平等を掲げる「相互主義」がむしろ貧富の差を拡大してしまう仕組みとは?

平等を掲げる「相互主義」がむしろ貧富の差を拡大してしまう仕組みとは?

赤羽(Akabane)

今回は「相互主義がかえって貧富の差を拡大してしまう恐れ」についてのお話です。

平等を掲げる「相互主義」がむしろ貧富の差を拡大してしまう仕組みとは?

寛大さは確かに大事だが経済的な裕福さに敵わない部分もあるらしい

2018年にスタンフォード大学が発表した研究(#1)によると、恩を受けたら返す「相互主義」はかえって経済的な格差を助長してしまう恐れもあるぞ!ということが分かりました。

この研究では2つの実験を行っていまして、いずれも参加者にお金に関するゲームをやってもらうというもの。実験内で行われたゲームはザっとこんな感じです。

  1. 実験は「与える」「受け取る」の2つのフェーズに分かれ、参加者を「お金を与える人」「お金を受け取る人」に分ける
  2. 与えるフェーズでは、参加者は最初に手持ちポイントとして60 か 200Pをもらう(プレーヤー間で貧富の差をつくる)
  3. 「今後プレイする他の人にあなたは幾らPを投資しますか?」という問いに対し、手持ちPの20% か 50%の2択で答える(例: 200Pプレイヤーなら40か100Pになる)
  4. 受け取るフェーズでは、参加者は計4名の中からお金を受け取る相手を1名選ぶが、この4名は手順2で生まれた貧しい人か裕福な人から2名ずつランダムで選ばれる(この時手持ちポイントが表示されるようになっており、どのくらい裕福かが分かる)
  5. 選んだ1名が与えるフェーズで選択したポイントをそのまま受け取ることができる。同時に相手が寛容かケチかという点も明らかになる仕組み(200P持ちで40Pだったらケチ)

参加者らは、上記のゲームをそれぞれ数十回速いテンポでこなしていきました。実験①では、その後自分が選んだ与え手に対して、サプライズで20,40,60,80,100Pで好きな額をお返しする機会が与えられました。一方で実験②では、今後プレイする人の参考になるように、自分が選んだ相手を5つ星評価してもらった様子。そして実際に別のプレイヤーを対象に星5評価付きでPをもらう相手を選ぶ実験を行ったようです。

この実験で見ているのは、「相手の貧富やもらった額でお返しの額はどう変わるのか?」「相手がケチだと分かっていたらリアクションは変わるのか?」みたいなところです。

すると結果はこんな感じになりました。

結果
  • 裕福で寛大なプレイヤー(手持ちが多く50%あげた人)が最もお返しの額を割合多く貰っていた
  • 寛大かどうか?がお返しの額の割合にとって最も重要なポイントで、ケチなプレイヤーは寛大なプレイヤーよりもお返しで貰える額が割合少なかった
  • 5つ星評価が同じプレイヤーで揃えた場合、参加者は貧しいプレイヤーよりも裕福なプレイヤーに2倍近く多くの額を与えていた

つまり、寛大さが最も重要なのは間違いないものの、人は受け取った恩の大きさによっても返す恩が大きくなりがちだ!と。もらったら返すの世界では裕福な人ほどアドバンテージが大きくて、貧しい人は不利になりがちなのでは?という可能性が示唆されました。現に、寛大さの評価を揃えた場合には裕福なプレイヤーの優位性が一目瞭然です。

このように、平等を謳う相互主義であっても、寛大さだけではどうにも経済力に敵わない部分が出てくる、というのが今回のハイライトでしょう。また、この実験を現実の文脈に落とし込むと、経済力による恩恵よりも相手の寛大さに人々の目を向けさせる政策などがあれば、ある程度この現象を緩和できるのではないか?とも指摘されていました。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • サンプルは限定的: アマゾンのデータバンクから参加者を募っており、国や文化の多様性がない分、どこまで一般化できる内容か?は不明
  • あくまで実験内のゲームの話: これは言い出したらキリがないが、実験では一人につき数十回ゲームをプレイさせており、ゲーム内でのそれぞれの選択を数秒ずつの速いペースで行わせている。この結果を現実の文脈にどこまで適用していいのかは分からない

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 「相互主義」はかえって経済的な格差を助長してしまう恐れもあるぞ!というお話
  • 今回の実験では、金銭を与え合うゲームを行った結果、裕福で寛大なプレイヤーが最もお返しの額を割合多く貰っており、寛大さが同じくらいである場合は貧しいよりも裕福なプレイヤーの方が2倍近く多い割合の額を受け取っていた
  • 平等を謳う相互主義であっても、寛大さだけではどうしても経済力に敵わない部分が出てくる可能性が示唆されると同時に、経済力による恩恵よりも相手の寛大さに人々の目を向けさせる政策などがあれば、ある程度この現象を緩和できるかもしれない可能性も出てきた

赤羽(Akabane)

なかなか示唆に富んだ実験でした。今回はお金にまつわる相互主義がテーマでしたが、こうした傾向はお金以外のモノにも当てはまるのではないでしょうか?自分がどれだけメリットを享受できるか?よりも、相手の施しの寛大さに目を向ける、これは一人一人が個人レベルで始められる意識ではないかと思います。

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参考文献&引用

#1 Hackel LM, Zaki J. Propagation of Economic Inequality Through Reciprocity and Reputation. Psychol Sci. 2018 Apr;29(4):604-613. doi: 10.1177/0956797617741720. Epub 2018 Feb 23. PMID: 29474134.