赤羽(Akabane)
目次
意志力の科学「ウィルパワー」は本当に使えば使うほど擦り減っていくのか?
まずはウィルパワーについてザックリおさらいしておきましょう。
意志力の科学「ウィルパワー」とは?
ウィルパワーは「意志の力」のことで、フロリダ州立大学の社会心理学教授ロイ・バウマイスター氏が提唱した説です。
この説によると、意志力は筋肉のように消耗するものなので、一日のうちに使える上限が限られてくるんですね。
この説は科学的なバックアップも強くて、2010年にメタ分析(#1)も行われています。そして83件の意志力研究をまとめた結果、ウィルパワーは一般化できるものだ、という結論が出ています。
ウィルパワーは本当に一般化できるのか?例外が報告されていた!
ただ、ここ数年でウィルパワーにも例外が報告されるようになってきています。例えば2017年に南洋理工大学が発表した研究(#2)では、ウィルパワーは西洋文化では一般化できるかもしれないけれど、インドでは逆の傾向が見られたよ!との報告が上がっています。
この研究では大きく6つの実験を行っていて、実験ごとにアメリカ人やスイス人、インド人を対象にしたり、文化別に同時に比較したり、とにかく文化や人種の違いでウィルパワーにどんな違いがみられるのか?を調べています。
具体的な内容は、先に脳のリソースを消耗する大変なタスク or 楽なタスクのどちらかをやらせてから、本題のタスクに取り組んでもらってウィルパワーの減り具合をタスクのパフォーマンスで確かめる、という感じが主流でした。
すると実験全体をまとめて、こんな結果になったようです。
- アメリカ人やスイス人だと大変なタスクをやるほどウィルパワーが擦り減っていた
- インド人の場合は逆の傾向がみられて、大変なタスクを先にやるほど後のウィルパワーが高まっていた
まとめると、西欧の文化圏ではウィルパワーが擦り減っていく傾向が見られたのに対して、インドでは逆に使うほどウィルパワーが増えていく傾向が見られたんですね。
こうした現象は「リバース・エゴデプリーション」と呼ばれていて、「使えば使うほど、意志力は減っていくものだ」という、従来のエゴデプリーションの考え方とは真逆の意味を持ちます。つまり、エゴデプリーションの考え方は、必ずしも文化横断的に正しいとは限らないということになります。
注意点・まとめ
ただし今回の結果を受けて「ウィルパワーは嘘だった!」みたいに拡大解釈をしないように注意が必要です。西洋の文化では一般化できるエビデンスがある一方、インドだと例外が見られたんだ、という感じで留めておきましょう。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 人間の意志力は、筋肉のように使うほど擦り減る有限の資源だという「ウィルパワー」
- これまでの大規模分析では西洋の研究がほとんどだったが、インドで検証したら「ウィルパワーは使っても擦り減らない」傾向が見られた
- ウィルパワーは文化や人種によってかなり左右される可能性が高い
こんな感じでしょうか。こうなってくると、日本人にもウィルパワーって適用できるのか?と思えてきますが、この辺りは今後の研究を待つ他なさそうです。(上で紹介したメタ分析にも日本の研究は含まれていない)
赤羽(Akabane)
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#1 Hagger MS, Wood C, Stiff C, Chatzisarantis NL. Ego depletion and the strength model of self-control: a meta-analysis. Psychol Bull. 2010 Jul;136(4):495-525.
#2 Savani, K., & Job, V. (2017). Reverse ego-depletion: Acts of self-control can improve subsequent performance in Indian cultural contexts. Journal of Personality and Social Psychology, 113(4), 589-607.