赤羽(Akabane)
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否定されるほど自分の意見に固執する「バックファイア効果」は本当に存在するのか?
ではまず「バックファイア効果」についてザっとおさらいしておきましょう。
否定されるほど自分の意見に固執する「バックファイア効果」とは?
バックファイア効果は、人は自分の意見や信念を否定されたり、間違いを指摘されたりすると、かえって自分の考えに固執する心理を指しています。「Backfire」は直訳で逆火、つまり思わぬしっぺ返しを食らうようなイメージですね。
この心理現象は2010年にミシガン大学が発表した研究(#1)がもとになっていて、実験内ではイラク戦争とブッシュ大統領の決断に関わるニュースを扱っていました。
ザックリ言うと、「イラクが大量破壊兵器を隠し持っていたから、ブッシュ大統領は危険と判断して戦争に踏み切ったんだ!」というニュースを流すグループと、それに加えて「大量破壊兵器は見つからなかったんだ」という報告書を上乗せしたグループで、その後の主張を見ていったんですね。
そして「アメリカの侵略の直前に、イラクは大量破壊兵器を持っていたが、米軍が到着する前にそれらを隠したり壊したりできたはずだ」という説にどのくらい賛成するか?を尋ねたところ、後者のグループでこの説に強く同意する傾向が見られました。
この結果は【大量破壊兵器を隠し持っていた!→信じる→後から大量破壊兵器は見つからなかったんだ!と否定される→大量破壊兵器は事前に隠したり壊したりできましたよね?→そうに決まってる!】という思考回路があったことを表していて、これがバックファイア効果のあらましです。
バックファイア効果ってどのくらい再現できるの?
ここで「じゃあバックファイア効果って他のテーマでも再現できるの?」という問題が気になります。
これについては、2019年にオハイオ州立大学の教授らが発表した研究(#2)が参考になりましょう。この研究では、10100名以上を対象に、52種類の問題でバックファイア効果が本当に起こるのか?を調べてくれていました。
で結論から言うと、バックファイア効果はほとんど再現できなかったみたいです。
では具体的にどんな問題を取り扱ったんでしょう?ザっとこんな感じでした。
- 銃社会アメリカでの銃殺事件の件数:アメリカでは一日に88~92名が銃殺されていて、こうした惨劇は留まるところを知らない..というニュースの後、実はアメリカでの銃殺件数は90年代半ばから減っていて、1994年から2013年にかけては50%も減っているんだよという修正情報を入れる
- 今日の女性の労働力について:今では女性の労働力が高くなっているにもかかわらず、女性は男性の1ドルに対して77セントしか得られていない!おかしい!というニュースの後、実は他の色んな要素をちゃんと考慮すると、女性は男性の1ドルに対して95セント稼げているよという修正情報を入れる
- アメリカの税率について:アメリカは世界で最も税率が高い国だし、これから税をかなり減らしてくよ!というニュースのあと、実は先進国で2番目に税が少ないという修正情報を入れる
52種類ある割には、テーマはビジネス、政治経済、社会辺りがほとんどでしたね。そしてこのほとんど、元の研究と同じテーマを除いては、バックファイア効果は確認されなかったようです。
この結果について、研究チームは次のように仰っていました。
総じて、人々は情報が事実なのかどうかを注意深く見ることができるということだ。これは彼らの支持する思想に関わる情報であったとしても、だ。[筆者訳]
過去の研究で言われているよりも、人はもっと事実関係に注意して物事を判断できるんじゃない?ということですね。バックファイア効果って実はかなり限られたテーマでしか起こらないんじゃないの?と。
注意点・まとめ
ただ注意点としては、今回検証されたテーマ以外にもバックファイア効果が確認される可能性もあるということでしょうか。テーマの数が多いわりにはジャンルも限定されてましたし。と言っても、現時点ですでに言われている程広く確認できる現象でもなさそうですが..。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 否定されるほど自分の意見に固執する「バックファイア効果」
- 一般化できる現象なのか検証したところ、元の研究と同じテーマで試した場合以外はほとんど再現できなかった
- 完全に否定はできないが、一般化できるレベルではなさそう
こんな感じでしょうか。そもそも、元の研究では追加の報告書の中でそれまでの真実を否定するだけ、という実験デザイン的にもちょっと微妙な内容ではありましたね。
赤羽(Akabane)
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#1 Brendan Nyhan, Jason Reifler. When Corrections Fail: The Persistence of Political Misperceptions. Political Behavior, June 2010, Volume 32, Issue 2, pp 303–330.
#2 Thomas Wood, Ethan Porter. The Elusive Backfire Effect: Mass Attitudes’ Steadfast Factual Adherence. Political Behavior, March 2019, Volume 41, Issue 1, pp 135–163.