赤羽(Akabane)
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「人の嘘は表情や仕草で分かる!」という一般常識は実は既に否定されている
タイトルでネタバレですが、詳しいデータを見ていきましょう。
嘘をついているかどうか?は表情や仕草の違いからはほとんど読み取れないようだ
2003年にヴァージニア大学とミズーリ大学コロンビア校が発表したメタ分析(#1)によると、嘘をついている時とそうでない時では、表情や仕草に出る違いは些細なもので、見破る手かがりとしては弱い!ということです。
この研究では、1970年以降に発表された120件の研究(3件はそれ以前)をまとめていて、それぞれの実験はザッと以下のようなデザイン・文脈で行われたようです。
- 【嘘をつく vs.真実を話す】の2つのケースを比較して、両者の特徴にどんな違いがあるのか?をチェック(話に一貫性がない、情報提供に非協力的、話に説得力がない、緊張・不安の表情が伝わる、話がしっかりし過ぎている、返答までの時間、など)
- 実験で嘘をつく/真実を話す文脈は、自分の態度や考えについて話を進める場合や、写真や映像などで観た内容について説明する場合が大半で、他にもズルをしたり物を盗ったりしたことを隠したりするシチュエーションも数件あった。実験内で役割を演じるのに、カンペは用意されている場合とアドリブの場合で半々くらいの割合だった
- 嘘はどんな時に見破られやすいのか?をチェック(実験の文脈、デザイン、トピックなどによる違い)
幾つかの実験では、嘘を突き通せたらモノや金銭、アイデンティティを保てるなど報酬が与えられるケースもありました。アイデンティティに関しては、「嘘を突き通せる人というのは、有能なんですよ」などと予め説明しておいたりして、「失敗したら無能だと思われる…!」と思い込ませておいたみたい。何ともタチの悪い…(笑)
そして上記の実験をまとめると、以下のようなことが分かりました。
- 嘘つきには、対話者から見て緊張やネガティブといった印象がつきやすく、情報提供にも消極的だったり、詳しい部分には触れようとしない傾向が見られたが、その他の表情や仕草に関する特徴と嘘との相関はかなり弱かった
- 嘘を突き通せたらいいことがあるという状況では、むしろ嘘が見破られやすかった(金銭的報酬、モノ、自分のアイデンティティや威厳を保つ、など)
- 実験のトピックが「違法行為の隠匿」になると、嘘が見破られやすくなった
まとめると、嘘つきは正直者とは確かに違った印象があるようですが、表情や仕草を手掛かりに嘘を見破れるかどうか?は怪しそうです。
また、実験の文脈上、「嘘を突き通せたら良いことがありますよ!」という状況にある程、逆に嘘をつくのに失敗してしまうという、面白い事もわかりました。こうした傾向は、モノやお金の報酬がある場合よりも、自己のアイデンティティや威厳を保てる場合で特に見られた様子。所謂、「シロクマ効果(皮肉仮定理論)」の仕業でしょうか。
*シロクマ効果…「シロクマのことを考えないでください」と言われる程シロクマのことが頭から離れなくなる心理現象。この場合、嘘を突き通せば良いことがある!→でも意識しすぎると失敗しちゃう…→考えないようにしよう!→かえって気になってしまった…→失敗。という一連の流れがあったのかもしれない。
ちなみに、今回嘘つきとの関連性を否定された表情・仕草には、ザッとこんなものが含まれていました。
- 頭や腕、脚の動きや姿勢の変化、俯く、頷く、肩を竦めるなど
- 口角を上げる、微笑む、冷笑する、顎を上げる
- アイコンタクト、目の動き、睨む、表情の変化
こうした表現や仕草は、嘘をついていない時とさほど変わらないようで、どうも嘘を見分ける判断材料にはならない、と。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ざっと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- 大半が学生のみを対象としている: 小さい子どもや高齢者など、違った年齢層でどこまで一般化できる内容なのか?分からない
- 大半がアメリカの研究である: 次いでカナダが9件、ドイツが7件とあるが、人種や文化に偏りがある
- 大半が初対面の知らない人と組ませて実験を行っている: 知り合いや友達同士で行われた実験はほとんどなく、見知った間柄だとまた違った結果になるかもしれない
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 「表現や仕草をよく見れば嘘は見抜ける!」という説は、実は結構前から疑問視・否定されている
- 120件をまとめたメタ分析によると、嘘をつくと相手に緊張やネガティブな雰囲気が伝わることや、情報提供に消極的になることはあるが、体のパーツの動きなどから嘘を見抜くのは難しいという結論になった
- 嘘を突き通すことで自分にメリットがある場合や、自分の罪を隠したい時には、かえって嘘がバレやすいということも判明
赤羽(Akabane)
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#1 DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74–118. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.74