赤羽(Akabane)
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【仮想現実の可能性】VRで他人に対する共感力までアップ?
VR(Virtual Reality)
とは、「仮想現実」のことでして、頭に装置を着けるとバーチャルが体験できるアレです。近年では、暴露療法などの心理療法にも応用できるのではないか?と非常に注目されています。
というわけで今回も、VRが友好的な人間関係を築く一助になるかも?というデータを見ていきます。
【暴露療法】VR(バーチャルリアリティ)は恐怖症の克服に効果がある?
VRでDVを体験してもらう実験!参加者らは脳科学的にも共感力がアップ?
2020年にユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが発表した研究(#1)によると、VRで他人のトラウマ体験などを疑似体験してもらうとその人への共感力が高まる!という面白いことが分かりました。
この研究では、20名の男女(18~28歳)を対象にVRを体験してもらう実験を行っていまして、これに対する参加者らの反応やfMRIを使った脳波測定も同時並行で観察するという流れになります。
題材は「ドメスティックバイオレンス(DV)」でして、参加者は女性の視点に立って、男性がその女性に暴言を浴びせている場面を体験します。一点、本番を体験する前にVRに慣れるための訓練をしておりまして、この時、誰視点で訓練をするのか?を2パターンに分けて比較したようです。
- 一人称の立場…訓練から本番の女性として立ち回る
- 三人称の立場…女性を見ている傍観者として立ち回る
当然、当事者の女性でVRに慣れた場合とただの傍観者では映像に対するリアクションが違うことが予想されます。そしてこれと同じ実験を1週間空けて行い、参加者全員に両方のパターンを経験してもらったようです。
果たして、実験の結果は以下のようになりました。
- 女性として立ち回った参加者は、より女性の体に没入しており、まるで自分が本当に体験しているような感覚だったと答えた
- こうした主観的なリアクションを裏付ける脳波の動きも観測されており、女性として立ち回った場合でのみ、脳の前頭頂のネットワークやその周辺がVRの動きにシンクロしていた
- 女性として立ち回った参加者では、映像内で男性が近づいてきたときに脅威を感じる脳波の動きが観測された
まとめると、女性視点でVRを見続けていた人では、その女性に対する共感レベルが主観的・脳科学的に高まっていた!という感じです。
今回シンクロしていた「前頭頂のネットワーク」には、具体的に運動前野や上頭頂小葉、体性感覚皮質、頭頂間溝、縁上回などが含まれました。また、男性が近づいた時の脅威の感覚としては、情動を司る偏桃体の活性化が観測された様子。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、以下の点は押さえておくと良さそうです。
- サンプルサイズは小さい: fMRI研究ではありがちで、参加者の数が少ない。その分、統計的なパワーは弱くなる
- 体験の内容は1パターン: DV被害を受ける女性というシナリオしか実験していないので、他の特徴を持った体験ではまた違った結果になる可能性もある
- 性別による差までは調べられていない: 今回のシナリオで言えば、男性は女性よりも恐怖心が薄いのではないか?といったリアクションの違いが予想できるが、そこまでは分析していない
ちなみに、fMRI実験は高価なようで、一度にたくさんの参加者を集めると大変な額になるという難点があります。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- VRで家庭内暴力の被害を受けている女性の視点を疑似体験すると、当事者視点で見ていた参加者はより女性の体に没入していた
- fMRIによる脳波測定でも、女性視点で立ち回った場合のみで前頭頂のネットワークやその周辺がVRの動きにシンクロしていた
- VR内で男性が近づいたとき、女性視点に没入している人では脳の偏桃体が活性化しており、脅威を感じていた
赤羽(Akabane)
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#1 Aline W. de Borst, Maria V. Sanchez-Vives, Mel Slater, Beatrice de Gelder. First-Person Virtual Embodiment Modulates the Cortical Network that Encodes the Bodily Self and Its Surrounding Space during the Experience of Domestic Violence. eNeuro 20 April 2020, 7 (3) ENEURO.0263-19.2019; DOI: 10.1523/ENEURO.0263-19.2019.