

# sojna lyubomirsky,『The how of happiness』,Penguin Books,2008.

#1 お金持ちが必ずしも幸福とは限らない
Daniel Kahneman, Norbert Schwarz, David Schkade, Alan B.Krueger, Arthur A.Stone “Would You Be Happier If You Were Richer? A Focusing Illusion”2006.

#3 人は何かに没頭してる時のほうが幸福感が上がる
Mihaly Csikszentmihaly ,Reed Larson”Validity and Reliability of the Experience-Sampling Method“,The Journal of Nervous and Mental Disease,Vol.175,No.9,pp526-36,1987.

#2 季節ごとの浴槽浴・温泉施設訪問、緑茶多飲が日本人の健康にもたらす効果
Yasuaki Goto,Shinya Hayasaka,Yoshikazu Nakamura, “Health Effects of Seasonal Bathing in Hot Water, Seasonal Utilization of Hot Spring Facilities, and High Green Tea Consumption”,Vol.77,No.2,2014.

#4 選択肢が多すぎると不幸になる・・の元は
https://www.ted.com/talks/barry_schwartz_on_the_paradox_of_choice?language=ja#t-189647 (2018年1月26日アクセス)

#5オキシトシン注入の信頼ゲーム研究は
Michael Kosfeld,Markus Heinrichs,Paul J. Zak,Urs Fischbacher,Ernst Fehr,”Oxytocin increases trust in humans“,Nature,Vol.435,2005.

#6 幸福の50:10:40の研究は
Sojna Lyubomirsky,Kennon M. Sheldon,David Schkade,“Pursuing Happiness: The Architecture of Sustainable Change”,Review of General Psychology,Vol.9, No.2, pp111–131,2005.