赤羽(Akabane)
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言語が無意識のうちに性別のステレオタイプを根強くしている?
25種類の言語を対象に性別のステレオタイプとの結びつきを調査した実験結果
2020年にカーネギーメロン大学が発表した研究(#1)によると、性別のステレオタイプが根強くなってしまう背景には、「言語」も大いに関係があるのでは?という結論になっていました。
この研究では、我々が先ほど挙げたような性別のステレオタイプに陥るのには、大きく2つの要因があると仮定しています。
- 体験…ナースの例だと、実際に病院に行って看護師のほとんどが女性であることを身をもって知り、「看護師には女性の方が向いているからこうなんだ」という考えが根強くなってしまう
- 言語…性別に特有の名前(サムvs.アシュリー)や代名詞(彼vs.彼女)、性別で変わる名詞(ウェイターvs.ウェイトレス)など、言語の中に潜在的にある性別の意識が知らず知らずのうちに根強くなっていく。他にも、世界中の全言語の3割ほどに存在する、性別によって文法が変わるケース(スペイン語など)も大いに影響する可能性はある
そして今回は、中でも「言語」に注目して実験を行っていきました。研究では、25言語を対象に大きく2つの実験を行っていまして、人の潜在意識を解明するテスト「IAT(Implicit Association Test)」のデータや、色々な言語のスピーカーたちが抱える無意識のステレオタイプを洗い出すテストを行った様子。後者は、例えば「女性」という単語を聞いたときに、「家庭」や「家族」といった単語がどのくらい連想されるか?みたいなテストでして、この結果が言語の特徴によってどう変わるのか?を見ていったようです。
最終的なサンプルは39ヶ国から657,335名にものぼり、果たして実験の結果はこんな感じになりました。
- 25言語全てで、女性を「家庭」男性を「キャリア」などと連想する潜在的な性別のステレオタイプの傾向が見られ、こうした傾向は高齢者や女性で強かった
- 性別によって職業の名詞が変わるケースがある言語では、そうでない言語よりもスピーカーが男女のキャリアに対して潜在的なステレオタイプを抱える傾向が見られた
- 性別によって文法が変わる言語かどうか?はこうした潜在的な性別のステレオタイプには関係がなかった
まとめると、言語の種類にかかわらず性別のステレオタイプはかなり蔓延していることが改めて判明し、一部性別によって名詞が変わったりする特徴を持つ言語では、その話し手が男女の職業キャリアに関するステレオタイプを持ちがちであることも分かりました。
また、今回の実験には続きがありまして、上記の調査結果を現実の世界のコンテクストに照らし合わせています。具体的には、UNESCOによる性別の平等性に関するレポートの内容と比較しており、その結果、潜在的な性別のステレオタイプと女性がSTEM(科学・技術・エンジニアリング・数学)の分野で活躍している割合に逆の相関があることが判明しました。つまり、性別のステレオタイプが強い言語の地域ほど、理系の分野で女性が活躍している割合が少なかった、という事です。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- 因果関係を裏付けるものではない: 実験デザインが過去のデータから相関関係を洗い出すというタイプなので、言語がスピーカーたちの潜在的なステレオタイプを生み出している!とは言い切れない。言語以外の要素がどのくらい影響しているのか?といったところも分からない
- IATの信頼性・有効性には賛否がある: 今回の調査基準となった「IAT」はかなり有名なテストだが、それゆえか結果の信頼性や有効性に関する検証実験が多く報告されており、結果はまちまちになっている
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 今回の研究によると、「男が稼いで女は家庭を支える」といった性別のステレオタイプが根強い背景には、体験と言語の2つが大いに関係しているのだそう
- 今回の調査対象になった25言語では、どれも性別のステレオタイプが強い傾向が見られ、特に高齢者や女性で強かったようだ
- 実際に、今回の調査で性別のステレオタイプが強かった言語の地域では、理系の分野に進出する女性の割合が少ない傾向にあることも判明した
赤羽(Akabane)
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#1 Lewis, M., Lupyan, G. Gender stereotypes are reflected in the distributional structure of 25 languages. Nat Hum Behav (2020). https://doi.org/10.1038/s41562-020-0918-6