赤羽(Akabane)
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運動前の静的ストレッチによるパフォーマンスダウンを防ぐ方法とは?
従来の常識であった「運動前には入念にストレッチを!」という説は、近年では否定する結果が相次いでいて、2013年には103件もの研究結果をまとめたメタ分析によってもその逆効果が実証されてしまいました。
では本当に運動前の静的ストレッチはパフォーマンスにとって完全悪になってしまうのでしょうか?このテーマについてもう少し詳しく見ていきます。
運動前の静的ストレッチでパフォーマンスを下げないためには
2009年にオーストラリア国立スポーツ研究所が発表した研究(#1)によると、運動前のストレッチも競技の動きを取り入れたウォームアップと組み合わせればパフォーマンスダウンには繋がらない!とのことでした。
この研究では13名のネットボール選手(平均19歳前後)を対象に、以下の2つのウォームアップ→運動の流れを経験をしてもらうという実験を行いました。
- Day1:計300mのジョギング→ 静的ストレッチ→ 垂直跳び&20mスプリントテスト→ ネットボールに特異なアップ→ 垂直跳び&20mスプリントテスト
- Day2:計300mのジョギング→ 動的ストレッチ→ 垂直跳び&20mスプリントテスト → ネットボールに特異なアップ→ 垂直跳び&20mスプリントテスト
要は、一連のウォームアップの中で動的、静的なストレッチを取り入れるとその後のパフォーマンスにどう響くのか?を見ているんですね。また1回目のテストの後で、彼らの本領であるネットボールに特異なウォームアップを挟んだら結果は変わるのか?という点も見ています。
ちなみに両日の間には1週間くらい空けて、それぞれのパフォーマンスに影響がないようにしたようです。
そしてこの実験の結果、以下のようなことが分かりました。
垂直跳び(テスト1回目) | 20mスプリント(テスト1回目) | 垂直跳び(テスト2回目) | 20mスプリント(テスト2回目) | |
---|---|---|---|---|
静的ストレッチ | 43.1cm (40.1–46.0) | 3.53秒 (3.45–3.61) | 45.5cm (42.5–48.6) | 3.50秒 (3.40–3.60) |
動的ストレッチ | 45.0cm (42.1–47.9) | 3.48秒 (3.39–3.57) | 45.9cm (42.8–48.9) | 3.49秒 (3.39–3.59) |
上記の結果をまとめると、こんな感じになります。
- 静的ストレッチは動的ストレッチよりも垂直跳びやスプリントのパフォーマンスが落ちていた
- しかし静的ストレッチをした後に、競技に近い動きを取り入れたウォームアップをすることで、パフォーマンスは動的ストレッチと大差なくなった
まとめると、やはり静的ストレッチを準備運動として取り入れるとその後の運動パフォーマンスが落ちた模様。ですが、ネットボールに特異な動きも組み合わせることでパフォーマンスダウンが見られなくなったんですね。
この結果から考えられるのは、ウォームアップに取り入れる運動には体温を温める効果がある動きがベストなのかも?ということ。動的ストレッチやネットボールのウォームアップはどちらも体温を高める効果が見込めるので、この点が静的ストレッチとの差を生んでいるんではないか?と。
注意点・まとめ
ただし注意点として、今回出た結果は単一の研究によるものなので、まだ濃厚な話とは言えません。サンプルサイズも小さいですし、今後の追試次第といったところでしょうか。
また検証されたのがネットボールに特異な運動だったので、具体的に他のスポーツや格闘技などの運動様式をウォームアップに取り入れた場合はどうなるのか?という点もハッキリとは分かりません。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 最近の科学の見解では「運動前の静的ストレッチはパフォーマンスを低下させる」という説が濃厚になっている
- しかし今回の研究結果では、確かに静的ストレッチで運動パフォーマンスが落ちたが、競技に特異な動きと一緒に取り入れることで悪影響が緩和された
- 運動パフォーマンスを高めるウォームアップには、体温を高める効果がある運動を取り入れたほうがいいのかもしれない
こんな感じでしょうか。運動前の静的ストレッチも、取り入れ方次第では言われているほど問題はないのかもしれません。
赤羽(Akabane)
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#1 Taylor KL, et al. Negative effect of static stretching restored when combined with a sport specific warm-up component. J Sci Med Sport. 2009;12(6):657-61.