90分のお昼寝が学習効率を高めてくれるメカニズム:【脳の記憶を司る海馬が回復する】

90分のお昼寝が学習効率を高めてくれるメカニズム:【脳の記憶を司る海馬が回復する】

赤羽(Akabane)

今回は「お昼寝が学習効率を高めてくれるメカニズム」についてのお話です。

90分のお昼寝が学習効率を高めてくれるメカニズム:【脳の記憶を司る海馬が回復する】

90分のお昼寝は記憶力のパフォーマンスアップにも効果的!

2020年にシンガポール国立大学が発表したRCT(#1)によると、90分のお昼寝を挟むと記憶テストの成績がアップし、これは脳の海馬の機能が回復しているおかげだ!ということが分かりました。

この研究では、健康な40名(平均23歳)を対象に記憶テストの成績を比較する実験を行っています。実験前夜は各自でいつも通り眠ってもらい、当日は13:00からMRI装置を装着し、80語の英単語で構成された記憶リストを覚え、1時間くらい後に記憶テストを一度実施した様子。そこから、彼らを以下2つのグループにランダムで振り分けたようです。

*記憶テスト…出題元のリストは単語が順番にペアで構成されており、ある単語から次の単語を想起して答えていくという流れ
  • お昼寝グループ(20名): 90分お昼寝をし、その際の睡眠データを睡眠ポリグラフ検査で測定する
  • 起きているグループ(20名): ドキュメンタリーを観ながら起きている

その後、寝ぼけの影響を減らすために30~45分の休憩が与えられ、16:30から二度目の記憶リスト取り込みを行い、1時間ほど置いて17:40に二度目の記憶テストをやっていきます。

すると実験の結果、以下のようなことが分かりました。

結果
  • (グループ分け前の)初回の記憶テストでは、両グループで有意な差はなかった
  • 二度目の記憶テストでは、お昼寝をしたグループで有意に成績が良かった(昼寝: 20 ± 4% vs. 起: −1 ± 3%; p<0.001)
  • 初回~二度目にかけて、お昼寝をしたグループでのみ記憶リスト取り込み時に左海馬の活性化が強くなっており、これとノンレム睡眠時の紡錘波に関わりがあった

まとめると、90分のお昼寝タイムを挟んだグループでその後の記憶テストの成績がすこぶる善くなった!と。そしてこれは、お昼寝によって記憶を司る「海馬」が休まった結果なのでは?という脳科学的な裏付けも取れました。

またこの実験では、二度の記憶リスト取り込み作業前に主観的な眠気度や注意力のテストも行っていたんですが、ここでは両グループで大した差は見られず。厳密には、起きていたグループで若干眠気度は高かったものの、取るに足らない差でありました。つまり、お昼寝の効果は、注意力や眠気の回復によるものではなく、記憶力の回復に起因する可能性が高いだろう、と。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • サンプルサイズは小さい: MRIを使った実験や比較実験では維持費が特にかかるので、参加者の規模が小さくなりがち。その分、統計的なパワーは弱くなる
  • サンプルは限定的: 若者を対象にしており、高齢者ではまた違った結果になるかもしれない
  • 実験期間は短い: 一日のみの検証でデータが少ないため、数週間以上にわたって続けた場合の変化などは分からない

今回の実験では、MRIや睡眠ポリグラフ検査などの高水準な装置を使っており、客観的なデータが豊富なのが素晴らしい点です。その反面、実験の維持費が高くついたのか、データの規模が小さいのが今後の課題でしょうか。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 90分のお昼寝を挟むと、ずっと起きていた場合よりもその後の記憶テストの成績がアップしていた
  • 注意力や眠気は両者で大差がなく、お昼寝グループでのみ初回~二度目の暗記フェーズにかけて海馬の活性化が確認されたことから、お昼寝の効果は脳の記憶力の回復を通して起こると考えられる
  • こうしたお昼寝の学習効果には、お昼寝中のノンレム睡眠ステージにおける紡錘波と相関があった(睡眠中の特定のステージが記憶学習に影響を与えている可能性が高いということ)

赤羽(Akabane)

お昼寝はやはり認知機能の一時回復に良さそうですね。今回の実験では90分と割かし長い時間でしたが、その場合は寝ぼけが起きることは想定しておくべきでしょう。学校や仕事のお昼休みに仮眠を取る場合は、10分くらいにしておくとよろしいかと思います。

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参考文献&引用

#1 Ju Lynn Ong, Te Yang Lau, Xuan Kai Lee, Elaine van Rijn, Michael W L Chee, A daytime nap restores hippocampal function and improves declarative learning, Sleep, Volume 43, Issue 9, 1 September 2020, zsaa058, https://doi.org/10.1093/sleep/zsaa058