赤羽(Akabane)
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睡眠障害は自殺の強力なリスク因子だ!はどこまで本当なのか?
睡眠に何らかの障害がある人は、うつ病や双極性障害、不安障害などの発症リスクが高いことが分かっています。それだけ、上質な睡眠は良好なメンタルヘルスときっても切れない関係だという事です。
そして、兼ねてから言われているのが、睡眠障害と自殺リスクの関連性。今回はこのテーマについて新たなまとまった見解を見ていきます。
睡眠障害と自殺の間には確かに相関があるが…
2020年にフロリダ州立大学が発表したメタ分析(#1)の結論では、睡眠障害はたしかに自殺のリスクと相関が見られたけれど、その影響は言われてる程デカくないのでは…?という風になっていました。
この研究では、1982〜2019年に発表された42件の過去研究を集めて、睡眠障害と自殺願望・遂行・自殺による死の相関関係をまとめています。
*全体の7割は成人のみを対象に、3割は調査開始時に18歳未満の青少年を対象にしていた
それぞれの研究の調査期間は、最短1日〜50年、平均で5年くらいでした。期間にかなりバラつきがあるのが若干気になりますね。
そして上記の分析結果をまとめると、ザッとこんな感じになりました。
- 全体で見ると、睡眠障害を抱える人は自殺願望や遂行のリスクが高かった (オッズ比:1.59, 95% CI 1.46–1.73)
- 不眠症は、特に自殺願望を抱いてしまうリスクの重要な予測因子だった (オッズ比: 2.10, 95% CI 1.83–2.41)
- 悪夢を見る傾向は、特に自殺の遂行リスクの重要な予測因子だった (オッズ比: 1.81, 95% CI 1.12–2.92)
まとめると、全体的に睡眠障害を抱える人は確かに自殺にまつわるリスクが高いことがわかりましたが、オッズ比を見るとそれ程高くはありません。また、細かく見ると、不眠症や悪夢を見る傾向の影響が強いという可能性も示唆されました。
加えて、この分析では他の要素との関連性もチェックしてくれていまして、ザックリと以下のような結果になっています。
- 睡眠時間…どの項目とも有意な相関なし
- 睡眠の質…自殺願望を抱くリスクと有意な相関あり、その他は相関なし
- 入眠までにかかる時間…どの項目とも有意な相関なし
- 疲労感…どの項目とも有意な相関なし
- 睡眠効率…どの項目とも有意な相関なし
こうしてバラバラに見ても、睡眠障害と自殺リスクの関係は言われている程強固なものではないのかな…?という感じがします。もっと他の要因も組み合わさって、はじめて自殺に思い至るのではないかと。
注意点・まとめ
ただし注意点として、ザッと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- 結果のばらつきが大きかった: 調査の中身や期間などのバラつきが影響しているのか、研究間の結果のバラつきが大きかった
- 一部の結果で出版バイアスの恐れがあった: 自殺願望の項目で、各研究チームにとって都合の良い結果を報告する研究ばかりが出版されている可能性が高い(つまりデータの信憑性・質が落ちるということ)
- 一部の結果はデータが少なくて検証できなかった: 細かい分析のところでは、現時点でデータが少なくてまとまった見解が出せない項目が結構あった(自殺願望は割かし多くのデータがあったが、自殺による死のデータはその性質上なかなか集まりにくい)
メタ分析ではあるものの、中身の研究それぞれの質はあまり高くない印象ですね。とはいえ、睡眠や自殺に関するステータスを何年も追跡して実験を行うのはすごい大変なので、今できる限界かと思います。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 兼ねてから、睡眠障害は自殺願望や遂行のリスクを高める重大な要素だという研究結果がちらほら報告されていた
- 今回のメタ分析でも、ご多分に漏れず睡眠障害と自殺関連のリスクの相関を示す結果になったが、あまり強力なものではなかった
- 不眠症は自殺願望を抱くリスクを特に高め、悪夢を見る傾向は自殺遂行のリスクを特に高める可能性が示唆された
赤羽(Akabane)
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参考文献&引用
#1 Harris, L.M., Huang, X., Linthicum, K.P. et al. Sleep disturbances as risk factors for suicidal thoughts and behaviours: a meta-analysis of longitudinal studies. Sci Rep 10, 13888 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-70866-6