赤羽(Akabane)
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加齢による脳の記憶力低下は「単なる衰え」じゃないかも?
若者~高齢者まで500名以上のfMRIデータを集計した実験結果
2020年にカリフォルニア大学の研究チームが発表した研究(#1)によると、加齢によって脳の記憶力は低下するというより変化しているのでは?とのことです。
この研究では、健康な546名(18~88歳)を対象に、8分のショートムービーを観てもらいつつ、その間の脳の活動をfMRIで測定するというシンプルな実験を行いました。
ちなみに、実験で使われたショートムービーはこちら。
この実験でチェックしているのは、記憶を司る脳の部位「海馬」やそのネットワークの活動で、その中でも特に、記憶力に大事とされる「イベント・バウンダリー(Event boundary)」への反応でした。
これは、短期記憶から長期記憶へと一気にイベント(情報データ)が送られる際にそれらを後から取り出し易いようにイベントごとにカテゴリ分けをしておくプロセスです。ホールケーキも四等分に切った方が取り出し易いのと一緒で、このプロセスが優れていると記憶の出し入れがスムーズになります。今回で言えば、ムービーのシーンが一区切りついたところで、この活動が強まると予想されます。
そして「年齢によってこの辺りの活動に違いはあるの?」という検証を行った結果、ザっとこんなことが分かりました。
- イベント・バウンダリーに対する海馬の反応は高齢者になるほど弱まっていった(特に海馬後部で)
- 別の記憶力診断ツールを使用したところ、上記の反応の強弱によって最も記憶を想起する能力を予測できた(弱いほど、直後・しばらく時間をおいての想起力がいずれも低かった)
- イベント・バウンダリーに際して、若者ほど、海馬傍回や角回、後内側皮質などが活性化しており、一方で高齢者ほど、内側前頭前野や中側頭回が活性化していた
ここから言えるのは、確かに高齢になるほど記憶を区分けする力が衰えるかもしれないものの、一方で別の部位が若者よりも活性化しているし、一概に「衰え」とは言い切れないんじゃないか?単にイベントに対する脳の反応が「変化」しているだけではないか?ということです。
また、海馬を前部と後部のパーツに分けると、どうも後部との結びつきが強いみたいですね。いずれにしても、イベント・バウンダリーに対する海馬の反応は記憶の出し入れをする際にかなり大事だということは間違いなさそうです。
注意点・まとめ
ただし注意点として、ザっと以下の点を押さえておくと良さそうです。
- 実験に使われたムービーは短い&1種類のみ: 8分のムービーの中でイベント・バウンダリーは12箇所あったが、もっと他の題材でも検証が欲しい
- 参加者は英語圏の人たちのみ: サンプルは一か所のデータセットから集められたので、他の地域や文化圏での追試があればなお良い
fMRIを使った実験としてはかなりサンプルが多かったですが、題材が限定的だったのが今後の課題でしょうか。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 加齢による脳の記憶力低下は「単なる衰え」じゃないかも?
- 実験では、記憶を司る脳の「海馬」やそのネットワークの活動、中でも記憶の区分けに重要な「イベント・バウンダリー」への反応を分析した
- 結果、確かに高齢者ほどイベント・バウンダリーへの海馬の反応が弱くなる傾向が見られたが、一方で若者では活動が低下していた部位が活性化しているなど、年齢によって違った脳活動が確認された
赤羽(Akabane)
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#1 Reagh, Z.M., Delarazan, A.I., Garber, A. et al. Aging alters neural activity at event boundaries in the hippocampus and Posterior Medial network. Nat Commun 11, 3980 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-17713-4