いじめを最速で特定し減らすための「ネットワーク診断」

いじめを最速で特定し減らすための「ネットワーク診断」

赤羽(Akabane)

いじめは無くならないのか…?然るべき人が気づいていなかったり、気づいていても対処法が徹底していなかったり、現行のやり方には問題点がありそうです。

いじめを最速で特定し減らすための「ネットワーク診断」

クラスでのいじめに素早く気づき対処するために「ネットワーク診断」が効果的だ!というレビュー研究

2020年にフローニンゲン大学が発表したレビュー研究(#1)では、学校でのいじめに効率的にアプローチするために「ネットワーク診断」という手法を提唱しておられました。

ネットワーク診断とは?

文字通り、クラスでの生徒たちの人間関係について”ネットワーク”を使って体系的に調査を行うというものです。具体的には、生徒たちを対象にオンライン調査で以下の3つの項目について本人やクラスメイトの情報収集をします。

  • いじめや虐待: 過去数か月であなたはどのくらいいじめに遭いましたか?
  • 社会的立ち位置(クラスでのポジション、友好関係、クラスでの評判): あなたの親友は誰ですか?クラスで誰が最も人気だと思いますか?
  • 学校での幸福度: 「学校が楽しい」「学校は自分にとって安全な場所だ」に0~3のスケールで回答

こうしたシンプルな質問から、更に踏み込んだ質問をしていき、いじめがあったならそれはどんな形で起こっているのか?という詳細な部分までデータを集めていきます。


ネットワーク診断の活用法

次にネットワーク診断の活路ですが、当研究では以下のような使い方を提唱していました。

  • 回答をすべてまとめてクラスにいじめがあるかないか?をポイント集計する
  • 全員の回答を表や図に見やすくまとめる(生徒の回答が個人情報として厳しく守られる学校の場合は、図式化に留める)
いじめを最速で特定し減らすための「ネットワーク診断」

(#1)より引用。回答を図式化したもの。

ドラマの相関図みたいですが、こうすれば複雑な人間関係もかなり把握しやすくなりそうです。


ネットワーク診断を活用する際の5つのステップ

第三に、ネットワーク診断を活用する際の5つのステップについて論じていました。

  1. 問題を特定する: 診断結果から問題を特定する段階
  2. 問題を理解する: 問題の背景には何が関係しているのかを把握する段階
  3. 実行するプランを決める: 問題の背景を踏まえて、し、達成すべきゴールを設定し、その為に誰にいつどのようなアクションをとるのが効果的かを検討する段階
  4. プランを実行する: ゴール達成の為のアクションを実行する段階
  5. プランを評価する: アクションを実行してみてどの程度の成果が得られたのかを評価する段階
いじめを最速で特定し減らすための「ネットワーク診断」

(#1)を参考に筆者が作成。

ステップは上記の図のように循環させ、ひたすら「PDCAサイクル」を回していくというイメージになります。最後の評価段階で問題が完全に解決されなかった場合、再び何が問題だったのか?を特定する段階に戻ります。


ネットワーク診断の具体例

最後に、こうしたネットワーク診断を活用した場合の具体例を挙げてみます。

  1. 特定: ソフィーが学校での低い幸福度と直近でいじめに遭っていることを訴えていた!相関図によると、彼女には友達が少ないこと、彼女がいじめっ子として挙げた4名は友達同士であることが分かった。
  2. 理解: いじめが起こった背景として、ソフィーには友達が少なくターゲットにしやすかったこと、クラスでも疎外された立場であったことが関係していそうだ。いじめっ子4名を見てみると、アンナを除く3名は他のクラスメイトたちからはあまり好かれていないようだ。逆にアンナを友達として挙げるクラスメイトが多いことから、彼女がリーダー格とみて間違いなさそうだ。
  3. 決定: 問題を特定し、その背景まで探ることができたら、次に問題解決に向けた策を練るフェーズに入る。問題は複雑かつ前後関係によって最適解が変わってくるので、結論を急がずに慎重に対策を決めるべし。ここでは、ソフィーのクラスでの立ち位置や友達が少ないことが大きな原因になっていると鑑みて、彼女が他のクラスメイトともっと接点を持てるようになることを対策のゴールとし、これを達成する過程でいじめっ子たちのいじめのモチベーションも下がっていくと踏んだ。
  4. 実行: ソフィーが他のクラスメイトと仲良くなるために、クラスでサポートグループを結成する。メンバーには、クラスの人気者や、いじめに関わっていない社交的な生徒を中心に協力を要請する。この時、いじめのリーダー格とされるアンナや、いじめに関わっていない彼女の友達にもグループに加わってもらうことで、いじめのモチベーションが削がれることを狙った。
  5. 評価: 結果、対策がどのくらい効果的だったか?を評価する。ここでは対策後にソフィーから直接話を聞き、以前と比べて状況が善くなったか?を聞き取った。こうしたデータは、次回のネットワーク診断の際に活用していく。

注意点・まとめ

ただし注意点として、ネットワーク診断を直接校内でのいじめ対策に落とし込んだ研究成果などはまだ挙がっていません。今回のレビューは、過去に他の分野で行われたネットワーク診断の研究結果に基づいており、まだ初歩段階だといえましょう。

赤羽(Akabane)

私は長らく学校の現場からは遠ざかっているので、ハッキリしたことは言えないですが、学校側のいじめ対策は往々にして体系的な視点が欠けているように思えます。いじめが見つかったらいじめっ子を呼び出して叱れば解決するのでしょうか?…事はそんなに単純ではないと私は思います。いじめが一向に減らないのだとすれば、そのアプローチが間違っている可能性が高いですし、その場合は今回のような体系化されたアプローチを試験的に取り入れてみてもいいのかもしれません。

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参考文献&引用

#1 Kaufman, T.M.L., Huitsing, G., Bloemberg, R. et al. The Systematic Application of Network Diagnostics to Monitor and Tackle Bullying and Victimization in Schools. Int Journal of Bullying Prevention (2020). https://doi.org/10.1007/s42380-020-00064-5