マッスルメモリーの仕業?かつて鍛えた筋肉は初めてとは全く違った反応を見せるようだ

マッスルメモリーの仕業?かつて鍛えた筋肉は初めてとは全く違った反応を見せるようだ

赤羽(Akabane)

今回は「鍛えたことのある部位とそうでない部位ではトレーニングに対する反応はどう違うのか?」というお話です。

マッスルメモリーの仕業?かつて鍛えた筋肉は初めてとは全く違った反応を見せるようだ

参加者の両脚を比べる実験!鍛えた脚はそうでない脚とどう違う?

2020年にスウェーデンの研究機関が発表した研究(#1)によると、一人の人間の両脚で比べても、かつて鍛えた方の脚はそうでない方の脚とは全く異なる生体反応を見せたようです。「で、結局鍛えていた方がいいの?」という点については、先に言っておくとハッキリしていません。

この研究では、トレーニング経験のない19名の男女(平均25歳)を集めて、まず片脚だけ鍛える10週間の筋トレプログラムをこなしてもらう実験を行っています。

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トレーニングメニュー…週3回のトレーニングでレッグプレス、レッグエクステンションをそれぞれ3セットずつ行う。強度は1RMの70~85%くらい。各トレーニング後には25gのホエイプロテインを摂取。

それから、一旦20週間トレーニングから離れて、久しぶりに筋トレを再開します。今度は両脚を鍛える筋トレを行って、脚ごとにどんな反応の差が出るのか?という点をチェックしていったんですね。

そして当日の安静時・トレーニング1時間後に、両脚の「外側広筋(太ももの外側の筋肉)」を生体検査しまして、結果を比べたところ、ザっとこんなことが分かったそうです。

結果
  • 鍛えていた脚の方がトレーニング前後でAMPKやeEF2のリン酸化率が高かった
  • トレーニング後で4E-BP1のリン酸化率も18%高かった。一方で、鍛えていなかった脚と比べてPGC1αのmRNAレベルは18%低かったが、トレーニング後にPGC1α-ex1aの転写が60%増加していた
  • 鍛えていた脚の方で安静時のSPRYD7遺伝子は低かったが、トレーニング後には鍛えていない脚でのみ35%減少し、結果的にSPRYD7のレベルは鍛えていた脚の方が高かった

*AMPK…体のエネルギーセンサーのようなもので、活性化すると筋たんぱく合成は抑えられる。eEF2…AMPK活性化に伴いリン酸化が進む遺伝子。4E-BP1…mTORのターゲットになり、リン酸化すると活性化し筋たんぱく合成を高めるとされる。PGC1α…運動で骨格筋内に多く発現し、エネルギー代謝を高めるとされる。SPRYD7…まだ詳しい機能は分かっていないが、体型に関わる遺伝子とされる。

何やら専門用語が沢山出てきましたが、まとめると、鍛えていた脚で筋たんぱく合成の促進を示す変化もあれば、エネルギー代謝を高める変化もあって、検査項目によってまちまちだった!と。例えば、AMPKやeEF2は体内のエネルギー利用を高めて筋たんぱく合成は抑える方向に働き、一方で4E-BP1は筋たんぱく合成を促進する方向に働く、といった感じです。

また、性別で細かく見てみると、どうやら上記の生体反応の大半は男性でしか見られなかったり、女性よりも男性で大きな差が出ていた様子。男女で筋繊維タイプの構成比が違っていたりするので、この辺は頷ける話かと思います。

そして面白いことに、20週間トレーニングから離れた後の両脚の筋断面積には有意差が見られなかったようです。つまり今回の結果は、骨格筋内の細胞核が増えたことによるものというよりは、細胞の構造的な変化によるものなのではないか?と考えられるんですね。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ざっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • サンプルサイズは小さい: 参加者数が少ない分、統計的なパワーは弱い
  • サンプルは限定的: 若者でしか試していないので、中年や高齢者の場合は分からない
  • 生体検査は一時点でしか行われていない: 検査は安静時を除くとトレーニング1時間後に1回しか行われておらず、データが少ない。複数の日程でトレーニング後30分、1、2、3時間後という風に時点を細かく分けるとより参考になりそうだ

全体的にデータとしてはまだ心許ない印象ですが、マッスルメモリーに関する研究は最近まで動物実験が大半を占めるレベルでしたので、これでもかなり大きな進展かと思います。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 一人の人間の両脚で比べても、かつて鍛えた方の脚はそうでない方の脚とは全く異なる反応を見せた
  • 具体的には、検査項目となる遺伝子や酵素によってバラバラだったが、筋たんぱく合成を助ける方向に働く変化もあれば、エネルギーの利用効率を高める方向に働く変化もあった
  • こうした生体反応の違いは性別の影響も受けやすいようで、軒並み男性でのみ確認されたり、女性より男性で高く見られるケースが多かった

赤羽(Akabane)

小難しい内容でしたが、少なくとも「筋肉を鍛えることでその骨格筋内の遺伝子構造などが変わる」というのは間違いなさそうです。筋トレも奥が深いです…。

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参考文献&引用

#1 Moberg M, Lindholm ME, Reitzner SM, Ekblom B, Sundberg CJ, Psilander N. Exercise Induces Different Molecular Responses in Trained and Untrained Human Muscle. Med Sci Sports Exerc. 2020;52(8):1679-1690. doi:10.1249/MSS.0000000000002310