酒は健康にいい?「定年後のお酒で寿命が伸びる」説はどこまで本当なのか?

酒は健康にいい?「定年後のお酒で寿命が伸びる」説はどこまで本当なのか?

赤羽(Akabane)

今回は「多少のアルコールで長生き!説」についてのお話です。

酒は健康にいい?「定年後のお酒で寿命が伸びる」説はどこまで本当なのか?

まずはこの問題について、ここ最近のハイライトをザっと見ておきましょう。

2018年の過去最大級&最高品質のメタ分析「お酒は減らすに越したことはない」

この問題については過去にも何回か議論していて、2018年に出た最大規模&最高品質のメタ分析(#1, #2)では、それぞれ次のような結論になっていました。

  • 最も早死にリスクが下がるお酒の消費量はなんとゼロ(#1)
  • アルコール相当量で週当たり100g、一日だと14.3gまでなら早死にリスクは上がらない(#2)

つまり、早死にや循環器疾患のリスクを下げたいなら、お酒は少ないに越したことはないぞ、と。

こうした研究の強みは、それ以前にたくさん出ていた「多少のアルコールで長生き説」を支える研究の弱点を克服している点。これはアブステイナーバイアスといって、「酒を飲まない群」に「昔飲んでいて調査時点では禁酒している人」が混じる可能性があったんですが、これら2件の研究はこの可能性をしっかり考慮しているんですね。

定年後、程々のお酒は長生きになる?16年間の調査データでわかった飲酒と早死にの相関カーブ

ではここから本題へ。この問題について最近新しい研究が発表されていて、「定年後のお酒で長生きに」という酒飲み再歓喜!な結論が出ています。

これは2019年にコロンビア大学が発表した研究(#3)で、「Health and Retirement Study (HRS)」という退職者データから7904名(調査開始時平均61歳)を対象にしたもの。

追跡期間は1998~2014年の16年間で、その間2年に一度は生存チェックや飲酒の状況を確認をしたようです。この手の研究は入り口の1回しか確認をしないことが多いので、この点はナイスだと思います。

で飲酒の状況については、細かく次のように分類しました。

  • 全く飲まない:生涯にわたって調査時点までお酒を飲まない
  • 調査時点では禁酒している:過去に飲んでいたが調査時点では禁酒している
  • たまに飲む:中程度より少ない頻度で週1回以下で飲む
  • 中程度は飲む:週1~2程度は飲む
  • とてもよく飲む:毎日3杯以上飲む

これを2年ごとに計9回、過去3ヵ月くらいの飲酒習慣を参考に逐一答えてもらったみたい。例えば時が経てば、「中程度は飲む→調査時点では禁酒している」という風に習慣が変わることもあるわけです。

すると大まかな結果は、こんな感じになりました。

結果
  • 「調査時点では禁酒している」人が最終的に最も早死にリスクが高かった
  • 「かなり飲む」もやはり早死にリスクが高かったが、この場合時期が比較的早かった
  • 「中程度は飲む」人は最も早死にリスクが低かった
  • 次点で「たまに飲む」人も早死にリスクが低かった
  • 「たまに飲む」「中程度は飲む」場合の方が「全く飲まない」より早死にリスクが低かった

つまり定年後は途中で禁酒するよりも、嗜む程度のお酒で長生きに繋がる可能性がある、と。

しかもこうした結果は、家計状況、喫煙、BMI、健康状態、うつ、慢性病、年齢、学歴、性別、人種などの細かい別要素も考慮しての結果だったようです。

注意点・まとめ

ただし注意点は幾つかあって、

注意
  • 舞台はアメリカだけ:他地域や文化で同じ結果になるか?は分からない
  • 食生活や運動習慣、その他重要な別要素までは考慮しきれていない:早死にリスクに影響がある重要な要素の見落とし
  • アンケート調査である:参加者の主観が混じりやすくて、正確さには欠ける

この辺りは押さえておくとよろしいかと思います。正直3つ目は研究デザイン上仕方ないと思いますが、舞台がアメリカだけで、更に食生活や運動など大事なポイントを考慮できていない点は結果にかなり影響がありそうです。

また飲酒の分類によっては対象者数が少なかったり、統計をするにはデータが少なすぎる場合もあった様子。(例:「かなり飲む」女性はあまりいなかった)

では以上を踏まえて今回の内容をまとめます。

ポイント
  • 最新の研究で「定年後は程々のお酒で長生きに」という結果が得られた
  • アブステイナーバイアスなど過去研究の問題点をクリアしてはいるが、他の問題がある
  • ここ最近の質の高い研究と比較すると、「お酒は少ないに越したことはない」がまだ優勢な感じはする

こんな感じでしょうか。これまでの「程々の飲酒で長生きに」研究とは一味違う面白い研究でしたが、今度は大事な別要素の問題が浮き彫りになりました。

赤羽(Akabane)

冒頭で紹介した大規模研究たちと併せて考えると、私は依然、「お酒は少ないに越したことはない」寄りの意見です。詳しい内容は以下の記事で触れていますので、興味のある方は是非。

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参考文献&引用

#1 GBD 2016 Alcohol Collaborators. Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. VOLUME 392, ISSUE 10152, P1015-1035, SEPTEMBER 22, 2018.

#2 Angela M Wood, Stephen Kaptoge, Adam S Butterworth,et al. Risk thresholds for alcohol consumption: combined analysis of individual-participant data for 599912 current drinkers in 83 prospective studies. LANCET,Vol 391 April 14, 2018.

#3 Keyes KM, Calvo E, Ornstein KA, Rutherford C, Fox MP, Staudinger UM, Fried LP. Alcohol Consumption in Later Life and Mortality in the United States: Results from 9 Waves of the Health and Retirement Study. Alcohol Clin Exp Res. 2019 Jul 5.