情けは人の為ならず?他人を想う親切な行動は自分の痛みまで和らげるみたいだ

情けは人の為ならず?他人を想う親切な行動は自分の痛みまで和らげるみたいだ

赤羽(Akabane)

今回は「他人の為の行いが自分の痛みを和らげる」というお話です。

利他的な行いは自分の痛みまで和らげるみたいだ

周りの人の為に何かをすることが、回りまわって自分にもメリットがあることが分かってきています。

2018年にオックスフォード大学が発表した系統的レビュー&メタ分析(#1)でも、他人に親切にした方が自分の幸福度も高まるという結論に至っていたりします。

というわけでこの記事では、他人の為の行いが自分の痛みまで和らげるかも..?というデータを見てみましょう。

利他的な行いであらゆる痛みが緩和される?

2020年に北京大学が発表した研究(#2)によると、利他的な行いをすると体のあらゆる痛みを和らげる効果が確認されたようです。

この研究では計5つの実験を行っていて、ザっと以下のようなセッティングで利他的な行いの効果を確かめていました。

  • 四川地震の血液ドナーとして採血をする場合と定期的な身体検査として採血をする場合で痛みの度合いを比較する
  • 移民労働者の子どもに向けてボランティアでハンドブックを作ってあげる場合と、その申し出を断ったり義務としてやった場合で氷水に手を浸した時の痛みや持続時間を比較する
  • 止血帯で痛みを発生させながらアンケート調査を行う実験によって、震災の犠牲者への寄付金10元を手にするグループと、更に追加で10元を報酬としてゲットできるグループで痛みへの反応を比較する
  • 孤児を助けるために自腹で寄付をするかどうかを決めるグループと、2種類の図形が同じ形をしているか?を見極めるグループに分けられ、その後脳をfMRIでスキャンする実験を行い、続く電気ショックに対する反応を比較する
  • 入院しているがん患者を対象に7日間の実験を行った。彼らを2グループに分けて、片方では病棟の公共スペースを皆のために毎日掃除をし健康的な食事メニューをグループワークで共有するが、もう一方では自分たちのエリアのスペースのみ掃除をして看護師から健康な食事の講義を受けるのみとし、両者でがんによる体の痛みにどんな差が出るか?と比較する

要は他人を想っての行動が、その後の急性・慢性的な痛みの感覚を和らげてくれるのか?を主観的(セルフレポート)にも客観的(fMRIスキャン)にも見ているんですね。

そして結果として、以下のようなことが分かりました。

結果
  • 利他的な行いは、その後の採血時の針や氷水などによる急性の痛みを緩和して、耐性を高めた
  • 孤児への寄付をしたグループでは電気ショックによる痛みに対する脳の前帯状皮質と島皮質の反応が減っていたり、寄付した直後には前頭前野腹内側部(VMPFC)が活性化していた
  • 病棟の公共スペースを掃除したり他の患者のために健康な食事プランを発表したグループでは、その後がんによる体の慢性的な痛みがもう一方のグループよりも緩和していた

まとめると、他人を想っての行いは、その後の一時的に感じる痛みからずっと続く慢性的な痛みまで、あらゆるタイプの痛みを和らげる効果があったんですね。

しかもこうした結果は脳のfMRIスキャンからも裏付けられていて、利他的な行いをした場合では痛みの感覚と関係している脳の部位の反応が落ち着いていました。また利他的な行いの直後には、情動に関係するVMPFCという部位も活性化していて、この反応は「有意義なことをした」という主観的な感覚とリンクしていたようです。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、今回対象になったのは中国の人のみです。つまり人種や文化の違いがあるので、同レベルの効果をどこまで期待していいのか?までは分からないという事です。

また慢性的な痛みに対しては、検証実験数が少ないので、まだ初歩の段階かと思います。この辺りは今後の追試に注目ですね。

注意
  • どこまで一般化できるか?問題
  • 慢性的な痛みの検証はまだ少ない

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 利他的な行いは自分のあらゆる痛みまで和らげるみたいだ
  • 今回の研究では、利他的な行いによって針や氷水、電気ショックといった急性の痛みから、がんによる体の慢性的な痛みまで幅広く効果が見られた
  • こうした結果は脳のfMRIスキャンからも裏付けられていて、利他的な行いをした後は痛みの感覚に関係する脳の部位の活動が抑えられていたり、逆に「有意義なことをした」という気持ちに繋がる脳の部位が活性化していた

赤羽(Akabane)

他人を想っての行動や親切心は自分まで救ってくれる!と。自分を犠牲にしてまで他人の為に動ける人はそうそう多くないと思いますが、「情けは人の為ならず」精神を持っていれば随分ハードルも下がるのではないでしょうか!

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参考文献&引用

#1 Oliver Scott Curry, et al. Happy to help? A systematic review and meta-analysis of the effects of performing acts of kindness on the well-being of the actor. Journal of Experimental Social Psychology,Volume 76, May 2018, Pages 320-329.

#2 Yilu Wang, et al. Altruistic behaviors relieve physical pain. PNAS January 14, 2020 117 (2) 950-958.