赤羽(Akabane)
目次
慢性的な持病があっても適度な運動をすれば死亡リスクが下がるかもしれない
がんや心疾患など。慢性疾患の患者の運動量と早死にリスクの相関をまとめたメタ分析
2020年にフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクが発表した系統的レビュー&メタ分析(#1)によると、週に180分歩くのと同等の運動を行うだけでも、慢性疾患による死亡リスクが低下する可能性があることが分かりました。
この研究では、28件の過去研究(うち3件RCT)を集めて、慢性的な疾患を持つ患者が運動量を増やすと疾患による死亡リスクは下がるの?という点をまとめています。
- 対象になった慢性疾患は、乳がんが12件(27,248名)、二型糖尿病が6件(32,221名)、虚血性心疾患が8件(42,027名)、COPDが2件(4,784名)だった
- 他にも腰痛や骨粗鬆症、肺がん、脳卒中なども対象だったが、条件にマッチする研究がなかった
- 運動の量は週当たりのMETs(メッツ)-hourを基準にした
METsとは、運動の強度を表す単位でして、安静時を1として、その何倍のエネルギーを消費するか?でその運動のキツさを表現します。例えば、普通に歩く分には3〜3.5くらい、程々の速さでのサイクリングやランニングは8メッツくらいと言われていますね。今回はこれに「hour(1時間)」という時間の単位も掛け合わせて、「どのくらいの強度の運動をどのくらいの時間やるのに相当するのか?」というところまで算出していました。
そして3.3〜18.4年の追跡期間で、対象者らの運動量と死亡リスクを分析した結果、以下のようなことが分かりました。
- 週ごとに運動量が10METs増えるごとに、乳がんによる死亡リスクが22%、虚血性心疾患が12%、COPDが30%、二型糖尿病は4%低かった(ハザード比にて算出)
- こうした死亡リスクの低下は、どの疾患も0~10METsの運動量増加で急激に起こり、その後は緩やかに低下していく傾向が見られた
10METsと言われてもイメージしづらいですが、具体的には180分のウォーキングや86分のランニングに換算できます。これを1週間でこなせばいいので、習慣にしてしまえばそれ程大変な量ではないかと思います!
また、運動量の増加によって慢性疾患の死亡リスク低下が特に見込めるのは、運動ゼロ~そこそこの運動量の間くらいだそうで、それ以上追い込むことによる追加のメリットはあまりないようです。もちろん、運動以外の他要素もこの結果に影響は与えているんでしょうが、年齢や地域、亡くなった方の数といった要素を調整したうえでも、同様の結果が出たみたいです。
注意点・まとめ
ただし注意点として、以下の点も押さえておくと良さそうです。
- 一部研究データが少ない: COPDのデータはかなり少ないので、その分結果のリスク低下が大きく出ているかもしれない
- 結果のバラつきがかなり大きい: 今回対象になった全ての疾患の結果で、バラつきが非常に大きいと判断された
- 各研究の運動量データの精度が低い: 運動量の測定は、全研究で参加者のセルフレポート制を採用していたので、主観が混じりやすい。より客観性を期すなら、活動量計などを使えたら良かった
複数のデータをまとめるメタ分析ではよくある話ですが、結果がバラバラだったり、一部のデータが不足していたり、まだ課題は多いような気がします。
では最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 週に180分歩くのと同等の運動を行うだけでも、慢性疾患による死亡リスクが低下する可能性がある
- 週ごとに運動量が10METs増えるごとに、乳がんによる死亡リスクが22%、虚血性心疾患が12%、COPDが30%、二型糖尿病は4%低かった
- こうした死亡リスクの低下は、どの疾患も0~10METsの運動量増加で急激に起こり、その後は緩やかに低下していく傾向が見られた
赤羽(Akabane)
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#1 Geidl, W., Schlesinger, S., Mino, E. et al. Dose–response relationship between physical activity and mortality in adults with noncommunicable diseases: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies. Int J Behav Nutr Phys Act 17, 109 (2020). https://doi.org/10.1186/s12966-020-01007-5