赤羽(Akabane)
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【両脚 vs. 片脚】筋トレによる「トレーニング効果の転移」の違いはどう生まれるのか?
まず「トレーニング効果の転移」について軽く触れておくと、筋トレなどによって体力をつけることが、結果として特定の競技・スポーツでのパフォーマンスの向上につながるような現象を指します。例えば陸上競技者がスプリントで伸び悩んだ時に高重量のスクワットをやってみる、みたいな感じですね。
というわけで、この記事では下半身のトレーニング効果の転移について参考になりそうなデータを見ていきます。
両脚 vs. 片脚!トレーニング効果の転移はどう変わるのか?
2020年にエディスコーワン大学が発表したRCT(#1)によると、トレーニング効果の転移を高めるのに実際の競技の動きに似ている方がいいとは限らない!とのことです。
この研究では、33名のラグビー選手(平均22.4歳)を対象に、彼らを以下の3つのグループにランダムで分けて、各トレーニングを8週間こなしてもらう実験を行いました。
- 両脚グループ(13名):怪我予防のトレーニングに加えて、下半身トレーニングでスクワットを行う
- 片脚グループ(10名):怪我予防のトレーニングに加えて、下半身トレーニングでステップアップを行う
- 比較グループ(10名):普段通りに過ごす
トレーニングは週に2回、ボリュームは6~8セット × 4~8レップを1RMの45-88%の範囲内で、グループ間でなるべく揃えたようです。つまり両者で違うのは「両脚か片脚か?」という部分だけだということになります。
そして実験前後で、スクワットやステップアップの1RM測定、20mスプリント、50度の方向転換テストを実施してみたところ、以下のような結果になったようです。
- 実験前後で見ると、両脚&片脚トレーニングの両方でスクワット・ステップアップの1RMがアップしていて、ステップアップの1RMは片脚の方が効果が高かった
- 20mスプリントのパフォーマンスも両グループで僅かにアップしていたが、グループ間での差は特に見られなかった
- 50度方向転換のパフォーマンスも両グループでアップしていたが、両脚トレーニングの方が片脚よりも中程度アップしていた
まとめると、両脚でも片脚でもトレーニングによる効果の転移はある程度確認されましたが、微妙に違いもあったぞ、と。方向転換の動作なんて片脚でサッと行うものなので、まさに片脚ずつ踏み込むステップアップの方が効果がありそうですが、今回の実験では逆にスクワットトレーニングに軍配が上がりました。
こうした結果から言えるのは、トレーニング効果の転移で重要なのは、動作の様式が似ていることよりも、トレーニングの結果として起こる生理学的な刺激がパフォーマンス向上に繋がりやすいか?を重視してあげることだということ。現に、スクワットの方がしゃがみ込む動作で筋肉の伸張局面が長い分、刺激が大きかったからだという可能性も考えられますね。
注意点・まとめ
ただし今回の研究にも注意点があって、ザっと以下の点は押さえておくとよろしいかと思います。
- トレーニング初心者やビギナーなどで同様の結果になるかは分からない:対象者はトレーニングガチ勢なラグビー選手だったので、他の特徴を持つ人たちでどこまで一般化できるかは分からない
- チーム規模で対象者を集めたので実験の意図を参加者らは知っている:比較実験ではなるべく参加者に実験の意図を知らせない方がより客観的なデータが得られるが、今回は難しかった
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- トレーニング効果の転移を狙うには、見た目の動作が似ているトレーニングをやるべし!という考えは必ずしも正しいとは限らないかも
- 今回の実験では、動作が似ている片脚トレーニングをした場合よりも、両脚トレーニングの方が方向転換動作のパフォーマンスがアップしていた
- トレーニング効果の転移が狙うには、トレーニングの見た目の動作を似せることよりも生理学的な刺激がパフォーマンスアップに繋がるのか?を重視した方が良いのかもしれない
こんな感じでしょうか。ややマニアック(?)な内容になってしまいましたが、よく言われる「競技者は実際の競技に似せた動作のトレーニングを行うべき」みたいな考えは正しいとは限らない!という可能性が示唆されたんですね。
赤羽(Akabane)
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#1 Brendyn B Appleby. Unilateral and Bilateral Lower-Body Resistance Training Does Not Transfer Equally to Sprint and Change of Direction Performance. J Strength Cond Res, 34 (1), 54-64 Jan 2020.