赤羽(Akabane)
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高血圧と塩分過多の新たな経路!塩分を取りすぎると腸内環境が悪化するかも
この話については、例えば2017年に「Nature」誌に掲載された研究(#1)が参考になります。
有名科学雑誌「Nature」に掲載されたマウス実験
この実験では、まずマウスを対象に次のような2パターンの食事を与えました。
- 高ナトリウム食:食塩が4%の割合で含まれる食事
- 通常食:食塩が0.5%の割合で含まれる食事
そしてそれぞれの食事を14日間続けて、マウスの腸内環境を糞便から覗いてみると、こんなことが分かりました。
- 高ナトリウム食を続けたマウスでは腸内のラクトバシラス属の腸内細菌(乳酸菌が大半を占める)が減っていた
つまり、食塩を大量に含む食事をしたマウスでは腸内の善玉菌である乳酸菌などが減っていたんですね。しかもこうした影響に加えて、自己免疫性の脳せき髄炎、食塩感受性高血圧なども引き起こされたようです。
でこの実験には続きがあって、ここで研究チームは「じゃあラクトバシラス属の腸内細菌を再投入したらどうなるの?」ということで、「L. murinus」というラクトバシラス属のプロバイオティクスをマウスに与えました。すると結果は、
- L. murinusを与えられたマウスはTH17細胞の発生が抑えられて、自己免疫性の脳せき髄炎、食塩感受性高血圧が改善した!
こんなことに。どうやら塩分の摂りすぎによって腸内の乳酸菌などが減ることで、こうした炎症や高血圧が起きている可能性が高いみたい。
ちなみにTH17細胞の増加は、過去の研究(#2)でも高血圧の患者の傾向として確認されていたりします。自己免疫や炎症性サイトカイン(炎症のサイン)とも関わりが深い細胞で、これの発生を乳酸菌などの善玉菌が抑えてくれる、と。
ヒト対象の実験でも同様の結果が得られた!
そして更に当研究のナイスなポイントは、同様の実験をヒトも対象にして行っているところ。内容と結果をザックリまとめると、
- 12名の健康な男性を対象に、普段の食事に加えて6gの食塩タブレットを毎日2週間摂り続けてもらったところ、腸内のラクトバシラス属細菌が減ってTH17細胞も増加、血圧も上昇した
こんな感じで、さっきのマウス実験と同様の結果が得られたんですね。
ちなみにこの実験中に実際に参加者らが摂っていた食塩量は13.8±2.6 gくらいだったみたい。これは緩いと言われている日本の厚生労働省の上限基準量(#3)を上回るくらいの量で、一日の摂取量としてはかなり多いほうです。(*18歳以上男女で一日当たり食塩8g、7gまで)
注意点・まとめ
ただしこのテーマはまだ初歩段階で他の研究成果も少ない状況。一応過去の研究(#4)では、ラクトバシラス属の細菌が高血圧患者の血圧を改善してくれるとの報告も上がっていて、それなりに信憑性はありますが。
では最後に今回の内容をまとめます。
- 塩分の摂りすぎで腸内の善玉菌(乳酸菌など)まで減ってしまうかも
- この結果はマウスだけでなくヒトでも確認された(※実験の質は低いので追試は必須)
- 乳酸菌を含むヨーグルトやプレバイオティクスで高血圧が改善するのは、腸内細菌の改善が関わっている可能性が示唆された
こんな感じでしょうか。腸内細菌の支配は血圧のコントロールにまで及んでいた、と。本当に腸内細菌って何にでも関係してるんだな…と改めて思いますね。
赤羽(Akabane)
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#1 Wilck N, Matus MG, Kearney SM et al. Salt-responsive gut commensal modulates TH17 axis and disease. Nature. 2017 Nov 30;551(7682):585-589.
#2 Qingwei Ji, Guojie Cheng, Ning Ma, et al. Circulating Th1, Th2, and Th17 Levels in Hypertensive Patients. Dis Markers. 2017; 2017: 7146290.
#3 厚生労働省『平成25年国民健康・栄養調査結果の概要』2019年7月10日アクセス。
#4 Aditya Upadrasta and Ratna Sudha Madempudi. Probiotics and blood pressure: current insights. Integr Blood Press Control. 2016; 9: 33–42.