赤羽(Akabane)
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VR(バーチャルリアリティ)は恐怖症の暴露療法に役立つのか?
VR(バーチャルリアリティ)とは「仮想現実」のことで、現実には起こっていないけれど、まるで本当の世界のような景色や経験を堪能できる技術のことですね。
最近では、こうしたヘッドセットを装着することで、VRの仮想現実を体験することができて、私もかなり興味があります。
というわけで、この記事では「VRの仮想現実を使えば恐怖症も克服できるかもよ?」という面白いデータを見ていきます。
VRで恐怖症の克服ができる…?
2019年にレーゲンスブルク大学が発表した系統的レビュー&メタ分析(#1)によると、VRを活用した暴露療法は、通常のものと同じくらい恐怖症に効果があったようです。
この研究は、9件の関連したRCTから恐怖症性不安障害患者371名(18~72歳)を対象にしたもので、それぞれの実験では、参加者を以下の2つのグループにランダムで振り分けています。
- VR暴露療法グループ:仮想現実で恐怖対象を再現して直面させる治療法(高所恐怖症ならVRで高いところを体験させる等)
- 通常暴露療法グループ:「in vivo 暴露療法」という、普段の生活の中で恐怖対象と直面させる治療法
恐怖症には、広場恐怖症や社交恐怖、その他特定の恐怖症(クモ恐怖症、飛行機恐怖症)が含まれていて、実験前後で不安障害の診断スケールを使って、参加者らの恐怖症改善レベルをチェックしていきました。
そしてこうした実験の効果をまとめた結果、以下のようなことがわかりました。
- VRも通常の暴露療法も、同様に恐怖症改善に高い効果があった
- 両者を比較すると、わずかに通常の暴露療法の効果が高かったが、有意な差は見られなかった(g = -0.20)
- 恐怖症別に見ると、広場恐怖症には全く差が見られなかった(g = -0.01)が、特定の恐怖症に対してはわずかに通常の暴露療法で高い効果(g = -0.15)が、社交恐怖に対しては、有意に高い効果(g = -0.50)が見られた
まとめると、VRを使った暴露療法でも恐怖症に高い効果があって、通常のものにも引けを取らない程であったということですね。
「g = 〇〇」は効果量(効果の大きさをわかりやすく数値化したもの)で、社交恐怖を除けば、両者には大きな差はないことが分かります。社交恐怖でのみこうした差が見られた要因は、よくわかっていません。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ザッと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- サンプルサイズは小さい:含まれた研究数とそれぞれの参加者が少ない分、統計的なパワーが弱いので、結果がインフレしている可能性がある
- 改善レベルは全てセルフレポートだった:恐怖対象をどのくらい避けるか?といった客観的な恐怖症レベルの診断は行なっていないので、結果に主観が混じる
- 対象になった恐怖症は少ない:他の恐怖症に対しても同様の効果があるのか?はわからない
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- VRの仮想現実を使った暴露療法は色々な恐怖症を改善する効果があった
- 従来の暴露療法と比べると、VRを用いた暴露療法でも一部を除いて恐怖症に同等の効果が見られた
- 今後は具体的に、どんな恐怖症に効いてどんな恐怖症にはあまり効かないのか?まで検証できればかなり参考になる
赤羽(Akabane)
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#1 Wechsler TF, Kümpers F, Mühlberger A. Inferiority or Even Superiority of Virtual Reality Exposure Therapy in Phobias?-A Systematic Review and Quantitative Meta-Analysis on Randomized Controlled Trials Specifically Comparing the Efficacy of Virtual Reality Exposure to Gold Standard in vivo Exposure in Agoraphobia, Specific Phobia, and Social Phobia. Front Psychol. 2019;10:1758. Published 2019 Sep 10.