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「心理学系の入門書って正確性に欠けるよね…」と指摘するレビュー研究

「心理学系の入門書って正確性に欠けるよね...」と指摘するレビュー研究

赤羽(Akabane)

今回は「心理学入門書の信頼性や課題」についてのお話です。

「心理学系の入門書って正確性に欠けるよね…」と指摘するレビュー研究

心理学は割かし人気の学問かと思いますが、他の分野に比べて研究の質が問題視されたりと、まだまだ課題のある分野でもあります。

そこでこの記事では、心理学系の入門書を読むにあたって注意しておきたいことについて、参考になるデータを見ていきましょう。

心理学系の入門書を出版するにあたっての課題を指摘したレビュー研究

心理学入門書に対する5つの指摘

2018年にステットソン大学が発表したレビュー研究(#1)では、心理学やその入門書の正確性について、色々な問題点を指摘していました。

早速ですが、指摘の全貌は以下の通りです。

  • 心理学はそもそも範囲が広すぎて一人の専門家ではカバーしきれない
  • だから心理学書を書く際には、あまり詳しくない分野も含めて体系的な見解をまとめなければならない分、情報の正確性はどうしても落ちてしまう
  • また心理学入門などの書物では、著者は「読者に心理学をもっと知ってもらいたい..!」といったプレッシャーを感じたり「何か自分の主張をしなくては」という意気込みがあったりして、客観的な情報というよりは著者の思想が混じってしまうことがよくある
  • 更に近年では心理学界に「再現性の危機」が訪れていて、過去に実証された研究結果が再試で再現できないというケースが多数報告されている
  • つまり、エビデンスに対して客観的かつ中立的な姿勢で臨んでいたとしても、思いがけず間違った情報を伝えてしまっている可能性も高いということ

3つ目に関しては、駆け出しの分野であれば他の分野でも言えることかなと思いますが、他の4つは特に心理学界で問題視されていることですね。

心理学界で議論が分かれる・既に否定されているトピック12個

またこの研究では、定番の心理学入門書24冊をチェックして、以下で並べているような「まだ議論が多いトピック」や「既に否定されてしまっているトピック」をきちんと記載しているか?も調べていました。

ここもザックリと結果をまとめると、こんな感じになりました。

結果
項目 未掲載 バイアス混入 一部バイアス有 バイアス無しの掲載
メディア・バイオレンス 0% 50% 37.5% 12.5%
ステレオタイプ脅威 25% 62.5% 12.5% 0%
ナルシシズム伝染 83.3% 12.5% 4.2% 0%
スパンキング効果 29.2% 33.3% 25% 12.5%
多重知能理論 0% 33.3% 58.3% 8.3%
進化と配偶者の選択 20.8% 25% 37.5% 16.7%
抗うつ剤の効果 4.2% 25% 58.3% 12.5%
キティ・ジェノヴィーズ事件(傍観者効果) 33.3% 45.8% 8.3% 12.5%
朝鮮戦争時の捕虜の洗脳 95.8% 4.2% 0% 0%
脳のブローカ野 25% 70.8% 4.2% 0%
脳の10%しか使われていない説 75% 0% 0% 25%
モーツァルト効果 83.3% 0% 4.2% 12.5%

具体的に、正確性に欠けるトピックに関しては以下の通りです。

まだ議論が多いトピック

  • メディア・バイオレンス:これは世間一般にも入門書にも浸透している話で、メディアなどで報道される暴力的なシーンを見ると攻撃性が高まったり暴力に走りやすくなる!という説です。近年では暴力的なゲームも子どもに悪影響だ!なんて言われていますが、この議論には主張に思想が入り込みやすくて客観的なデータを得るのが難しいという課題があったりします。
  • ステレオタイプ脅威:「数学は女性より男性の方ができる」だとか「黒人は白人よりスポーツができる」みたいな固定観念にさらされると、本当にその結果になってしまうという説です。その通りになる思い込みや恐怖に引きずられてパフォーマンスが落ちることは予想できますが、一般化できるほど普遍的な話ではないようで。
  • ナルシシズム伝染:性格の闇属性「ダーク・トライアド」の一角であるナルシシズムは若い人を中心に広まっているぞ!とする説ですが、後々の追試では統計的な欠陥を指摘する結果も出ていたりします。
  • スパンキング効果:子育てで体罰として子どもを引っぱたくとその子も暴力的に育ってしまうという説です。まだ議論が分かれています。
  • 多重知能理論:「人間には一つの知能だけではない、色々な分野における知能がある!」という主張で、一見もっともらしいですが、これを裏付けるデータが少なすぎると批判も多いです。
  • 進化と配偶者の選択:我々の性行動や配偶者選びにおいて、進化の過程が重要な影響をもたらしているのは間違いないですが、進化心理学には議論が多い点もあって、なかなか研究者たちがその視点から人間の配偶者選択について主張しようとしないという問題があるようです。代わりに社会的な視点からの主張が多くなっていて、こうしたえり好みが結果の偏りにつながっている恐れがあります。
  • 抗うつ剤の効果:実は抗うつ剤があらゆる気分や不安障害の治療に効果的かどうか?は議論が分かれています。

既に否定されてしまっているトピック

  • キティ・ジェノヴィーズ事件(傍観者効果):1964年にアメリカ・ニューヨーク州で発生した殺人事件から生まれた心理現象。被害者のキティ・ジェノヴィーズが暴漢に襲われ、助けを求めたにも関わらず、近所の住民は誰も警察に通報しなかった、という話から「傍観者効果」が提唱されるも、後々の調査によると実際は住民の誰も事件を目撃していなかったことが判明しました。
  • 朝鮮戦争時の捕虜の洗脳:戦時に捕虜になったアメリカ兵士が、洗脳によって共産主義を支持するようにしたり、罪を告白させたりしたという逸話です。しかしこの話は誇張されていたとする見解が強くて、大半が拷問によるものだったようです。
  • 脳のブローカ野:ポール・ブローカ氏が「発見」した脳の領域であると書かれがちだが、実際は医師であるアーネスト・オーブルティン氏が「発見」したもので、発見者はブローカ氏ではない。
  • 脳の10%しか使われていない説:心理学書というより世間一般にもかなり知れ渡っているこの説も今では完全に否定されています。人間は脳の10%しか使えていなくて、残り90%を解放できれば人知を超えた能力を発揮できるのだ、みたいなやつですね。
  • モーツァルト効果:子どもの頃にモーツァルトの音楽を聴いて育つと頭が良くなる!と言われた有名な心理学用語です。後々の再試で全然再現できなくて残念な結果になりました。

こうして見ると、著者のバイアスが混じることなく、きちんと正確な情報が記載されている心理学入門書は意外に少ないんだなぁと感じますね。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • 今回の研究でレビューしたトピックは全てを網羅しているわけではない:他にも「スタンフォード監獄実験」や「フィニアス・ゲージ事故」など怪しいトピックはあるが、今回は含まれず
  • 今回の研究でレビューしたトピックは当研究者が恣意的に選んだもの:当然、今回挙げられたトピックはランダムで選ばれたわけでもないので、多少は研究の主張寄りになるようにバイアスが入り込んでいる可能性がある

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 心理学の入門書は正確性に欠けると指摘するレビュー研究によると、心理学は範囲が広くて一人の専門家でもカバーが難しかったり、どうしてもデータの信頼性が落ちてしまう要因が多いようだ
  • 定番の心理学入門書を24冊集めて中身をチェックしたところ、議論が続いている心理学的な説や既に間違いが証明されている情報に関して正しく記載している書物は意外と少なかった
  • 特に心理学の入門書から得た知識は、ただ暗記して「固定的な知識」として覚えるのではなく、いつ変わってもおかしくない「流動的な知識」として常に追い続けるのがベターかも

「体罰で子どもを引っぱたくのは本当に悪影響?」「男性の方が数学ができるって本当?」多くの学生がこうした疑問を持っていることを私たちは知っている。学生たちは皆、自然と答えを欲していて、入門書の著者たちもそういった質問に答えようと必死である。(特に政治的に正しいとされる答えであればなおさら) しかし本当の答えとは、しばしば複雑で、私たちの知るところではないものである。しかしそれが科学、特に人間心理における科学である。そしてそれこそが、私たちが忠実に報告するべきものなのである。[筆者訳]

赤羽(Akabane)

近年、心理学界に激震をもたらしている再現性の危機ですが、他にも以下のような追試結果が出ています。「全く再現できない!」という否定から、「こういう状況だと再現できなかった!」という部分的な否定まで色々あって細かいですが、押さえておくとよろしいかと思います。

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参考文献&引用

#1 Ferguson, C.J., Brown, J.M. & Torres, A.V. Education or Indoctrination? The Accuracy of Introductory Psychology Textbooks in Covering Controversial Topics and Urban Legends About Psychology. Curr Psychol 37, 574–582 (2018).