「本番になると緊張で本来のパフォーマンスが出せない…」が起こる脳科学的な仕組みとは?

「緊張して本番で本来のパフォーマンスが出せない…」が起こる脳科学的な仕組みとは?

赤羽(Akabane)

今回は「本番で緊張して100%の力が発揮できないのってどうしてなの?」というお話です。

「緊張して本番で本来のパフォーマンスが出せない…」が起こる脳科学的な仕組みとは?

スポーツの試合や音楽の発表会、学校のテスト…何かの”本番”というのは格別緊張しますよね。

では、そもそもどうして本番に限って私たちは緊張で空回りしてしまうのでしょう?この記事では、そのメカニズムについて迫ります。

本番で緊張してパフォーマンスが低下するのには大脳の背側帯状回皮質が関係していた!

参考になるのが、2019年にフランス国立科学研究センターが発表した研究(#1)でして、このメカニズムに関係しているのは脳の背側帯状回皮質という部位であり、パフォーマンスを改善する方法まで突き止めたようです。

この研究の全体概要をザックリ説明すると、緊張するタスクに取り組ませる前に、そのタスクの学習方法を分けることで、本番の成績やその時の脳活動にどんな変化が表れるか?といった感じです。

この研究では、大きく3つの実験が行われました。最初の実験は、18名を対象に、計10個のボタンを正しく速く押すタスクをやってもらうというもので、このタスクにはスポーツや音楽に似せた学習要素を盛りこんであるようです。実験では、まず本番前に彼らを以下の2つのグループ分類しました。

  • 部分学習: タスク本番前、10個のボタンを6/4に分割して学習する
  • 一括学習: タスク本番前、10個のボタンをまとめて学習する

(#1)より引用。最初の実験の概要図。

このグループ分けの狙いは、一連のタスクの動作を細分化して覚えるのか全体像としてザックリ掴むのか?という学習プロセスの違いによって、本番の成績や脳活動に表れる違いを確認することです。テニスに例えるなら、サーブの一連の動作を、ボールを高く上げる・ジャンプする・ラケットを振り下す、みたいに分割して練習するイメージでしょうか。

そして、1セット40回×2をこなして腕慣らしをした後、本番フェーズに突入。ここからは、ボタンを間違えたり、押すのが遅かったりすると、そこそこの威力の電気ショックを腕に受けるという綱渡り的なタスクに移行します。
*電気ショックの威力は、程々のキツさになるように、各参加者の主観に合わせて事前に調節した

すると実験の結果、こんなことが分かりました。

結果
  • 本番前の段階では、部分学習グループの方が一括学習よりもボタンの反応速度が速まっていた
  • しかし本番になると、部分学習グループのボタン反応速度は著しく低下し、ミスタッチも増加した

まとめると、細かくタスクの挙動を学習すると、練習までは高い学習効果を発揮できますが、いざ本番となるとパフォーマンスが落ちちゃった!と。

原因としては、緊張によって、練習で体に染み込ませた一連の動作を改めて一つ一つ確認してしまい、記憶容量を食ってしまった可能性が考えられます。こうした学習プロセスは、練習では効果が高い分、使う記憶容量は大きかったりするので、本番の緊張でそれが膨れ上がってしまうと一気にキャパオーバー、パフォーマンスを邪魔してしまうんですね。

電磁気刺激で緊張によるパフォーマンスダウンを軽減できる?

また、他の2つの実験では、実験の流れはそのままに、新しい参加者を用意して、①脳のどの部位が本番の緊張によるパフォーマンス低下に関係しているのか?②その部位に刺激を与えたらどうなるのか?というテーマを検証していました。結果は以下の通り。

  • 本番の緊張によるパフォーマンス低下には、脳の「背側帯状回皮質」という部位の活性化が関係していた
  • 「背側帯状回皮質」に微弱な電磁気刺激を与えて、活性化を鎮めたところ、緊張状態によるパフォーマンスの低下が軽減された

(#1)より引用。緊張に因るパフォーマンス低下が脳のどの部位と関係しているのか?を検証した実験。

(#1)より引用。電磁気刺激によるパフォーマンス低下防止の実験。

上記を踏まえると、本番の緊張によるパフォーマンス低下には、脳の「背側帯状回皮質」が関係しているのは間違いなさそうですね。更に、この部位に電磁気刺激で介入することで、もしかするとスポーツ選手や演奏家たちの本番でのパフォーマンスを今より改善できるかも…?という可能性まで示唆されました。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ざっと以下の点は押さえておくとよろしいかと。

注意
  • 他の競技でどこまで一般化できる内容か?は分からない: スポーツや音楽に似せた学習要素を盛り込んではいるものの、ボタンを押すタスクで得られた結果が他の競技とどこまで関連するか?は不明
  • サンプルサイズは小さい: 各実験では数十名の参加者しか含まれておらず、統計的なパワーは弱い(fMRIを使っていたり大がかりな分、仕方ない点ではある)

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 緊張して本番で本来のパフォーマンスが出せない…には脳の「背側帯状回皮質」という部位が関係していた
  • 本番の緊張の影響を受けやすいのは、タスクの動作を細かく分けて学習する方法を取った場合だった(例: テニスのサーブを、ボールを高く上げる動作・ジャンプする動作・ラケットを振り下す動作、みたいに分割して練習する等)
  • 「背側帯状回皮質」への電磁気刺激によって、活動を鎮めることで、緊張によるタスクのパフォーマンス低下が緩和した

赤羽(Akabane)

個人的には、電磁気刺激の介入で本番の緊張によるパフォーマンス低下を防げるかも…?という結果がハイライトですね。今後、そういった装置が作られて使用を認可されたら、色々なジャンルの人のパフォーマンスが改善できて素敵だなと思います。

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参考文献&引用

#1 Ganesh, G., Minamoto, T. & Haruno, M. Activity in the dorsal ACC causes deterioration of sequential motor performance due to anxiety. Nat Commun 10, 4287 (2019). https://doi.org/10.1038/s41467-019-12205-6