赤羽(Akabane)
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握力で健康レベルがよく分かる?骨や筋肉の強さにとどまらず早死にリスクまで予測できるかもしれない
前回、腕立て伏せで将来の心血管疾患リスクが予測できるかも?というデータを紹介しましたが、今度は「握力であらゆる健康レベルが分かるかも!」というデータを見ていきます。
腕立て伏せで将来の心血管疾患リスクが予測できる?!
握力が筋力や骨密度から将来の早死にリスクまであらゆる健康と関係している?
2019年にキャンベル大学が発表したレビュー研究(#1)によると、握力の強さは色々な健康レベルを示す良い指標になるようです。
この研究では、過去の握力に関する研究を集めて、ザっと以下のような項目との関連性を報告してくれています。
- 全身の筋力: 下半身の筋力を測定する別のテストと組み合わせることでより信頼性の高い指標になる
- 上半身の機能性: 握力は上半身全体の筋力や機能性とも関連が見られた(11kgの重りを運ぶテスト等)
- 骨密度・骨折リスク: 全身の筋肉量よりも関連性が深い指標であることが分かっている
- 転倒のリスク: 高齢者の骨折リスクとも関わっている
- 栄養失調: 悪液質の患者では握力が弱いといった相関が報告されているが、単体では栄養失調の指標として弱いという主張もある
- 二型糖尿病: 予備軍や患者で握力が弱い傾向が見られ、血糖のコントロールや空腹時血糖値などの数値とも関連性が確認されている
- 認知機能: 高齢者や慢性疾患患者の間で実行機能の低下や「MCI(Mild Cognitive Impairment)」との関連が報告されている
- 睡眠障害: 中年や高齢者の間で低い睡眠の質や睡眠障害などとの関連が報告されている
- 精神疾患: 高齢者の間でうつ病との関連が報告されている
- 人生の質(QoL): 慢性疾患患者の間で握力の弱さとQoLの低下の関連が報告されている
- 早死にリスク: がんや心血管疾患などの生活習慣病による死亡リスクや、総死亡リスクとの関連が報告されている
- 入院リスク: 緊急入院したり、それによって亡くなるリスクとの関連が報告されている
中でも関連性を報告するデータが多いのは、早死にリスクです。がんや心血管疾患に因る死亡リスクや総死亡リスクに関しては複数のメタ分析が発表されていて、他にも単体の研究ですが骨粗しょう症や腎障害、肺炎などといった疾患との関連性が報告されていました。
ちなみに、全体的な握力の基準として用いられていた数値は、男性で30、女性で20前後でして、これを下回ると上記の健康レベルが低下する傾向があるということになります。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- 因果関係を裏付けるものではない: 今回の結果は全て横断研究などから導き出されたものなので、握力が直接健康レベルに影響しているということにはならない
- 握力の基準は項目ごとに標準化されていない: 握力の基準やそれぞれの項目との関連度は研究によってバラバラで、この辺りを標準化した研究はほとんどない
- 大半は高齢者や何等かの疾患患者を対象にしている: 健康な人や若い人も対象に含めた研究はほとんど見られず、今回の結果はこうした層には当てはまらない可能性が高い
*横断研究…過去のデータから複数の要素間の関連性を分析する手法で、これだと他の要素の影響を調整しきれない。(XとYに相関が見られても、YがXに影響していることもあるし、別要素Zが影響をしている可能性もある)
「じゃあ握力を鍛えれば寿命が延びるんだ!」といった単純な解釈にはならない点と、あくまで高齢者や慢性疾患持ちの方に当てはまる話かも..という点は注意が必要ですね。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 主に高齢者や慢性疾患持ちの間で、握力の強さが全身の健康レベルを予測する強い指標になり得ることが判明
- 全身の筋力や骨密度、骨折や転倒のリスク、体の機能、栄養失調、二型糖尿病、認知機能低下、睡眠障害、精神疾患、人生の質(QoL)、早死に・入院リスクといった項目と相関を示す研究結果が報告されていた
- 握力の基準は標準化されていないが、多くの研究で男性30、女性20前後という設定で、これを下回ると健康レベルの低下との関わりが確認されていた
赤羽(Akabane)
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#1 Bohannon RW. Grip Strength: An Indispensable Biomarker For Older Adults. Clin Interv Aging. 2019;14:1681-1691. Published 2019 Oct 1. doi:10.2147/CIA.S194543