沈黙か優しい嘘か…真実を打ち明けない場合、どちらが相手の為になるのか?という実験結果

沈黙か優しい嘘か...真実を打ち明けない場合、どちらが相手の為になるのか?という実験結果

赤羽(Akabane)

今回は「相手の為になるのは沈黙か優しい嘘か?」というお話です。

沈黙か優しい嘘か…真実を打ち明けない場合、どちらが相手の為になるのか?という実験結果

沈黙か優しい嘘。二者択一の選択はその人の立場で食い違う…

2018年にシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスやペンシルバニア大学の研究チームが発表した研究(#1)によると、嘘が相手にメリットをもたらす「優しい嘘」である場合、沈黙はかえって相手を不安にさせてしまうかもしれないようです。

この研究では7つの実験を行っていまして、合計3,883名を対象にしています。実験毎に色々な舞台が用意されていて、ヘルスケアや従業員の一時解雇、マネーゲーム、医療現場など、あらゆるシチュエーションが想定されていました。

実験のテーマは共通していて、【嘘をつくことで相手にメリットがある場合、それを相手は望むのか?それとも沈黙を貫いたほうがいいのか?】というもの。例えばある実験では、医者とがん患者、健康な人に参加してもらって、医療現場でありがちな4つのシナリオに対して「自分ならこうする」という風にそれぞれの立場で回答をしてもらっていました。

はたまた別の実験では、コインの表裏を当てるゲームを行っていまして、そのゲームの中で、彼らはコインの向きに関する情報を”伝える側”と””聞く側”に分けられました。コインの向きは表で固定されており、聞く側が表裏を言い当てた場合は損をし、逆に外した場合は得をするという設定。

伝える側には、【聞く側に真実を話す or 嘘をつく or 何も教えない】という3つの選択肢が与えられ、更に「相手は9割方あなたの情報を信じます」と伝えられました。こうして、嘘をつくのが相手の為になる状況が作り上げられました。そして何も知らない時点と、コインの表裏が分かって金銭的報酬の存在を明かされた時点で、聞く側のリアクションを比べるという内容でした。

前置きはこれくらいにして、上記の実験結果をザックリまとめると、以下のようなことが分かりました。

結果
  • 伝える側は嘘をつくことへの罪悪感やそれによる評判を優先的に気にする一方、聞く側はその嘘が自分にとって有益かどうかをより気にする傾向が見られた
  • 聞く側は、こうした伝える側が気にしていることにほとんど気づいておらず、優しい嘘も黙っていることもどちらも伝える側にとっては代償が大きいのでは?と回答する傾向が見られた(但しシチュエーションによって微妙に回答にはバラつきがあった)
  • 優しい嘘である限りは、聞く側は一貫して沈黙よりも嘘の方を好んだが、嘘によって自分が損をすると分かった途端に、沈黙を好むようになった

まとめると、まず「沈黙か優しい嘘か?」という状況では、両者の望む選択にはお互いのエゴが入り混じって食い違いが生じる傾向がある!と。具体的に、両者はこんな風に食い違ったという事です。


伝える側

嘘をつくよりもそれを黙ってた方が相手の為だし、倫理的な選択ではないだろうか!(嘘をつくのは何だか気が引けるし…)
いやいや、たとえ嘘だったとしても、それを黙ってるよりはちゃんと伝えてくれた方がいいんじゃないの..?(嘘でも何も知らされないよりは気持ち的にマシ)

聞く側


医療現場の例で言えば、患者がこの先もう長くないと分かっている場合に、医者は下手に嘘をついて一喜一憂させるよりは、何も言わずに患者に一時でも希望を持たせてあげた方がいい!という主張。一方で、患者からすれば「嘘でもいいから何も言わないのはやめてくれ!」という意見が多かったということになります。もちろん、真実を話すという選択肢があるのならば、両者ともそれが最適ということで満場一致でしたが。

また、嘘が優しい嘘かどうか?という点によって、受け取る側の反応はガラッと変わるようです。先ほどのコインゲームで言えば、相手の嘘が結果的に自分に報酬をもたらしてくれた場合、受け手はその優しい嘘を好んだのですが、逆に相手の嘘を信じて損をするという設定に変えた場合には、自分が損をすると分かった途端に「黙ってくれてた方が良かった..」と意見が反対になったのです。この辺りは感覚的に分かり易い話ですね。

注意点・まとめ

ただし注意点として、今回の実験では伝える側と聞く側でお互いの人間性や性格は知らされていませんでした。当然、「沈黙か優しい嘘か?」を決める際には、相手のパーソナリティも充分な判断材料になり得るので、今後はこの点も含めた追試があると面白いと思います。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 沈黙か優しい嘘か…真実を打ち明けない場合、受けてからすれば優しい嘘でも何か言ってもらった方が安心できるみたいだ
  • 例えば、患者がこの先もう長くないと分かっている場合に、医者は下手に嘘をついて一喜一憂させるよりは、何も言わずに患者に一時でも希望を持たせてあげた方がいい!と考える一方で、患者からすれば「嘘でもいいから何も言わないのはやめてくれ!」と不確実性を嫌う意見が多かった
  • ただし、この結果はその嘘が受け手にメリットをもたらす「優しい嘘」である場合に限り、嘘によって損を被る場合は沈黙の方が良いという意見にガラッと変わった

赤羽(Akabane)

真実を話せるのであれば、やはりそれに越したことはないようですが、時と場合によって、優しい嘘が相手にとっては心地よい結果になることも多々ありそうです。伝える側からすれば、優しい嘘でも伝えるには罪悪感を伴いますが、結局は自分と相手を天秤にかけてどちらを取るか?の究極の選択になってしまうのでしょうか…?

関連記事はこちらもどうぞ

【キーワードは罪悪感】「信頼できる人ってどんな人?」この問いの意外な答えとは?【キーワードは罪悪感】「信頼できる人ってどんな人?」この問いの意外な答えとは?信頼やモラルに関わる大事な要素「罪悪感と恥の傾向」の診断テスト16問信頼やモラルに関わる大事な要素「罪悪感と恥の傾向」の診断テスト16問【全部で2つ】人は罪悪感に苛まれている時にこんな仕草を見せる!という研究結果【全部で2つ】人は罪悪感に苛まれている時にこんな仕草を見せる!という研究結果

参考文献&引用

#1 Levine E, Hart J, Moore K, Rubin E, Yadav K, Halpern S. The surprising costs of silence: Asymmetric preferences for prosocial lies of commission and omission. J Pers Soc Psychol. 2018;114(1):29-51. doi:10.1037/pspa0000101