若者の「ネットいじめ」と自傷や自殺行為の根深い関係

若者の「ネットいじめ」と自傷や自殺行為の根深い関係

赤羽(Akabane)

インターネットが普及したことで、我々の生活の利便性は格段に高まりました。ところが、そういった恩恵ばかりではなく、一方でSNSなどでの誹謗中傷といった問題も浮き彫りになっています。そして「ネットいじめ」なる言葉が生まれる体たらく。こうした問題はどんな波紋を呼んでいるのでしょうか?

若者の「ネットいじめ」と自傷や自殺行為の根深い関係

若者のネットいじめと自傷・自殺行為の関係性はこれ程までに深い

2018年にスウォンジー大学が発表した系統的レビュー&メタ分析(#1)では、ネットいじめとあらゆるメンタルヘルスの問題の間には一定の関わりがあることが分かりました。

この研究は、33件の研究から156,384名分のデータを集めて、ネットいじめがもたらす悪影響についてまとめてくれています。中でも、今回は子どもや若者をターゲットにしていまして、自傷行為や自殺などのケースと絡めて調べていました。

すると結果、うち25件の研究でネットいじめの被害ケースと自傷行為、自殺行為に関わりがあると報告されており、ネットいじめの加害ケースに関しても、自殺行為と関わりがあると報告されていました。一方で、こうした相関がないと報告した研究はわずか5件でした。

更に、この研究では条件にマッチした23件の研究をまとめて、上記の相関関係が具体的にどれ程のものなのか?を分析してくれています。結果はこんな感じでした。

結果
  • ネットいじめの被害を受けた人とそうでない人を比べると、自傷行為にはしるオッズ比は2.35倍、自殺行為にはしるオッズ比は2.10倍、自殺念慮を抱くオッズ比は2.15倍だった
  • ネットいじめをしたことがある人とそうでない人を比べると、自殺行為にはしるオッズ比は1.21倍、自殺念慮を抱くオッズ比は1.23倍だった

まとめると、ネットいじめ被害者は自傷・自殺行為にはしりやすく、自殺を考えることもあった!と。一方で、データは少ないものの、加害者の方もこうした傾向がやや見られたようです。

ネットいじめはどんな形で横行しているのか?

今回分析対象として含まれたうち4件では、具体的なネットいじめの内容まで調査してくれていました。

  • Eメール
  • SNS(MySpace)
  • ショートメッセージ

ほとんどが2010年以前の研究だったからか、ネットいじめの主流はEメールだと報告されていました。もっと最近の研究では、恐らくTwitterやInstagramなどのSNSが主流になるのではないかなと思います。

いじめの内容はリアルとさほど変わらず、「陰口をたたいて笑いものにする」「許可なく他人の写真をアップする」「怒らせたりからかうようなメッセージを送りつける」みたいなものがあった様子。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ざっと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • 大半の研究は北米のもの: 19件がアメリカ、7件がカナダで行われており、アジア圏の研究は数件あるものの、日本の研究はない
  • 因果関係を証明するものではない: 含まれた研究は観察研究などで、集めたデータから相関を導き出すやり方。これだと他の要素の影響を考慮しきれないので、因果関係の特定は難しい
  • 調査データは割と雑: 自傷行為や自殺に関するアンケート調査はあまり確立されておらず、有効性が裏付けられていないものが多く使われていた。中には「(自殺を考えたことが)あるかないか?」だけで終わるような単純すぎる調査もあり、データの精度は揺らぐ

特に因果関係には注意が必要でして、今回記事のタイトルを「ネットいじめが自傷行為や自殺行為を促進させる!」などとしなかったのは、この部分がはっきりしていなかったからです。もしかすると、精神的に追い込まれて自殺を考えているような人がネットで他人を攻撃していた、みたいな逆パターンもあり得ますからね。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 若者のネットいじめと自傷行為や自殺行為との間にはネガティブな関係性が確認された
  • 特にネットいじめ被害者では、そうでない人よりも自傷行為や自殺行為にはしったり、自殺を考える傾向が見られた
  • データが少し古いかもしれないが、ネットいじめではEメールやSNS、ショートメッセージなどが媒体に使われており、リアルでもあるような嫌がらせや陰湿な陰口などが横行しているみたいだ

赤羽(Akabane)

ネットいじめの恐ろしいところは、リアルと違って見知らぬ人まで簡単に攻撃できてしまうところです。匿名でもやれる分、気軽に色々な人をターゲットにできますし、情報の拡散力も非常に高いので、使い方次第では凶暴な武器になり得るでしょう。ネットリテラシーの欠如などもあって、我々はこうした武器の威力を甘く見ている節があると思いますし、この辺りのテーマを扱った教育を早い段階から本腰を入れてやっていくべきだと思っています。

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参考文献&引用

#1 John A, Glendenning AC, Marchant A, Montgomery P, Stewart A, Wood S, Lloyd K, Hawton K. Self-Harm, Suicidal Behaviours, and Cyberbullying in Children and Young People: Systematic Review. J Med Internet Res. 2018 Apr 19;20(4):e129. doi: 10.2196/jmir.9044. PMID: 29674305; PMCID: PMC5934539.