音楽に子どもの認知機能や学業成績をアップさせる効果はない!というメタ分析

音楽に子どもの認知機能や学業成績をアップさせる効果はない!というメタ分析

赤羽(Akabane)

今回は「音楽は子どもの認知機能や学業成績アップに効果がないかも…?」というお話です。

音楽に子どもの認知機能や学業成績をアップさせる効果はない!というメタ分析

「音楽で頭が良くなる!」というのはよく聞く話かと思います。実際に、当サイトでも過去に紹介したメタ分析(#1)では、音楽の特訓で子どものIQや記憶力ならやや伸ばせるかも?といった結果が出ています。

ただ、こうした効果は質の高い実験のみにフォーカスすると、ほとんど消えてしまうのでは?という可能性も指摘されていまして、前回は何だか微妙な結果に終わってしまっていたんですよね..。

というわけで、今回はこのテーマに関するアップデート情報を見ていきます。
子ども 音楽 幼少期 成績 IQ【学業成績・IQ】幼少期の音楽で子どもの頭が良くなる!はどこまで本当なのか?

54件の過去研究をまとめた最大級のメタ分析

2020年に藤田医科大学が発表したメタ分析(#2)の結論では、改めて音楽は子どもの認知機能や学業成績に何らメリットをもたらさない!ということになりました。

この研究は、1986〜2019年に発表された54件の過去研究から6,984名の子どもを対象に、音楽が彼らにもたらす認知・学業面でのメリットを検証したもの。過去に出ていた類似のメタ分析よりも規模感も質も高くなっていて、アップデート版と銘打っております。

中身の特徴をざっとまとめると、こんな感じでした。

  • 対象の子どもは音楽経験がなく、疾患などは抱えていない幼児〜青年たち(3〜16歳、平均6.45歳、中央値5.9歳)
  • 過去のデータから相関関係を見つけるような研究デザインは省き、時間を追って音楽の効果を検証している実験のみを含めた
  • 各実験では、楽器を練習したりといった音楽の特訓(期間は平均29.29週間、中央値26週間、合計の時間は平均53.37時間、中央値30時間)を行い、その結果として認知テストや学業成績といった項目への効果を検証した

*認知テスト・学業成績の例…文章の読み書き、記憶、言語能力、空間認知、処理能力、論理的思考、数学の問題

前回の分析が、38件の研究から3,085名を対象に行われていたことを考えると、ココに来てかなりのボリュームアップ感です。

そして上記の分析結果をまとめると、以下のようなことが分かったようです。

結果
  • 全体で、僅かだが音楽による認知・学業成績アップ効果が確認され、結果には中程度のバラつきが見られた(g = 0.184, SE = 0.041, τ2 = 0.041, I2 = 43.16%, p < .001)
  • しかし、バラつきの原因を探ると、実験の質が低い研究で高い効果が報告されていることが分かった
  • 比較対象に「アクティブグループ」を据えた場合や、実験のグループ分けをランダム化している場合に絞ると、音楽の認知・学業成績アップ効果は見られなくなり、この結果はバラツキもなく一貫していた

*質が低い研究…アクティブグループを取り入れていなかったり、実験のグループ分けがランダムでなかったりすると、バイアスが混じりやすく、効果が高く出やすくなる
*アクティブグループ…何もしないグループを比較対象にせず、今回であれば比較グループを音楽以外の別の活動に取り組ませる

つまり、頭をよくする為に子どもに音楽をやらせるのは無意味ではないか?と。しかも、こうした結果は一部の分野に留まらず、どのジャンルでも一貫しています。

また、細かい検証の結果、実験期間や子供の年齢、結果項目の測定方法といった違いによっては、特に影響が見られなかった様子。つまり、他の要素よりも「実験の質」の違いによって、結果が左右されている可能性が高いと考えられるわけですね。

注意点・まとめ

規模や質が増して、分析結果に対する信頼性の厚みは増しましたが、依然として長期的な結果を裏付けるものではないんですよね。その点はひとまず注意が必要かと思われます。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 音楽による子どもの認知機能・学業成績アップ効果は、短期・中期的に見るとかなり弱いかゼロに等しいかもしれない
  • 今回54件の過去研究から6,984名の子どもを対象に行われたメタ分析では、全体的に僅かな効果が認められたが、質の高い研究にのみフォーカスすると、その効果はほとんど無くなってしまった
  • こうした結果は、子どもの年齢や実験期間、結果の測定方法に関係なく確認され、このことからも、結果のバラつきが実験の質によって左右されている可能性は高い

赤羽(Akabane)

この話については、結局のところ「短・中期的には音楽で頭が良くなるメリットってほとんどないよね」という落としどころになりそうです。前回からやや進展はありましたが、費用面を考慮しても長期的な実験はなかなか難しいでしょうな..。

関連記事はこちらもどうぞ

子ども 音楽 幼少期 成績 IQ【学業成績・IQ】幼少期の音楽で子どもの頭が良くなる!はどこまで本当なのか?【種類・メカニズム】音楽はストレス解消にどのくらい効果があるのか?過去最大級の研究の結果...【種類・メカニズム】音楽はストレス解消にどのくらい効果があるのか?過去最大級の研究の結果…

参考文献&引用

#1 Giovanni Sala, Fernand Gobet. When the music’s over. Does music skill transfer to children’s and young adolescents’ cognitive and academic skills? A meta-analysis. Educational Research Review Volume 20, February 2017, Pages 55-67.

#2 Sala, G., Gobet, F. Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis. Mem Cogn (2020). https://doi.org/10.3758/s13421-020-01060-2