赤羽(Akabane)
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「時間が足りない…」現代人を圧倒的に悩ませる【時間貧困】が急増している?
持っているお金に差こそありますが、少なくとも現代においては「時間が足りない…」という感覚に襲われる方も多いのではないでしょうか?
「時間貧困」とは?
2020年にハーバードビジネススクールが発表したレビュー研究(#1)では、「時間貧困(Time Poverty)」という概念についてまとめてくれていました。
時間貧困とは、文字通り「やらなきゃいけないことが多すぎて時間が足りない…」と感じることでして、現代では物質的な豊かさよりもこっちが問題になってきている!とのことです。
物質的な豊かさを追い求める「物質主義」のパラドックス
確かに、日本でいう高度経済成長期くらいまでは、物質的な潤いは人間の幸福に繋がると考えられていたようですが、やがて1974年に突入すると、ペンシルバニア大学のリチャード・イースターリン氏が奇妙な研究(#2)を発表します。その見解はこうです。
米国での1946年からの調査データでは、高い収入は全体的により大きな幸福を伴うわけではないことが分かった。[筆者訳](#2)
これは米国に絞った結果で、他の国ではちらほら物質的な潤いと幸福度の相関が見られたりしたようですが、これ以降、同じような結果を示す研究結果がたくさん報告されるようになりました。
「時間貧困」を強く感じるほど幸福度は低下し仕事や生活に支障が出るかも
ここで登場するのが「時間貧困」という概念でして、「やることが多すぎる…!」「時間が圧倒的に足りない…」といった焦燥に駆られ続けることで、ザっと以下のような項目に支障が出るかもしれないようです。
- 幸福度・人生満足度
- メンタルヘルス
- 仕事のコントロール感・パフォーマンス
- 家庭内の関係
- 疲労感・ストレス
ただし、これらの結果はアンケート調査によって相関があったものにすぎず、データとしてはまだ不十分です。あくまで、その一端に「時間貧困」が関係しているのかも…?程度に留めておくとよろしいかと。
「時間貧困」を引き起こす社会・組織・政府・心理的な原因とは?
これについて、研究チームは社会・組織・政府・心理面に分けてそれぞれ以下2つを挙げていました。
社会的な2つの原因
- 社会の構造の変化: 家庭は以前ほど安泰したものではなくなり、仕事のキャリアも年の功ではなくなってきている。また、時間給を貰っているワーカーたちはより時間の意識が芽生えやすく、時間貧困に囚われやすいのかもしれない
- インターネットや携帯端末の普及: こうした技術が広まったことで、人はどこに居ても無数の経験や情報に触れる機会が得られるようになった。すると、そうした機会を逃すまい、周囲に遅れをとるまいと、不安に駆られつつ莫大な時間を費やしてしまう
組織的な2つの原因
- 不要なアイドルタイムが多すぎ: 作業が出来ない、もしくは作業をしていない時間のことで、ミーティングへの出席や課題、その他の役割のせいで自分の生産性を発揮する時間がとられてしまっている
- ワーカーのまとまった時間を奪いすぎ: 居る意味のないミーティングや社会的な義務などによってワーカーたちの時間を小刻みに奪っている。これによって、彼らはまとまった時間が確保できず、マルチタスク状態に陥ってしまい、仕事にも焦りが生まれてしまう
政府的な2つの原因
- 必要な許可の申請に時間がかかりすぎ: 税の免除やライセンス、教育面での補助、ヘルスケアなどなど、生きる上で必要になってくる諸々の手続きにかかる手間や時間が莫大
- 通勤時間がかかりすぎ: 最近では改善されてきているが、通勤時間が長くなりがちなことも時間貧困の一つの要因。政府ができることとしては、会社の近くに住むワーカーに対する家賃補助などが挙げられる
心理的な2つの原因
- 時間の重要性を甘く見ている: 人はお金よりも時間ならたっぷりある、という風に時間の有限性を甘く見積もる傾向があるようだ
- 時間はお金よりも小さな損失に気づきにくい: 「〇〇ヵ月」というように莫大な時間であれば、人はその失われた時間に意識が向きやすいが、ちょっとやそっとの時間では失っていることに気づきにくいようだ
ちなみに、米国において、アイドルタイムによって失われた年間の総額は何と1000億ドルにものぼるというデータ(#3)もありまして…。こうして改めてデータと向き合うと、ゾッとしますね。
まとめ
では最後に今回のまとめになります。
- 時間貧困とは、「やらなきゃいけないことが多すぎて時間が足りない…」と感じること
- 時間貧困は強く感じるほど幸福度や人生満足度が低下し、メンタルヘルスや家庭環境など様々な生活面に支障をきたすかもしれない
- 時間貧困が起こる原因には、社会全体から政府、組織、個々人の心理的な働きまで、あらゆる要素が絡んでいると考えられている
赤羽(Akabane)
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#1 Giurge, L.M., Whillans, A.V. & West, C. Why time poverty matters for individuals, organisations and nations. Nat Hum Behav (2020). https://doi.org/10.1038/s41562-020-0920-z
#2 Richard A. Easterlin. Does Economic Growth Improve the Human Lot? Some Empirical Evidence. Nations and Households in Economic Growth, Essays in Honor of Moses Abramovitz, 1974, Pages 89-125.
#3 Brodsky, A., & Amabile, T. M. (2018). The downside of downtime: The prevalence and work pacing consequences of idle time at work. Journal of Applied Psychology, 103(5), 496–512. https://doi.org/10.1037/apl0000294