赤羽(Akabane)
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新型コロナウイルス感染患者が他の感染症との合併症を引き起こすリスクはどのくらいなのか?
2019年12月に中国・武漢で初の新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が確認されてから、かれこれ一年が経とうとしています。
もうじき冬に突入し、例年ではインフルエンザが流行る季節になりますが、そうなるとますます医療現場への負荷がかかって大変な状況になりそうです。ではCOVID-19感染者が他の感染症と合併症を引き起こすリスクはどのくらいなのか?今回はこの辺りをまとめたデータを紹介します。
過去30件から約4,000名のデータをメタ分析!COVID-19感染者が細菌・ウイルス感染症を引き起こす割合は?
2020年にノッティンガム大学が発表した系統的レビュー&メタ分析(#1)によると、COVID-19感染患者が細菌やウイルス感染症に重感染する割合は例年のインフルエンザよりも低いのでは?との結論になっていました。
この研究では、30件の過去研究から3,834名分のデータを集めており、主にCOVID-19に感染している入院患者やICUへ搬送された患者などを対象にしています。目的は、COVID-19感染患者は他の感染症の合併症をどのくらい引き起こしているのか?を明らかにすることでした。
果たして、分析の結果は以下のようになりました。
- COVID-19感染症の入院患者のうち、7%で細菌感染症の重感染が確認された(95%CI 3~12%; 研究数18件, I2=92.2%)
- ICUに搬送された重症の患者のみだと、うち14%が細菌感染症の重感染を起こしていた(95%CI 5~26%; 研究数6件, I2=74.7%)
- COVID-19感染症の入院患者のうち、3%でウイルス感染症の重感染が確認された(95%CI 1~6%; 研究数16件, I2=62.3%)
- ICUに搬送された重症の患者のみだと、うち5%がウイルス感染症の重感染を起こしていた(95%CI 1~14%; 研究数2件, I2=?%)
まとめると、COVID-19の入院患者の間で細菌やウイルス感染症にかかっている割合は全体の1割に満たない程度だった!と。この結果から、研究チームは次のように述べていました。
結論、COVID-19の患者で細菌感染症を併発している割合は、依然のインフルエンザの大流行時よりも少ないことが分かり、黄色ブドウ球菌や肺炎レンサ球菌、化膿レンサ球菌などの影響を裏付けるエビデンスも乏しかった。全体的に、これらの発見は、COVID-19感染を診断された大勢の患者に実験的に抗生物質を投与する試みを止めるべきだという主張を支持するものである。[筆者訳]
COVID-19患者で他の感染症を併発している場合の危険度はどのくらい?
今回対象になった研究のうち4件でこの点を調査していまして、結果は以下の通りでした。
- COVID-19患者で他の感染症の合併症を持つ場合は合併症がない場合よりも死亡リスクがかなり高かった(オッズ比: 5.82, 95%CI 3.4~9.9, I2=85.4%)
COVID-19感染患者が合併症を引き起こしていた感染症とは?
また今回の分析では、うち17件で合併症の病原体を特定してくれていまして、ザっと以下のようなラインナップでした。
- マイコプラズマ肺炎(最も多い)
- 緑膿菌
- インフルエンザ菌
ちなみに、上記の病原体の分布は、以前のインフルエンザの時とはかなり異なるものだそうで、COVID-19とインフルエンザウイルスでは引き起こしやすい合併症もかなり違ってくるみたい。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、以下の点は押さえておくと良さそうです。
- サンプルに偏りがある: 全体の8割近くの研究は中国からのもので、日本で行われたものはなかった。また、含まれたサンプルの年齢の中央値は42~63歳と高齢気味だった
- データの質は全体的に低め: 重感染の詳細なデータが一部の研究でしか報告されていなかったりして、全体の研究数やサンプルサイズの割には細かい分析に必要なデータが足りていない
- 結果には大きなバラつきが見られる: 研究毎に細菌の重感染リスクなどの結果がバラバラで、これに対して他の要素の影響を分析するリグレッションテストなどの統計的なアプローチも出来ていない(重症度、患者の基礎疾患、治療内容の違いなど色々な要素が影響を与えていると考えられる)
恐らく、COVID-19による未曾有の緊急事態で病院や他の医療施設もひっ迫しており、細かくデータを取っている時間がないなどの理由があるのでしょう。その結果、細かいデータ分析ができないというのが今後の課題ではありますが、現状では仕方がないと思います。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- COVID-19の入院患者の間で、細菌やウイルス感染症にかかっている割合は3~14%程で、主に全体の1割に満たない程度だった
- COVID-19の合併症として特定された感染症には、マイコプラズマ肺炎が最も多く報告されており、次いで緑膿菌、インフルエンザ菌という順番だった
- ただしデータの質は全体的に低かったり、研究間での結果のバラつきも大きく見られた。データが欠けていたり少ないので、こうしたバラつきに影響を与えている要素も探れないという状況
赤羽(Akabane)
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#1 Lansbury L, Lim B, Baskaran V, Lim WS. Co-infections in people with COVID-19: a systematic review and meta-analysis. J Infect. 2020;81(2):266-275. doi:10.1016/j.jinf.2020.05.046