赤羽(Akabane)
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禁煙するなら今?新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化リスクはタバコで高まるって本当?
新型コロナウイルス(COVID-19)は一部の人で重症化することが分かっていて、その中に「喫煙者」も含まれるという話があります。
この辺りを調べた研究も増えてきたので、この記事では現時点での研究結果をまとめて見ていって、最後に考え得るメカニズムも見ていきます。
喫煙はCOVID-19の重症化リスクを高めないのでは?
まずは2020年3月中旬にヴェローナ大学が発表したメタ分析(#1)で、喫煙はCOVID-19重症化リスクを格段高めないのでは?との結果でした。
この研究は、5件の研究からCOVID-19感染患者1,399名分のデータ(うち288名が重症患者)を解析したもので、喫煙歴がCOVID-19の重症化リスクとどのくらい関係しているのか?をまとめたものです。
分析の結果は以下のようになりました。
- 喫煙はCOVID-19の重症化リスク増加とわずかに相関があったが、統計的に有意な差はなかった(オッズ比 1.69; 95% CI, 0.41–6.92; p=0.254)
この結果を受けて、研究チームは以下のように仰っていました。
結論、中国の患者のデータに基づいた今回のメタ分析は、喫煙には、COVID-19の症状の進行や重篤化リスクの増加と有意な相関が確認されなかったことを示している。[筆者訳]
ただし注意点として、対象に含まれた5件のうち、大半のサンプルサイズを占める1件の研究では、喫煙に関するデータがないという問題があります。
この点を踏まえると、今回のメタ分析は患者の喫煙歴を正確に反映できていないのではないか?とも考えられるわけですね。
COVID-19の重症化リスクはタバコを吸っていると高まる!
一方で2020年4月16日にカリフォルニア大学サンフランシスコ校が発表したメタ分析(#2)では、COVID-19の重症化リスクはタバコを吸っていると有意に高まるぞ!との結果でした。
この研究は、12件の関連研究から9,025名のCOVID-19感染患者のデータ(うち重症患者878名、喫煙者495名)を集めて、COVID-19重症化ケースと喫煙の相関をまとめています。
結果は以下のようになりました。
- 喫煙者はCOVID-19の重症化リスクが有意に高かった (オッズ比 2.25, 95% CI 1.49-3.39, p=0.001)
ただし注意点としては、この研究は学術雑誌には掲載されておらず、正式な査読などを受けていない未出版論文です。その点、データが不完全な可能性は否定できません。また「重症化」の基準が研究毎にバラバラで、この辺りも結果をインフレさせているかも..。
喫煙者は非喫煙者よりもCOVID-19重症化リスクが1.4倍だった!
次は2020年3月中旬にクレタ大学が発表した系統的レビュー(#3)で、こちらも喫煙者は非喫煙者よりもCOVID-19重症化リスクが1.4倍高まるぞ!という結果になっていました。
この研究は、5件の過去研究からCOVID-19感染患者1,549名分のデータをレビュー&解析したもので、最終的に【喫煙者 vs. 非喫煙者】で重症化リスク比を算出してくれています。
結果はザっとこんな感じでした。
喫煙者は非喫煙者と比べて..
- COVID-19感染で重症化するリスクが1.4倍(RR=1.4, 95% CI: 0.98–2.00)
- ICUに搬送されて人工呼吸器が必要になったり、死亡するリスクが2.4倍(RR=2.4, 95% CI: 1.43–4.04)
こうして見ると、喫煙者はCOVID-19感染によって重症化するリスクが高いと言えそうです。具体的に、重症化リスクは40%↑、ICU搬送や死亡リスクは140%↑という数値が出ているのも参考になりますね。
ただし注意点として、上記のリスク比の数値は、他の生活習慣などの要素を調整していないので、データの精度は低いかもしれません。
喫煙は他の基礎疾患と並んでCOVID-19重症化リスク因子である!
そして2020年3月下旬にシーラーズ医科大学が発表したメタ分析(#4)では、喫煙は他の基礎疾患と並んでCOVID-19重症化リスク因子だ!という結果でした。
この研究は、10件の研究からCOVID-19感染患者76,993名分のデータを解析したもの。基礎疾患やその危険因子を持ちあわせている人で、COVID-19感染によって症状が重症化する割合をまとめています。
そして感染患者の中で、それぞれの危険因子を持つ割合は以下の通りでした。
- 高血圧…16.37% (95%CI: 10.15%-23.65%)
- 循環器疾患…12.11% (95%CI 4.40%-22.75%)
- 喫煙…7.63% (95%CI 3.83%-12.43%)
- 糖尿病…7.87% (95%CI 6.57%-9.28%)
ここから言えるのは、実際にそうなった割合で見ても、喫煙者はある程度重症化する割合が大きいんじゃないか?ということです。
結果にかなりバラつきがあったり、喫煙を対象にした研究は6件だけといった注意点もありますが、他の基礎疾患と比べて喫煙の重症化率はどのくらいなのか?が比較で分かり易い点はナイスですね。
タバコがCOVID-19の症状を重症化させるメカニズムとは?
ではタバコがCOVID-19を重症化させるのはどうしてなのでしょう?現段階で報告が上がっているメカニズム(#5)は、ザっと以下の通りです。
- アンジオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE-2)という肺などに多く存在する酵素が、COVID-19の主な受容体(受け皿になって細胞内に取り込む役割を持つ)となっている
- つまり、ACE-2が増加することでCOVID-19が取り込まれやすくなる
- ACE-2は喫煙によって増加することが分かっているため、タバコがこうしたリスクを高めている可能性があると考えられる
またACE-2は血圧の調整にも深く関わっている酵素で、COVID-19の重症患者に高血圧の患者が多いのは、ACE-2がCOVID-19と先に結びついてしまうため、血圧のコントロールが効かなくなるのでは?との可能性も示唆されていますね。
まとめ
まとめると、現段階では喫煙がCOVID-19を重症化させる可能性を示唆するデータが優勢だと言えましょう。先ほど紹介したメカニズムを踏まえても、重症化リスクを出来る限り減らすならば、喫煙者の方はこの機会に禁煙に挑戦してみても良いのかな?と思えます。
- 現時点では、タバコがCOVID-19の重症化リスクを高めるというデータが優勢
- 喫煙者は非喫煙者よりも重症化リスクが40%高い、また他の基礎疾患に並んで重症化の危険因子である、とする報告があがっている
- タバコがCOVID-19の重症化リスク高めるメカニズムとしては、アンジオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE-2)という肺などに多く存在する酵素の増加が一つ有力な候補となっている
赤羽(Akabane)
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#1 Lippi G, Henry BM. Active smoking is not associated with severity of coronavirus disease 2019 (COVID-19) [published online ahead of print, 2020 Mar 16]. Eur J Intern Med. 2020;S0953-6205(20)30110-2.
#2 Roengrudee Patanavanich, Stanton A Glant. Smoking is Associated with COVID-19 Progression: A Meta-Analysis. MedRxiv, April 16, 2020.
#3 Vardavas CI, Nikitara K. COVID-19 and smoking: A systematic review of the evidence. Tobacco Induced Diseases. 2020;18(March):20. doi:10.18332/tid/119324.
#4 Emami A, Javanmardi F, Pirbonyeh N, Akbari A. Prevalence of Underlying Diseases in Hospitalized Patients with COVID-19: a Systematic Review and Meta-Analysis. Arch Acad Emerg Med. 2020;8(1):e35. Published 2020 Mar 24.
#5 Leung JM, Yang CX, Tam A, et al. ACE-2 Expression in the Small Airway Epithelia of Smokers and COPD Patients: Implications for COVID-19. Eur Respir J2020.