【仮想現実(VR) × アプリの認知行動療法】で高所恐怖症は克服できるのか?

【仮想現実(VR) × アプリの認知行動療法】で高所恐怖症は克服できるのか?

赤羽(Akabane)

今回は「VRと認知行動療法を組み合わせて高所恐怖症を克服?!」というお話です。

【仮想現実(VR) × アプリの認知行動療法】で高所恐怖症は克服できるのか?

仮想現実(VR)についてはご存知の方も多いかと思いますが、認知行動療法の方は知らないという方もいらっしゃるのではないかと思います。

認知行動療法とは、患者の「思考のクセ」に着目して、その悪癖を矯正していくことでメンタルの改善を目指す治療法でして、整形外科のメンタル版みたいなイメージでしょうか。科学的にもデータが揃ってきていて、かなり幅広い治療効果が認められています。

というわけで、この記事では「VRと認知行動療法を組み合わせて高所恐怖症を克服しよう!」という面白いデータを紹介します。

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段ボールのVRゴーグル×認知行動療法アプリで高所恐怖症を克服できるようだ

2020年にアムステルダム自由大学が発表したRCT(#1)によると、コストを抑えたVRゴーグルと認知行動療法アプリだけでも、高所恐怖症をかなり克服できることがわかったようです。

この研究では、高所恐怖症を抱えた193名(18~65歳)を対象に、彼らを以下の2つのグループに無作為に分ける実験を行いました。

  • VR-CBTグループ(96名): 高所恐怖症克服に特化した認知行動療法アプリ「ZeroPhobia(#2)」と専用のVRゴーグルを使って、各自に与えられた6種類のVRアニメーションプログラムをこなす(1つにつき5〜40分程度)
  • コントロールグループ(97名): 実験期間中はなにもしない。VR-CBTグループの順番待ち。

*プログラムをこなすペースは、実験期間の3週間内であれば各自で好きに調整可能

(#2)より引用。段ボールでできたVRゴーグル。

実験自体は3週間で、その後も3ヶ月時点まで追跡調査を行ったようです。そして、実験前後と追跡期間終了時点に高所恐怖症度や不安・鬱症状レベルなどをチェックして、グループ間でどのくらい差が出るのか?というところを比べています。

すると結果は、こんな感じになりました。

結果
  • VR-CBTは、コントロールグループよりも有意に追跡期間終了時の高所恐怖症レベルを下げた (d = 1.14[95% CI, 0.84-1.44]; b = −26.73 [95% CI, −32.12 to −21.34]; t191 = −9.79; P < .001; adjusted R2 = 0.52)
  • cyber sicknessその他、不安症レベルも低下したが、一方で鬱症状レベルや主観的な健康レベルには有意な効果はみられなかった
  • VR-CBTによる高所恐怖症克服効果は、アプリを使い易いと感じた場合や、VRにより没入できたと感じた場合、サイバー病をより感じやすかった場合で特に高かった

*サイバー病(Cyber Sickness)…VRなどの画面を見ることで、吐き気を催したり気持ち悪くなったりする、乗り物酔いみたいなもの

まとめると、VR × 認知行動療法アプリで高所恐怖症がかなり改善された!と。「d = 〇〇」の数値は効果量といって、直感的に効果の大きさを示しています。今回の結果は、一般的な基準に照らすと「効果大」となります。

また、こうした効果が高くなる条件としては、ユーザがVRにちゃんと没入できていて、アプリの使いやすさを実感していることが挙げられました。副作用に関しては、強いて言えばサイバー病(VR酔い)でしょうが、今回の結果からは「VR酔いすら体験していた方が高い効果が得られるかも..?」ということが分かっています。この辺りの原因は不明ですが、没入感が強いほど、より一層VR画面の影響を受けやすくて、それに伴ってVR酔いが起こるのかな?なんて推測してみたり。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • 最終的なサンプルサイズは小さい: VR-CBTでは実験を最後までやり遂げた割合は49%と少なかった(コントロールグループでは91%)
  • 参加者は限定的: 今回の対象はイギリス人のAndroidユーザのみに絞られていて、他の特徴を持つ人でどこまで一般化できる内容なのか?はハッキリしない
  • 実験期間は短い: 追跡期間もあわせて3ヶ月までの効果しか追えておらず、年単位の長期的な効果はどうなるかわからない

では最後に、以上を踏まえて今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • VRゴーグルと認知行動療法アプリだけでも、高所恐怖症をかなり克服できることがわかった
  • 今回の実験では、認知行動療法アプリ「ZeroPhobia」と段ボールでできた安価なVRゴーグルを使って、各自で治療を行ってもらうだけでも、短期的だが高所恐怖症や不安症レベルが有意に低下する効果が確認された
  • VR × 心理療法の効果は、ここ最近でもかなり確立してきていて、かなり期待できる治療法だと言える

赤羽(Akabane)

VRをメンタルの問題解決に応用しよう!という気運はここ最近でもかなり高まってきています。VRを使えば、今回のような曝露療法も気軽に試せますし、いきなり恐怖の対象と向き合わせるよりも段階を踏めて良さげかと。私も高いところは苦手なので、気が向いたらアプリを試してみようかな…

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参考文献&引用

#1 Donker T, Cornelisz I, van Klaveren C, et al. Effectiveness of Self-guided App-Based Virtual Reality Cognitive Behavior Therapy for Acrophobia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2019;76(7):682-690. doi:10.1001/jamapsychiatry.2019.0219

#2 ZeroPhobia.app. ZeroPhobia. accessed on 25th July 2020.