赤羽(Akabane)
目次
楽器の演奏は脳に良さそうだが、種類や中身で効果が違うんじゃない?
参考になるのが2019年に梨花女子大学校が発表したメタ分析(#1)で、過去に発表された10件のRCTや比較実験から635名を対象に行われたもの。
まず今回対象の研究では「楽器の演奏」の細かい中身を見ていくのに、大きく2つのタイプに分けました。
- 楽器の演奏のみの実験(5件)
- 楽器の演奏+アルファで何かやる実験(5件)
で具体的には、実験内で次の楽器演奏と認知機能調査が行われたようです。
楽器演奏の中身
- 即興演奏、ピアノの練習、リズムを覚えたり楽譜を読みながらのパーカッション、決まったリズムでグループでの楽器演奏、歩きながら楽器演奏
認知機能の7つのカテゴリ
- 一般的な認知機能
- 処理スピード
- 記憶力
- 言語の流暢さ
- 注意力のコントロール
- 実行機能
- 空間認知能力
ここからちょっと複雑になりますが、更に上の楽器演奏たちを鍛えられる認知領域ごとに3つのジャンルに分けました。
即興演奏+追加の認知タスク | パーカッションを鳴らしつつ即興でリズムを変えたり、指示通りのリズムを作る |
即興演奏+追加のアクションタスク | 歩きながらパーカッションを鳴らしたり歩くペースを変える |
持続的な演奏 | 音楽理論を学んだり楽譜を読みながらピアノを弾く |
要は、ひと口に「楽器の演奏」といっても各々で使う脳の領域が違っていて、ここではそれぞれが生み出す効果の違いを見たい、と。
では結果を見ていきましょう。
一般的な認知機能 | 処理スピード | |
即興演奏+追加の認知 | 0.12[-0.17,0.41] | 結果なし |
即興演奏+追加のアクション | 0.40[0.16,0.64] | 結果なし |
持続的な演奏 | 結果なし | 0.94[0.52,1.35] |
記憶力 | 言語の流暢さ | |
即興演奏+追加の認知 | 0.00[-0.34,0.34] | 0.36[-0.35,1.07] |
即興演奏+追加のアクション | 結果なし | 0.19[-0.10,0.48] |
持続的な演奏 | 0.94[0.39,1.49] | 0.03[-0.68,0.73] |
注意力のコントロール | 実行機能 | |
即興演奏+追加の認知 | 0.32[0.02,0.68] | 0.05[-0.29,0.39] |
即興演奏+追加のアクション | 0.20[-0.55,0.94] | 0.24[-0.07,0.55] |
持続的な演奏 | 0.08[-0.31,0.46] | 0.52[0.12,0.44] |
空間認知能力 | |
即興演奏+追加の認知 | 0.36[-0.35,1.07] |
即興演奏+追加のアクション | 0.19[-0.10,0.48] |
持続的な演奏 | 0.03[-0.68,0.73] |
やはりジャンルによって効果が見込める領域が違うみたい。情報処理や記憶みたいなワーキングメモリに関わる領域は「持続的な演奏」で、言語能力や空間認知能力あたりは「即興演奏」タイプが効果的に見えます。
ちなみに10件中4件の研究では、実験後に認知機能改善がちゃんと続いてるか?を調べてくれていて、この結果はまちまちだった様子。つまり楽器演奏の認知機能改善効果はその後もずっと続くかは分からない、と。
また注意点も幾つか挙げておきますと、
- 今回の結果は高齢者のみ対象
- 高齢者の中でも、認知が健康な人と症状を抱える人で結果にバラつきがあった
- 「即興演奏+追加のアクション」ジャンルの実験は質が低い
この辺りは押さえておくとよろしいかと思います。つまり若者や中年で同じ効果が得られるとは限らないし、ジャンルによって対象の研究数も少ないので、確実な結果とは言えない、と。
では今回の結果をまとめます。
- パーカッションで即興でリズムを作ったりする演奏スタイルは言語能力や空間認知、注意力コントロールに効果が見込めるかも
- 楽譜を読んでピアノを弾く、みたいな演奏スタイルは記憶や情報処理などワーキングメモリ機能に効果が見込めるかも
- 楽器を演奏しながら歩いたりするスタイルについては今後質の高い実験を待とう
こんな感じでしょうか。結論とまではいかないものの、ひとまずはコレを参考に、鍛えたい脳の領域に応じて使い分けてみてはいかがでしょうか。
赤羽(Akabane)
関連記事はこちらをどうぞ
限界的練習はやっぱりパフォーマンス向上や分野での成功に大事な要素だ!という異論成功の重要ポイント「限界的練習」は世間が言うほどスキル上達に関係がない件。参考文献&引用
#1 Soo Ji Kim, and Ga Eul Yoo. Instrument Playing as a Cognitive Intervention Task for Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Psychol. 2019; 10: 151.