赤羽(Akabane)
目次
日頃からストレスを感じている人ほど脳の実行機能の働きが鈍って自己コントロールが効かなくなる?
参加者らの日頃のストレス度と実行機能の関連を調べた実験
2020年にドレスデン工科大学が発表した研究(#1)によると、普段から慢性的なストレスを抱えている人ほど、脳の実行機能のパフォーマンスが低く、短期的な誘惑に対する抵抗力が弱まっているということが分かりました。
この研究は、日頃から慢性的なストレスを感じている338名(19〜27歳)を対象に、7日間の自己コントロール能力に関するESM実験を行ったものです。
*ESM実験…普段の暮らしの中で参加者にランダムで通知を送り、その時の様子を記録していく手法
そして、過去3ヶ月のストレス度を調査し、ESMで集めた日頃の自己コントロール能力の結果をまとめて分析し、9つの脳の実行機能を測定するテストをやってもらったようです。実行機能は、長期的な目標に向けて目の前のことに打ち込むモチベーションを保ったりするのに欠かせないものでして、以前からストレスを受けるとここの機能が阻害されると言われてきました。
果たして実験の結果、こんなことがわかりました。
- ESMで普段から慢性的にストレスを感じている人ほど、実行機能テストのパフォーマンスが低い傾向があった
- 慢性的ストレスが高い人で、実行機能の高さと欲求に対する「それをやっちゃダメだ!」という気持ちの逆の相関が弱まる傾向が見られた
- 慢性的ストレスや実行機能の高さは、欲求に対する抵抗力や実際にその行為をしてしまうかどうかとは相関が見られなかった
少し分かりにくいかもしれませんが、要は普段から強いストレスを感じている人では、実行機能が上手く機能せず、欲求に対抗する自制心が弱まっているかも!という感じになります。
ただし一方で、慢性的ストレスの強さは欲求に負けて実際にその行為をしてしまうかどうか?にはあまり関係がなかった様子。この辺りに関して、研究チームは以下のように述べていました。
ストレスによって欲求に対する抵抗が弱まらなかったことに関しては、ストレスが脳の他の領域に対しても同時に影響を及ぼしていたということで幾らか説明がつく。例えば、ストレスによる認知コントロールの低下は、同時にサリエンスネットワークが活性化することで打ち消される。[筆者訳]
サリエンスネットワークは、デフォルトモードネットワークや中央実行ネットワーク(実行機能)と並ぶ脳のネットワークの一つでして、意識⇔無意識の切り替えを司る領域であります。つまり、このネットワークが活性化すれば、今の自分に関して何等かの「気づき」が得られたり、メタ認知が働くことで、短期的な欲求を上手く処理できるようになるんではないか?と。この辺は少々複雑な話ですね〜。
*メタ認知…遊戯王でいう「もう一人のボク」的な視点から自分を客観視すること。認知のコントロールに役立つと言われている
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ざっと以下の点は押さえておくと良さそうです。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 普段から慢性的にストレスを感じている人ほど、実行機能テストのパフォーマンスが低い傾向があった
- 慢性的ストレスが高い人で、実行機能の高さと欲求に対する「それをやっちゃダメだ!」という気持ちの逆の相関が弱まる傾向が見られたが、欲求に対する抵抗力や実際にその行為をしてしまうかどうかとは相関が見られなかった
- 研究チームによると、ストレスは実行機能に影響を与えると同時に、他の脳の領域にも影響を及ぼしていて、こうした効果が相まって結果を複雑にしている可能性があるようだ
赤羽(Akabane)
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#1 Wolff, M, Enge, S, Kräplin, A, et al. Chronic stress, executive functioning, and real‐life self‐control: An experience sampling study. J Pers. 2020; 00: 1– 20. https://doi.org/10.1111/jopy.12587