【意外に省エネ?】脳の「海馬」が複数の記憶データを関連付け&記憶するプロセスが判明

脳の記憶機構「海馬」が複数の記憶データを結びつけて覚えるプロセスは意外に省エネだった?

赤羽(Akabane)

今回は「脳は記憶した出来事同士を効率よく関連づけしている!」というお話です。

【意外に省エネ?】脳の「海馬」が複数の記憶データを関連付け&記憶するプロセスが判明

脳が記憶を形成するのには、主に「海馬」という部位が深く関係しています。
海馬…英語でSea Horse, Hippocampusとも。タツノオトシゴに形が似ているのが由来。

そして、海馬の記憶形成のプロセスでは、前に取り込んだ記憶データと新しく入ってきた記憶データの関連付けを行うことで、より記憶を強固で取り出しやすいものにします。

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例…「織田信長」と「本能寺」を関連付けて、片方を思い出せば関連データとしてもう一方も思い出される

こうした記憶の関連付けには、新しい記憶データを取りこぼさないように、関連付けの際は絶えず海馬が活動しているという説が考えられていますが、今回のデータはちょっぴり違った結果を報告しています。

脳の海馬が記憶の関連付けを行うプロセスは意外と省エネ?動物実験の結果

2020年にコロンビア大学が発表した研究(#1)によると、海馬が記憶データの関連付けを行うプロセスは、常に一定のペースで処理されているのではなく、むしろ効率的・省エネであることが分かりました。

この研究は、6匹のマウスを対象にした動物実験でして、まず20秒程のロングトーンの音を2種類聴かせて、一方では、その後マウスの鼻先に空気を15秒間吹きかけ、もう一方では何も起こらない、という2パターンを用意しました。

そして、ここでいうロングトーンが第一の記憶対象になって、その後追従する鼻先の空気が第ニの記憶対象となります。マウスたちは、実際に体験した出来事から、これら記憶データを「あのロングトーンが聴こえたら、その後鼻先にしつこく空気を吹きかけられる」という風に関連付けて記憶するでしょう。

マウスたちはこの間、水飲みスペースの横で頭を固定されている状態ですが、例の音が鳴ったらしつこく空気を吹きかけられるので、水飲みを中断せざるを得ません。こうしたストレス反応をロングトーンと関連付けて学習させてから、脳の「海馬」のCA1という領域の活動を2光子顕微鏡やカルシウムイメージングで観測して、そのパターンをアルゴリズムを用いて分析したようです。

果たして、実験結果を見てみるとこんなことが分かりました。

結果
  • ロングトーンと空気噴射の間の十数秒で、ニューロンが活発に動いているような様子は見られなかった
  • 観測されたのは、代わりに一部のニューロンがランダムに発火している様子だけだった
  • ランダムなニューロンの発火を細かく見てみると、一部の細胞同士が部分集合していて、ロングトーンが聴こえる度にその一部が発火するだけで、集合体の全体に情報が伝達されるようになっていた

まとめると、海馬における記憶データの関連付けは、記憶対象が聴こえたり発生している間に絶えず交わされるものではなくて、むしろ一部のニューロンの発火で情報が全体に行き渡るように効率化されているのでは?という感じです。

記憶の関連付けの仕組みは精神疾患の理解にも大きく関わってくる

このテーマの理解は、精神疾患の治療に当たっても、かなり重要だと言えます。というのも、PTSDやパニック障害、広場恐怖症などにおいては、ある特定の状況に対して、当人たちはすごく恐怖や不安を感じますが、他の人から見ると、それは格別感情を揺さぶられる対象ではないからです。

つまり、上記のような精神疾患では、【特定の場面 → 怖い、不安、苦しい】といった記憶の紐付けがなされていて、これが原因で症状を引き起こしているのでは?と考えられます。こうした病理の理解には、脳がどんな仕組みで記憶同士を関連づけしているのか?を知るのが非常に重要というわけです。

注意点・まとめ

ただし注意点として、今回の研究は動物実験なので、ヒトでどこまで適用できる内容なのか?は分かりません。新しい説として、今後も追試や再検証が必要かと思います。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 脳が記憶データ同士を結びつけて覚える仕組みは、意外にも省エネなのかもしれない
  • 今回のマウス実験では、彼らに「ロングトーンが鳴ったあとには、顔に空気を噴射される」と学習させたところ、これら2つの出来事の間のタイムラグ時にはニューロンの発火はほとんど起こっておらず、むしろ一部のニューロンの発火だけで、その集合体全体に情報が行き渡るような効率的な仕組みになっていた
  • 脳の記憶データの形成やデータ同士の関連付けは、考えられているよりも効率的である可能性が示唆された

赤羽(Akabane)

脳の仕組みはまだまだ分かっていないことが多くてとても興味深いです。個人的には、ヒトの体がものすごく効率よく動いていることを考えると、今回の省エネな結果も頷ける話ではあると思います。

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参考文献&引用

#1 Ahmed MS, Priestley JB, Castro A, et al. Hippocampal Network Reorganization Underlies the Formation of a Temporal Association Memory [published online ahead of print, 2020 May 6]. Neuron. 2020;S0896-6273(20)30282-8. doi:10.1016/j.neuron.2020.04.013