卵の常識「一日一個まで」は科学的にウソか本当か?【心臓疾患、糖尿病のリスク】

2019年4月22日考察編, 魚・肉類その他


ひと昔前の通説では

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「卵は一日一個まで」とは使い倒された言い回しですね。それほど世の中に浸透している説だということでしょうが、そもそもどうしてなのでしょうか?

2012年のディビッド・スペンサー博士らの研究(#1)に代表されるように、「卵の食べ過ぎは心臓疾患のリスクを高めるぞ」という報告が「卵一日一個まで」説の根幹を支えていました。ですがもうすっかりこの説は見直されてきています。新しい説に入る前にまずは説を強める基になってるこの研究の内容を見ていきましょう。
 

  • 参加者は血管病予防で病院に定期通院している1262人
  • 平均年齢は61.5歳、男女は半々くらい
  • ライフスタイルに関するアンケートを記入してもらう
  • 参加者の血管内のエコー検査をする
  • アンケートの具体的な内容は以下の通り
アンケート内容
喫煙歴、卵の週間消費量、卵の消費習慣の長さ(何か月、何年)、来診情報etc

 
ポイントは参加者層ですね。年齢層が高めな上、定期的に血管病の予防通院をしている人々なので元々心臓疾患のリスクが高い人たちだと考えられます。結果は次のようになりました。
 

  • 年齢が40歳を超えたくらいから頸動脈プラークが増えていた
  • 特に喫煙習慣と卵をたくさん食べる習慣があるとこれが大幅に増えていた
  • 週に3回以上卵を食べる習慣の或る人は週に1回の人よりプラークが増えていた

 
血管にプラークが溜まると動脈硬化などが起こって、それが脳梗塞や心臓疾患なんかに繋がるのはイメージしやすいですね。ですがこれだけで「卵を食べると心臓疾患にかかるぞ!」と主張するのはいささか早計な気もします。というのも、この結果が健康な人にも当てはまるとは言えないから。ということで最近の研究を少し見てみました。
 

 


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最近の研究では「卵を食べても心臓疾患のリスクは高まらない」が濃厚説

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例えば2013年に発表されたメタ分析(信頼性の高い研究)による研究(#2)によると、卵の摂取量が増えても心臓疾患や全体の死亡率とは関係がないという結果が出たようです。研究内容は次のようなかんじです。
 

  • 16の関連論文から22のコホート研究を選出
  • 西欧の国が多め、アジアの国もあり
  • 22の研究の総参加者は558770人(単純計算で)
  • 年齢層は20~90歳、健常者や糖尿病患者など
  • 平均追跡期間は11.3年間(6~20年)
  • 調査された病気一覧は以下の通り
調査対象の病気一覧
心臓疾患(冠状動脈性心疾患、虚血性心疾患、心臓発作)、糖尿病

 
集めた研究が観察研究である分サンプル数が多くて追跡期間も長い点は強みですね。結果は以下の通り。
 

  • 卵の摂取は心臓疾患全般と死亡リスクと相関がなかった
  • 卵を全く食べない人と比べると1日1個かそれ以上食べる人は二型糖尿病のリスクが42%高まった
  • 糖尿病患者では卵を1日1個以上食べる人で心臓疾患のリスクが69%高まった

 
ここで「糖尿病」という第二のキラが登場してきましたが、まずはどうして卵の多量摂取が心臓疾患のリスクに関係ないのかを探りましょう。研究の中で次のような要因が挙げられています
 

  • LDL(悪玉)だけでなくHDL(善玉)コレステロールも増えているから
  • 卵を食べたところで血中コレステロール濃度に大した影響がない可能性があるから
  • 卵に含まれる他の栄養が心臓疾患リスクを下げてる可能性があるから

 
最初の2つに関しては次の2つのメタ分析が説明してくれます。食事からのコレステロール摂取がHDL(善玉)、LDL(悪玉)コレステロールにどう影響するかを調べた2001年のメタ分析(#3)によると次のことが分かりました。
 

  • 一日100mg(卵半分くらい)食事からのコレステロールの摂取を増やすとHDL、LDL両方が少し増加した

 
LDL(悪玉)だけでなくHDL(善玉)も同時に増えた、というのがポイントです。他のメタ分析(#4)でも次のことが分かりました。
 

  • 一日一個の卵を摂ることでHDL、LDL値の両方が上昇した
  • LH比には変化が無かった、つまりHDL-LDLのバランスに変化はなかった

 
このLH比は心臓疾患のリスクを測定する大事な指標になります。このバランスがLDL(悪玉)の方に傾くと脂質異常症にかかりやすくなって、これが心臓疾患への引き金となるのですね。

更にもう一つ、食事からのコレステロール摂取と心臓疾患のリスクを調べた2015年のメタ分析(#5)では次のような事が報告されています。
 

  • 食事からのコレステロール量が多くても心臓疾患のリスクには影響なし
  • 食事からのコレステロール量が増えるとHDL、LDL値の両方が上昇した

 
総コレステロール値は上昇しているにもかかわらず心臓疾患のリスクには影響なし。ここまで見てきた研究と一貫していますが、どうしてなのでしょう?この理由については次のように考えられます。
 

体内で大半のコレステロールは生成されていて、食事から多く摂取された場合は体内生成からの吸収を抑えるように肝臓が調整するシステムがあるから

 
つまり、食事から摂取されるコレステロールが少ない場合は体内生成からの吸収を増やして、食事から多く摂取された場合は体内生成からの吸収を減らすように体内で調整されているのですね、賢いです。
 

卵食べ過ぎの別の問題「糖尿病」

Diabetes=糖尿病
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さて、ここまでで「卵一日一個」説の元になる「卵を食べてると心臓疾患のリスクを高めるぞ」という考えは否定されました。しかし上で見たメタ分析(#2)によって別の問題が浮上。それは「卵の摂取による糖尿病のリスク」と「糖尿病患者が卵を食べると心臓疾患のリスクが高まる」というもの。

実は1999年の研究(#6)でも似たような結果が出ていて、一般的には卵の心臓疾患リスクは無かったのに、糖尿病患者が卵を多く摂ると心臓疾患のリスクが高まるという報告が出ています。研究概要は次の通りです。
 

  • 参加者は37851の男性と80082人の女性
  • 男性は8年間、女性は14年間追跡した
  • アンケートを各所で参加者にやってもらった
アンケートの種類
看護師が健康状態を診断するアンケート、卵や他の食事内容を聞くもの、総エネルギー摂取量、アルコールや喫煙など心臓疾患リスクの要素について聞くものetc…

 
アンケートで得たリスクに影響を与えうる要素たちはしっかり調整したようです。では結果を見てみましょう。
 

  • 卵(卵を含む食べ物含む)を食べる量で心臓疾患のリスクは変わらなかった
  • しかし糖尿病患者の間でのみ卵を食べる量が多いと心臓疾患のリスクが高まった

 
どうして糖尿病患者だけ卵をたくさん摂ると心臓疾患のリスクが高まるのでしょうか。原因として考えられるのは以下の要因です。
 

  • 糖尿病患者は高血糖に加えて、血しょう中の脂肪濃度も高いとされている
  • そこに卵のコレステロールが加わることで体内の脂質状態に異常をきたしているかもしれない

 

結論は?

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今回の研究をまとめると、やはり従来の「一日1個まで」くらいにしておいた方が良いのかな?という感じでしょうか。しかしながら、個人的に言うと「卵は一日何個まで?」という考え方自体ちょっと変ではないかと思います。というのも、卵の調理法が無視されていますし、その他の食事とひっくるめて考える方が遥かに自然だから。

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赤羽(Akabane)

ということで「卵一日何個まで」論争でした。結論としてはまずこの説の根幹である心疾患リスクの上昇が否定されまして、色んな研究を統合すると一日一個ならひとまず大丈夫そうかと。一方で糖尿病の方が卵を食べ過ぎると心疾患リスクは上がる様子。「1日〇個がベスト」みたいなことは断定できないものの、卵に対する悪いイメージは払拭されたのではないかと思います。

参考文献&引用

#1 Spence JD,Jenkins DJ,Davignon J,”Egg yolk consumption and carotid plaque“,Atherosclerosis,Vol.224,No.2,pp469–473,2012.

#2 Jang Yel Shin, Pengcheng Xun, Yasuyuki Nakamura, and Ka He,”Egg consumption in relation to risk of cardiovascular disease and diabetes: a systematic review and meta-analysis“,The American Journal of Clinical Nutrition,Vol.98,pp146–159,2013.

#3 Weggemans RM, Zock PL, Katan MB. “Dietary cholesterol from eggs increases the ratio of total cholesterol to high-density lipoprotein cholesterol in humans: a meta-analysis.” The American Journal of Clinical Nutrition,Vol.73,pp885–891,2001.

#4 Clarke R,Frost C,Collins R,Appleby P,Peto R,”Dietary lipids and blood cholesterol: quantitative meta-analysis of metabolic ward studies.“BMJ,Vol.314,pp112–117,1997.

#5 Samantha Berger,Gowri Raman,Rohini Vishwanathan,Paul F Jacques,Elizabeth J Johnson,”Dietary cholesterol and cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis“,The American Journal of Clinical Nutrition,Vol.102,No.2,pp276–294,2015.

#6 Frank B. Hu,Meir J. Stampfer,Eric B. Rimm,JoAnn E. Manson,Alberto Ascherio,Graham A. Colditz,Bernard A. Rosner,Donna Spiegelman,Frank E. Speizer,Frank M. Sacks,Charles H. Hennekens,Walter C. Willett,”A Prospective Study of Egg Consumption and Risk of Cardiovascular Disease in Men and Women“,Journal of the American Medical Association,Vol.281,No.15,1999.

# 株式会社ライフメディコム「頸動脈プラークとは」
http://www.myclinic.ne.jp/imobile/contents/medicalinfo/top_naika/suzuken_naika_126/mdcl_info.html「2018年3月21日アクセス」

# OMRON All for Healthcare「『LH比』を目安にコレステロールを見直す」
https://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/life/110.html「2018年3月21日アクセス」

# 一般社団法人 日本疫学会「コホート研究」
http://glossary.jeaweb.jp/glossary006.html「2018年3月21日アクセス」